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「どうしたんだ、ジャック。土下座とからしくないよ……いや、らしいと言えばらしいけど」


 冗談めかして言ってみたが、ジャックのツッコミはない。僕は1つため息をついてから促した。


「わかった。話してみて」


 ジャックは話し難そうに語りだした。


「……夢ヲ見ルノデス」

「夢!?ジャック寝てるの?」


 スケルトンは睡眠を必要としない。習慣として眠る者もいるが、基本的に寝ないのだ。僕はジャックが寝てる所を見たことがない。


「寝テル訳デハナイノデスガ……」

「もしかしてぼおっとしてる時かな?」

「ア、多分ソレデス」

「どんな夢?」

「覚エテナイデス」

「おい」


「……デモ、余韻ハアルノデス」

「余韻?どういうこと?」

「何ニモ覚エテイナイノニ感情ダケハ残ッテイルノデス」

「へえ。どんな感情?」


 ジャックは体を起こした。


「ソレハ幸セデ、満チ足リタ感情」


 ぼんやりと中空を見つめながら語り続けるジャック。


「愛オシクテ懐カシイ、ソンナ感ジデス」

「ふむ、良い夢みたいだね」

「シカシ、何故ソンナ感情ナノカヨクワカラナイ」

「そりゃ覚えていないもんね」

「最後ニ残ルノハ虚シサダケ」

「良い夢ならいいんじゃないの?」


 僕の言葉にジャックは震えるほど強く拳を握った。


「落チ込ムノデス。アア、マタ夢ダッタノカト」


 震えは体全体に広がっていく。


「アノ幸セハ幻ダッタノカト落胆スルノデス!アノ幸セナド何ノ事ダカワカラナイ癖ニ!」

「……それは剣を手にしてから、だね?」


 ジャックは震えながらコクリと頷いた。


「毎日毎日!コンナノガ続イタラ頭ガオカシクナッテシマウ!」


 彼は勢いよく立ち上がり、僕の両手を握り懇願した。


「コレハ良イ夢ナンカジャナイ!悪夢デス!私ヲコノ悪夢カラ解放シテ下サイ!」




 僕達は、まず剣を買った露店商をあたることにした。

 どこで買い取ったのか、誰から買い取ったのか。

 それがわかればジャックの身の上や悪夢の正体がわかるかもしれない。そう思ったのだ。


「また来たのか、骨の兄ちゃん」

「その呼び名は勘弁して下さいよ」


 露店商は場所を変えつつ商売していたので探すのに苦労した。今日は教会近くの道端で(あきな)っていた。


「何か買い忘れたかい?」

「いえ、そうではないのですが……」


 僕はジャックを手招きした。


「彼は生前、あなたから購入した剣の持ち主だったのです。しかし、彼にはそれ以外の記憶がない。彼の身の上を知るために情報が欲しいのです」

「あー、そういやそんな事を言ってたな」


 店主は冊子を取り出した。

 紙を自分で紐で綴じたような見映えの良くない、いかにも手作りといった冊子だ。


「これによるとだな……タルタロスという人物から買い取ったものだな」

「あまり聞かない名前ですね……」

「モシヤ!たるたろす公デスカ!?」

「おお、そうだそうだ!確かに自分の事を公爵って言ってた変わりもんだった!」

「変わりもん?公爵は嘘だと?」

「お供もなく1人だったからな。そんな公爵はいねえよ。まあ、立派な全身鎧は着てたが」

「全身鎧……」

「ああ、間違いねえ。剣よりその鎧売ってくれって頼んだからな。断られちまったがな」


 ガハハッと笑う店主に買った日にちや場所を聞き、露店を後にした。


 帰り道、教会から歌が聞こえた。

 緩やかで荘厳で、どこか物悲しいメロディ。

 教会で働いていた僕にはわかる。

 これは死者を送る歌だ。

 ジャックもそれを知っているのか、足を止め教会を眺めていた。



 家に帰りジャックにタルタロス公爵について聞いた。


「公爵ってのはもしかして生前の知り合い?」

「イエ、死後デス」

「やっぱりそうか。どんな人?」

「人トイウカ、すけるとんデス」

「あー」


 公爵を名乗る全身鎧のスケルトン。

 確かに変わり者だ。


「私ハ荒野デ目覚メマシタ。自分ガ何者カ、ドコニイルノカモワカラズ彷徨イ続ケマシタ」

「いきなり昔語りが始まった」

「コノヘンハ覚エテマスシ」

「まあいいや。続けて」

「ハイ。自分ガすけるとんダト気付イタノハ、アル村ニ入ッタ時デス。石ヲ投ゲラレ、化物トナジラレマシタ」


 スケルトンが村に入り込んだわけだから、その反応は仕方ないと思う。しかし長い付き合いの僕には、ジャックが深く傷付いたであろう事は容易に想像出来る。


「逃ゲテ逃ゲテ……辿リ着イタ川デ、ヨウヤク己ノ顔ヲ見マシタ」


 もし、川の水面に映った自分の顔が骸骨だったら。

 辛いな。


「私ハ側ニアッタ枯木ノ(うろ)ニ座ッテ何日モ何日モ泣キ続ケマシタ」


 涙は出ないけどね、と言いたくなるのをグッと堪える。


「モウ何日泣イタカワカラナクナッタ頃、枯木ノ虚ヲ覗キコム人影ニ気付キマシタ」

「それがタルタロス公爵?」


 ジャックは頷いた。


「彼ハ私ヲ虚カラ引ッ張リ出シマシタ。ソシテ私ニハ何モ聞カズ、自分ノ話ヲ始メマシタ」


 ジャックは上を見上げ、楽しそうに顎骨を鳴らした。


「彼ノ語ル冒険譚ニハ血ガ騒イダモノデス」


 血は通ってないけどね。


「百人ノ傭兵団トノ飲ミ比ベ……」


 相手が何人でも勝つだろうね、飲んでもだだ漏れだし。


「旅ノ果テニ訪レタ街デノろまんすト別レ……」


 ん?骨がロマンス?


「悪名高イどらごんトノ決闘……」


 ドラゴンとソロで戦ったの?


「彼ノ話ニハ胸ガ踊リマシタ」


 なんか胡散臭いな。僕の中で変わり者からペテン師へとクラスチェンジしそうだ。


「最後ニ彼ハ言イマシタ。自分ハすけるとんニナッテコンナニ人生ヲ謳歌シテイル。君ハコンナ所デ泣イテイテイイノカ?ト」


 ふむ。良いスケルトンではあるのだろうな。ペテン師っぽいけれど。


「私ノ体ニ雷ガ走リマシタ。私モ冒険シタイ!ト強ク思イマシタ」

「そしてレイロアに辿り着き、僕に出会った」

「ハイ」


 ジャックは下を向いて指の骨をポキポキ鳴らした。考えをまとめる時のジャックの癖だ。

 ジャックは再び顔を上げた。


「のえるサン。私、たるたろす公ニ会イタイデス!」


 話を聞く限り、タルタロス公爵がジャックの過去を知ってる可能性は低いだろう。

 だが、あくまで目的はジャックを悪夢から解放すること。ジャックの心に響く言葉を紡いだスケルトンに会うのは悪くない選択肢に思えた。


「……わかった。探してみよう」

「アリガトウ、のえるサン!」


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― 新着の感想 ―
[一言] おもろいです。勝手な感想ですが、凄い昔に読んだウィザードリィ題材の小説に似ている気がします。
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