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「それは高い!」


 僕は〈お宿 砂ぎつね〉のカウンターにいた。

 アシュリーに宿を聞くと勧められたのがここなのだが。


「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ。アシュリーの知り合いだっていうから値引きしてやってんだよ?3200シェルだ」


 ぽっちゃりとした宿の女将さんはイライラした様子で話す。旅人からぼったくってやろうという感じはしないのだが、それにしても高い。レイロアの宿屋だったら500シェルといったところだ。


「アノー、何ナラ私ハ馬小屋ニデモ」


 ジャックが遠慮がちに言う。


「馬鹿にしてるのかい!?馬小屋は馬が泊まるもんだよ!」

「ヒイッ、スイマセンスイマセン」

「言っておくがね、うちより安い宿なんてまともな所じゃないよ?」

「のえるサン、のえるサン」


 ジャックが小声で話す。


「ん?」

「私、ココニ来ルマデ宿ヤ露店ナド見テタノデスガ」

「そう言えばきょろきょろしてたね」

「コノ街、物価高イデス」

「えっ、そうなの?」

「ハイ、カナリ。ココハ良心的ナ価格ダト思イマス」


 僕とジャックのひそひそ話を黙って見守っていた女将さんがにやりと笑う。


「すいませんでした。3泊お願いします」

「あいよ!2名様、ご宿泊~!」


 案内された部屋はなかなか良い部屋だった。これで汚い部屋だったら泣けてくるってものだ。


「ジャック、悪いけど3日だ」


 ジャックはマントのフードを脱ぎながら答えた。


「イエ、高イノニアリガトウゴザイマス」


 物価の高さは予想外だった。帰りの馬車代も必要だから3泊が限界だ。

 これは効率良く調べなければ無駄足になるな。ベッドに体を投げ出し、予定を吟味する。


「ジャックも横になったら?」

「私ハココデ平気デス」


 ジャックは窓辺のイスに腰かけ、往来を覗いていた。

 僕は再び予定を考え始めるが、久しぶりの布団の感触に一瞬で眠りに落ちた。




 ヴァーノニア2日目。

 この街は僕が入ったヴァーノン河沿いの北門と砂漠地帯への入口の南門があり、その2つを一直線に道が通っている。

 その広い道には両脇に所狭しと露店がひしめき合い、お祭りのような賑やかさだ。


「あアン?客じゃねえなら帰った帰った!」


 僕とジャックがこんな風に厄介払いされるのも、もう何軒目かわからない。


「親切ナ方ハイナイノデスカネ」

「困ったね」


 この街の商人達は悪い言い方をすれば不親切、良い言い方をすれば仕事に対して真摯なのだ。僕達の用が人探しだとわかると話も聞いてくれない。


「ちょっと休憩しよう」


 木陰にイスとテーブルを置いた飲物屋に足を向けた。


「ふー」


 よく冷えた果実ジュースを飲んで一息ついた。

 朝から聞き込みを始めたのに、すでに太陽は真上にきている。


「ちょっと聞き方変えよう」


 僕はカバンから紙と鉛筆を取り出した。


「特徴を絵に描いて見せて聞こうか」

「ナルホド」

「全身鎧のスケルトンってだけで相当な特徴だけど」

「エエ。ア、デモすけるとんトハ認識サレナイカモデス。ふるふぇいすノ兜をカブッテイルノデ」

「そうなの?デザインは?」


 ジャックにタルタロス公爵の細かい特徴を聞きながら絵を描いていく。


「えーと、身長がジャックより頭3つ分大きくて青色の全身鎧にフルフェイスの兜。得物はツーハンデッドソードで、それを片手で振り回すスケルトンか」


 こんなの本当にいるのか?ってくらい特徴的な外見だ。


「目立ツハズナンデスガ……」

「そうだね……」


 僕は絵を描きあげ、ジャックに見せる。


「どう?」

「大変特徴ヲ捉エテマス」

「じゃあこれを見せつつ聞き込みしよう」

「ハイ!」


 しかし似顔絵を見せながらの聞き込みも、結果は(かんば)しくなかった。夕暮れも迫り今日の調査もそろそろ終わりかと思い始めた頃。


「すいません、こんな風体の人見ませんでしたか?」

「今忙しいので後にして貰えま……ん?」

「そこを何と……え?」

「ノエル!」

「カシム!」


 予想よりずっと早いカシムとの再会だった。



「カシムは北方に向かったのだと思ってたよ」

「一度北に向かったのですがね。知り合いの商人からキャラバンロードに挑戦しないかと誘われまして。このチャンスに賭けてみようと」

「ほう。挑戦とか賭けるとか言うほど大変なの?」

「一言で言えば苛酷です。その分儲かるのですがね」


 カシムも頑張っているんだな。


「で、ノエルはなぜヴァーノニアへ?」

「ああ、それがね……」


 僕はジャックの悪夢の話をした。


「ふむ。で、この絵の人を探していると」


 カシムが絵を手に取り思案する。


「残念ですが覚えがないですね。こんな人、一度見れば忘れないと思うのですが」

「ソウデスカ……」

「ありがとう、カシム」

「いえいえ、お役に立てず申し訳ない……ギルドには行かれましたか?」

「ギルド?」

「冒険者ギルドです。この街にもありますよ」


 冒険者ギルドはある程度の規模の街ならば大抵は存在する。僕はレイロア以外のギルドを利用したことがないので失念していた。


「そっか、うっかりしてた。さっそく行ってみる」

「そうした方が良いでしょう。探し人の依頼を出すのもアリですよ」

「その手があったね」


 依頼を受ける事ばかりで依頼を出した事は無かったが有効な手段だ。今回は報酬を出すお金がないので見送るしかないが。


「じゃ、気を付けて。見付かるといいね、ジャック」

「アリガトウゴザイマス、かしむサン」

「カシムも気を付けて。キャラバンロードの旅、上手くいく事を祈るよ」

「司祭様に祈って貰えるなら成功は決まったも同然ですね」

「僕は破門されてるから霊験はないよ」

「それは残念」


 僕とカシムはイタズラっぽく笑い合い、別れた。



 僕とジャックは冒険者ギルドへ辿り着いた。

 時刻はすでに宵の口。人は少ない。


「おう、見かけない顔だな」


 カウンターに座ったスキンヘッドの男が声をかけてきた。


「レイロア所属の冒険者、ノエルといいます」

「そうか。俺は受付嬢のリュングベリだ」


 …………嬢?


「えー、実は人を探しているのですが」

「ほう。それは冒険者か?」

「いえ、違います」

「そうなると依頼を出して貰うのが早いな。冒険者ならある程度は把握しているんだが」

「そうですよね」


 リュングベリは少し考えてから尋ねてきた。


「そいつは強いのか?」


 僕はジャックを見る。ジャックは大きく頷いてから答えた。


「エエ、トテモ」

「ふむ、ならば闘技場だ」

「闘技場?」

「南門のすぐ外で日中開催してるんだ。明日は開催日だから行ってみろ。腕に自信があるヤツならそこで稼ぐはずだ」

「なるほど」


 飲食の必要もなく基本的に金のかからないスケルトンではあるが、旅をするなら幾らかはお金が要るはずだ。タルタロス公爵がひと稼ぎしていった可能性は大いにある。


「わかりました。明日行ってみます」

「おう。こっちでも出来る範囲で聞いといてやる」

「ありがとうございます」


 僕達はギルドを出て〈お宿 砂ぎつね〉へと帰った。


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