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ジャックの履歴書は、こんな内容だった。


《名前》ジャック=ドラゴンクロウ

《性別》男性

《年齢》25歳

《アピール欄》

超有名騎士団の元団長。

一騎当千、勇猛果敢。

異名は【切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー】。

名前付き(ネームド)トロールを単身撃破した経験アリ。

戦闘能力に優れるばかりでなく教養も豊かで、詩歌を詠めばその場にいるすべての者が感涙にむせぶ。

《備考欄》

若くて綺麗な妻と、天使としかいいようがない愛くるしい娘あり。


僕は履歴書を眺めたまま、ぽつりと感想を呟いた。


「……ジャック、盛りすぎ」

「盛ッテマセンヨ!……多少、脚色ヲ加エマシタガ」

「それを盛ってるって言ってんの。だいたい、妻子の話とか書く必要ある?」

「ソノヘンハ、マア……のりデ」

「まったく……」


ドミニクが履歴書を僕の手から奪い取り、その内容を読みつつ大笑いする。


「ブハハッ!コリャ酷エ!ガハハハ!」


ドミニクの態度に、ジャックは口を尖らせた。


「エエ、エエ、オ笑イナサイ!ドウセ私ハ役立タズデスヨ!」

「ガハハッ!ソンナねがてぃぶナコト言ッテルト、二ツ名ガ【役立たず】ニナッチマウゾ?」

「ソンナコトアルワケナイ!デスヨネ、のえるサン!」


ジャックに問われ、僕は口ごもった。


「んー、あー、いや……」

「えっ?のえるサン?」

「オイオイ、まじカヨおーなー!?」

「いや、んー」


答えをためらう僕に、ジャックがすがりついてきた。


「モッタイブラズニ教エテクダサイ!」

「んー。……ジャックさん不採用です?」

「……ハ?ワカッテマスヨ、ソンナコト!」

「そうじゃなくて。二つ名が【ジャックさん不採用です】なの」


つまり、


種族スケルトン【ジャックさん不採用です】


こういうことだ。


「ブハハハ!ソレモウ二つ名ジャネエヨ、おーなー!タダノ台詞ダヨ!」


ドミニクが先程よりいっそう、おかしそうに笑う。


「マタ……マタ変ナ二つ名……」


当のジャックは椅子から床に崩れ落ち、頭蓋骨を抱えた。


「ガハハッ!同情するぜジャック」


励ましてるのか馬鹿にしてるのかわからない態度のドミニク。ジェロームは心底不憫そうにジャックの背中を眺めている。

これはまたネガティブモードになるかもな、と思っていた矢先。

突然、ジャックがスクッと立ち上がった。


「ど、どうした、ジャック?」


心配でそう尋ねると、ジャックはケロッとした顔で言った。


「じゃっくトイウ名前マデ弄ラレタ【ジャッ休さん】ヨリましカナ、ト思イマシテ。……ウン、マダマシダ。最悪ジャナイ」

「な、なんか精神的にタフになったな、ジャック……」



その夜。

僕達は〈夕凪亭〉で面接に行ったジェロームの帰りを待っていた。

ジャスティス不動産の内部情報を得られるかどうかは、作戦の成否に大きく関わる。

ジャックは失敗してしまったがジェロームならばどうか、ということで彼にも面接に行ってもらうことにしたのだ。

だが、彼が出かけてもう半日。

とっくに日は暮れ、深夜といえる時間帯だ。リックとルーシーは同じベッドでぐっすりと眠っている。

ジェロームでダメだとなると、残るはマリウスかドミニク。

正直、期待薄だ。


「ドウセ、じぇろーむサンデモだめデスヨ」

「自分がダメだったからって、そういう言い方はよくないよ、ジャック」

「ソウデハナクテデスネ……」


