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「あー、退屈ニャー」


 馬車に寝転んだリオが大きく伸びをした。

 御者台にはジャックが座っている。なんでも【鉄壁】とユパ村へ向かう道中、ラシードさんに教わっていたらしい。


「ポーリさんとは仲悪いの?」


 旅の暇潰しにと話をふってみる。


「そんなことはないニャ。あいつとは前のパーティで一緒だったんニャけど、堅物ばっかりで辟易してたニャ。その中では一番マシな奴だったニャ」

「ポーリさんは砕けてるもんね」

「ナーゴ族は自由を愛する民族ニャ。あーしろこーしろとイチイチ言われると息が詰まるニャ」


 その堅物達を思い出したのか、寝転んだままふうっとため息をついた。


「じゃあ、お店の為だけに冒険者辞めたわけじゃないんだ?」

「ん~、両方ニャ。店もいつか必ずやるって決めてたニャ。パーティ辞めたくて少し前倒ししただけニャ」

「店をやるって決めてたのは何か理由があるの?」

「話すと長いニャ」

「いいじゃん、時間はあるし」

「仕方ニャいニャあ……」


 まんざらでもない顔で昔ばなしを始めるリオ。ほんとに長かったので割愛する。まとめると、こうだ。


 10年前。リオがまだ初心者の時。

 なかなか優秀だったらしいリオのパーティは、もう少し、もう少しとダンジョンを降っていった。気が付くと自力で戻れないような場所まで来てしまっていた。何とか上への階段を見付けた時には皆、満身創痍だった。

 そんな時、その階段を降りてきたパーティがいた。彼らは口々にリオ達を励まし、回復魔法やポーションを惜しみ無く使った。更に重傷者を地上まで背負ってくれた。せめてものお礼にと金銭やアイテムを差し出したが固辞された。これが自分達の流儀だからと。

 リオは感銘を受けた。

 自分もこうありたいと願った。

 だが盗賊のリオは回復魔法を使えるわけじゃない。

 怪我人を背負ってやれる体力もない。

 どうすれば冒険者達に貢献できるか。

 考えぬいた末の結論が黒猫堂だったわけだ。


「リオなりの真心の示し方が黒猫堂なんだね」

「そう……そう、黒猫堂はアタイの真心ニャ!」

「じゃあ儲けは二の次なわけか」

「その通りニャ。とは言っても赤字は駄目ニャ……」


 苦々しい顔のリオ。10年越しの思いで作った店がわずか半年で閉店だもんな。僕は黒猫堂を軌道に乗せてやりたいと強く思った。



 ◇



 馬車を走らせること2日。

 ムシュルム湿原に辿り着いた。辺り一面に葦が生え茂り、他には背の低い枯れ木くらいしかみえない。枯れ木にとまったスカベンジャーホークがギャアギャアと鳴いている。

 僕達は真夜中に探索すると決め、それまで仮眠をとることにした。暗闇の中、足場の悪い湿原に入るなど危険極まりない。が、目的がアンデッドのスカウトなのだから仕方ない。

 馬車の荷台に横になると、すぐに睡魔がやって来た。冒険者は何処でも寝れないとね。




「…………エル、ノエルッ」


 揺すり起こされ、ビクンと顔を持ち上げる。すぐ近くにリオの顔があった。


「何か聞こえるニャ……ほら」


 体を起こし耳をすますと、確かに聞こえる。雑踏の音を大きくしたような、何か大勢の気配。

 すぐに荷台を降りる。月が頭上高く昇っていた。僕は胸の十字架をトントンと叩いた。


「んん?知らない場所だー」


 ルーシーはキョロキョロと周りを見回している。驚くリオに軽く紹介しておく。


「僕のもう一人の相棒、ゴーストのルーシーだ。ルーシー、この人はリオ」

「よろしくねー」

「よ、よろしくニャ」

「ルーシー、音聞こえるでしょ?」

「音するねー」

「その音のするところ見えないかな?たかーく昇ってさ」

「んー、やってみる」


 ルーシーはふよふよと上昇していく。やがて地上3階か4階あたりの高さで止まり、音の方見ている。しばらく待っていても降りてこないので声をかけた。


「ルーシー」

「…………」

「ルーシー!」


 呼びかけに気付いたルーシーはふよふよと降りてきた。


「あのねえ、いっぱいいる!」

「何がいっぱいいる?」

「分かんない」

「知らないのがいっぱいいるの?」

「んーん、遠くてよく見えないの」


 何かの群れがいることは間違いない。それも大群が。ひとまず視認できる距離まで行くことにした。危険かもしれないが放っておくのも冒険者としては正しくない。せめて状況を確認せねば。


 ルーシーに先導してもらいながら足場を確かめつつ、進む。音の発生源に近付いてきたが、僕らより背の高い葦に阻まれて何も見えない。やがて音がはっきり聞こえる距離まで来てしまった。何だかリズムをとってるような……?


「……!ここから見えるニャ」


 僕とジャックはリオのそばに寄り、屈んだ。視線の先は葦が途切れ小高い丘のようになっている。そしてその丘には目を疑う光景が広がっていた。


「ス、スケルトンの群れか……いったいどれくらいいるんだ」

「何か儀式のようだニャ……ゴーストもいるニャ」


 丘を中心に円を描くように数百体ものスケルトンが並んでいる。一斉に足を踏み鳴らしたり、手を打ち鳴らしたり、両手を上へかざしたり。ゴーストもその上空で円になり、何事か呪文を唱えている。


「アア、コレハ」

「分かるのかジャック?」

「……死霊ノBone踊リ、デス」



 ――死霊のBone踊り

 アンデッド三大奇行の1つ。円形に整列したスケルトンがゴーストの唱える「オンド」なる呪文に合わせ踊り狂う、世にも恐ろしい狂気の宴である。

 数少ない目撃者である死霊研究家ルック=ハロー氏は晩年、「あれは悪夢だった。信じられないかもしれないが、死霊達は笑っていたんだ。それも百体以上いる全員が。地獄というものがあるならば、あの光景を言うのだろう」と語っている。

 死霊達は何のために踊るのか。それは今もって判明していない。ただ1つ言えるのは、この宴を邪魔してはいけない、ということだ。もし邪魔すれば次の夜にはあなたも円の中にいるだろう。


  出典 死霊異聞録~知られざるアンデッドの世界~




 〈死霊異聞録〉が役に立ってしまった。


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