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 ダンジョン7階。

 通称鉱山エリア。

 岩肌が露出した通路が続く階層だ。昔は大量の鉱石が取れた場所らしいが、今では細い鉱脈が残るのみである。

 それでも冒険者にとっては恰好の稼ぎ場だ。普段は鉱石狙いの冒険者で混み合うのだが、今はガラガラに空いている。

 空いている原因は単純明快、春が来たからだ。

 冬の間、レイロアに籠って鬱々としていた冒険者達が春の訪れと共に一斉に外へと繰り出したのだ。

 僕はこの空いている時期を狙って鉱石採集の依頼を受けてやって来たのだが。


「ウア、コッチカラモ来テマス!」

「挟み撃ちか……戦うぞ、ジャック」

「逃ゲタイ逃ゲタイ逃ゲタイ」


 ジャックは言葉とは裏腹に腰の剣を引き抜く。

 今日はジャックと2人だけだ。


「来いっ!」


 僕は霧竜のローブの特異性を引き出した。僕の周りが白く霞む。


「ゴギギギ……」


 前から現れたストーンゴーレムが僕に向かって拳を振るう。だが、大きな拳は狙いを外しダンジョンの床を叩いた。幻影能力は上手く発動しているようだ。


「『フロート』!」


 僕は狙いを外したストーンゴーレムの腕に魔法をかける。触れる事が出来るほど近付く必要はあるが、距離さえ詰めれば『フロート』は優秀な魔法だ。


「グ……ギ……?」


 まるで氷の上にでもいるように足をバタつかせながら倒れるストーンゴーレム。その隙に無防備に晒された頭の核へジャックが剣を突き立てる。


「ハッ!」


 剣は弾かれることなくストーンゴーレムの核に吸い込まれた。石の体がバラバラと崩れていく。


「その剣、やはり良く馴染むようだね」


 ジャックへ声をかけると、彼は手に持つ剣を見つめながら静かに答えた。


「馴染ムト言ウカ、自分デハナイ誰カガ振ッテイルヨウデ……気味ガ悪イデス」


 いつもと様子の違うジャック。剣を買ってあげてから時々こんな調子だ。


「グゴゴゴ……」

「!」

「そうだ、挟み撃ちだった!」


 後ろから迫る新たなストーンゴーレムから逃げながら、僕はジャックに剣を買った日の事を思い出していた。



 ◇



 1週間前。

 ジャックと共に商店街を歩いていると、彼はふいに足を止めた。


「どうした?ジャック」


 ジャックは地面に敷物を広げて商売している露店を見つめていた。どうやら古物商のようで、古めかしい鎧や汚れた銀食器、大きな壺など逸品なのかガラクタなのかわからない物が並んでいた。


「コレ……私ノデス……」


 ジャックが見つめているのは一振りの剣。汚れてはいるが、なかなか出来が良い剣のように見える。


「おいおいおい、言い掛かりはよしてくれ。これらはオレが間違いなく買い取ってきた物だ」


 店主が不快そうに言う。


「あ、そういう意味ではなくてですね……」


 僕が必死に弁明している間も、ジャックは無言で剣を見ていた。


「生前、使っていた物で間違いない?」

「……ハイ。デスガ高イデス。貯金ハタイテモ買エマセン」


 ジャックは意外と金遣いが荒い。度々買ってくるルーシーの絵本だって安くはないし、我が家の戸棚に幾つも並んでいる趣味の悪い置物類は、ジャックが「惚レタ!」とか言って買ってきた物だ。

 従って彼の貯金箱の寂しい中身も想像がついている。

 僕は剣の値段を確認した。安くはない。むしろ高い。

 だが最近ジャックを便利に使いすぎていたので、埋め合わせというか罪滅ぼしのような気持ちで購入を決めた。


「これ、買います」


 僕が店主にそう告げると、ジャックがバッと僕の方を向いた。


「宜シイノデスカ?」

「うん」

「アリガトウのえるサン、アリガトウ……」

「止めてくれ、ジャック。君はこの為に僕に雇われているんだろ?」


 僕が笑うとジャックも顎骨をカタカタと鳴らした。


 この日からジャックは物思いにふける事が多くなった。何を考えているのか聞いてみるが、本人にもわからないらしい。

 今もぼおっと窓の外を見つめるジャックを僕は眺めていた。ふと、鑑定していなかった事に気付きジャックの剣を見つめる。


 騎士叙任式剣+1


 今ではそんな面影はないが、やはりジャックは本当に騎士だったのだろう。

 それも、この剣から考えるに爵位としての騎士。

 ジャックは生きていた頃、どんな騎士だったのだろうか。勇敢な騎士?それとも今と同じくヘタレ騎士?

 恋人はいたのだろうか。結婚は?子供はどうだ?

 彼の生前に興味がわいた。


 ジャックは物思いにふける以外は、特に問題なく過ごしているように見えた。

 剣を買った当初は少し心配だったが、やがて気にしなくなった。



 そして鉱山から帰った翌朝のこと。

 僕は洗濯したローブを庭に干し、サニーや植物達に水をやってリビングに戻ると。

 そこには土下座したジャックが待っていた。


「のえるサン、頼ミガアリマス」


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