ジャックはおもむろに〈黒猫団団員マント〉のフードを被った。ジャックの顔が生きた人間のそれになる。


「面接ニ向カウトキ、気ヅイタノデスガ。ふーど被ラナキャイケナインデスヨ」

「そりゃそうだね、スケルトン丸出しでは面接どころじゃないし」

「面接ッテ、礼儀正シクスルモノデスヨネ?ふーど取レッテ言ワレマセン?」

「あー、なるほど」


黒猫団は面接に臨むにあたって、フードを深く被ったままでなければいけない。

ジャックの言う通り、無作法な印象を持たれるのは避けられないかもしれない。


「でも不採用ならすぐ帰ってくるでしょ?」

「不採用ガ恥ズカシクテ帰ッテコレナイノデハナイカ、ト」

「そんな、ジャックじゃあるまいし――」


そのときコンコン、と丁寧なノックがした。

ジャックが扉を開けると、噂のジェロームがお辞儀して入ってきた。


「大変遅クナリマシテ、申シ訳ゴザイマセン」

「ううん、問題ないよ。それで……どうだった?」

「無事、採用サレマシタ」


その言葉に、ジャックは顎骨は今にも外れそうなほどガクンと落ちた。


「面接ハ、社長自ラ行ワレマシタ。ゴロツキ上ガリラシク威圧感ノアル人物デシタガ、同時ニ切レ者ノ印象ヲ受ケマシタ。油断ナラヌ相手デス。アト、わんまん経営者トイッタ感ジデシタナ。社員達カラハ忠誠ヨリモ怯エヲ感ジマシタ」

「ふむ……どんな面接だった?」

「社長カラ『社員の働きに満足できない。どうすればいいと思う?』ト、質問サレマシタ」

「おー、試されてるね。どう答えたの?」

「私ハ、シツケガ足リナイト答エマシタ。続イテ『どうしつけるべきか』ト問ワレマシタノデ、ソノ場ニイル社員ヲ叩キノメシマシタ」

「うお……なんでそんなこと」

「相手ノ趣味ニ合ワセタ、トデモ申シマスカ。教育法トシテハ大間違イナノデゴザイマスガ」

「なるほど。それでうまくいったの?」

「ハイ。社員達ガ泣キナガラ、ヨリ一層ノ努力ヲ誓ウト、社長ハ大変満足シタ様子デシタ。ソノ後モ社員教育ニツイテ聞カレ、コンナ時間トナッテシマイマシタ」

「さすがジェローム。よくやってくれたね」

「過分ナ御言葉……マタ明日ノ晩、報告ニ参リマス」


ジェロームが再び扉の外へ消えると、ジャックがガン!と壁を叩いた。


「悔シイッ!……痛タタタ」


  ◇       ◇       ◇


そして、次の日の晩。

昨晩より早い時間にジェロームはやってきた。


「オ待タセシマシタ」

「お帰り、ジェローム。どう?信用されてる?」

「アノ社長ハ他人ヲ信用スルコトハアリマセン。デスガ、私ノ評価ハ高イヨウデス。本日付デ秘書ニ任命サレマシタ」

「秘書!?それって側近なんじゃない?」

「オソラク」


ジェロームが頷くと、


「……悔シイッ!」


と、ジャックが悔しそうにベッドを叩いた。

壁を叩いても痛いだけだと学習したらしい。


「本題ナノデスガ……別荘ハ、ジキニ売レテシマウカモシレマセン。毎日ノ様ニ下見客ガ訪レテイルヨウデス」

「うわ、まずいな」

「トリアエズ、明日カラ三日間ノ下見客ヲ調ベテマイリマシタ。明日ガ二組、明後日ト明明後日ガ一組ズツデス。明後日ノ客ハ実際ニ宿泊シテミルヨウデスナ。……ソチラノ準備ハイカガデスカ?」


僕はベッドの上の、ルーシーの寝顔を見つめた。


「仕上がりは上々だけど、やってみないとわからないね。……初回は夜がいいな。失敗したときに逃走しやすい」


ジェロームは顎に手を当て、頷いた。


「確カニ。デハ、明後日ニ」

「うん。作戦開始だ」


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