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試験当日。
僕はジャックを連れてギルドを訪れた。
ギルドの扉を開くなり僕達に気づいたマギーさんが、黙って頷いて、目線で合図する。
目線の先には例の四人がいた。
「おはようございます」
「……オハヨウゴザイマス」
僕とジャックが四人に挨拶すると、あの少年は僕を靴の先から頭のてっぺんまで眺めて、それから僕の顔を見た。
「結局俺達と組むらしいな。始めからそう言えばいいんだよ、便利屋」
「クスッ」
「ほんとほんと」
少年の両脇に陣取る二人が僕達を嘲笑う。
僕は気にしないふりをして、自己紹介をした。
「僕は司祭のノエルです。彼は使い魔のジャック。スケルトンです」
ジャックは黙ってお辞儀する。
続いて、四人も同じように自己紹介を始める。
まずは問題の少年。
「俺はジェドだ。パーティリーダーで魔法戦士な。俺の指示には従えよ?」
ジェドは四人の中で一番高価そうな装備を着用している。上半身を覆うケープは光沢のある美しい生地でできていて、その隙間から見える鎧は銀色に輝く。
腰のショートソードの装飾も素晴らしい。
体格自体は小柄な上に華奢で、前衛としては頼りなく見える。
上から目線が非常に鼻につく。
次に巻き髪の、甘えた話し方の少女。
「わたしは魔法使いのデイジー……あんまりジロジロ見ないでくれるかなぁ?」
デイジーはあまり魔法使いらしくない、露出多目のオシャレなローブを着ている。……ローブというよりドレスなのか?
やはり上から目線が――ジェドに同じ。
三人目は短髪の、元気のいい少女。
「ワンダ。盗賊。足、引っ張らないでよね」
ワンダは、飾りの刺繍も見事な革鎧を装備している。腰のダガーもかなり高価そうだ。同じ盗賊のリオが見たら「何でこんな小娘が……ニ゛ニ゛ニ゛」と悔しがるだろう。
そして上から目線が……以下同文。
最後にいかにもボディガードな大柄な男性。
「私はハルヴァー。戦士だ。よろしく頼む」
ハルヴァーの装備は、よく観察するとかなり古い物のようだった。親か誰かから受け継いだ物、といった感じだ。
古いとはいえ、幅広の剣から盾、金属鎧にいたるまで丹念に磨かれ、新品のように輝いていた。
手入れの仕方だけで、この人の腕が推測できる。
何より、上から目線でないだけで好感触だ。
全員の自己紹介が終わり、僕は他の受験者を観察した。
五人から八人ずつひとかたまりになっていて、そのかたまりは四つ。
かたまりそれぞれがパーティだ。
見覚えのあるのパーティが三つ、残り一つは個人個人には見覚えのあるパーティ。おそらく寄せ集めパーティだろう。
僕達のパーティを合わせて、全部で五つのパーティが受験するようだ。
「よう、司祭さん」
その中から、僕に声をかけてくる人物がいた。
顔見知りの盗賊、トラヴィスだ。
彼はDランクパーティ【精霊の靴】のリーダーで、駆け出しの頃に一度冒険を共にしてからよく話すようになった。
【精霊の靴】は盗賊のトラヴィスに狩人二人、軽装備の戦士二人という、移動速度に特化した変わり種パーティだ。
以前は「バランスの悪い」「逃げ足だけは速い」などと陰口を叩かれていたが、今では「急ぎの依頼は、まず【精霊の靴】に」なんて言われるほど名を馳せている。
トラヴィスは僕のすぐ横まで身を寄せて、ひそひそと話す。
「大丈夫か?あんな連中と組むなんて」
「……彼らを知ってるんだ?」
「そりゃあ、目立つからな。悪い意味でだが」
「だよなあ」
「ここ数日、パーティ募集をかけてたようだが。まあ、あいつらと組む奴はいないわな」
「ここにいるけどね……」
「ククッ、確かに。……まあ、気をつけろ。何てことないないミスが、ああいうパーティだと命取りになるぞ」
「わかった。十分注意する」
ふいに、周囲が騒がしくなる。
試験が始まるようだ。
「黙れ!」
野太い声がギルド中に響く。
声の主がテーブルに飛び乗った。
ガッチリした体型。
スキンヘッドに傷だらけの頭。
ギルド職員のカルロスさんだ。
元冒険者で、【鬼僧侶】の異名で知られる強面ギルド職員。
現役時代は僧侶であるにもかかわらず前衛に陣取り、モーニングスターを振り回していたと聞く。
「よく来た、ヘボ冒険者ども!」
カルロスさんが睨みつけるように、受験者を見回す。
「俺は試験官のカルロスだ!お前達のヘボい実力を見定めてやる。ありがたく思え!」
ジャックが僕に耳打ちする。
「試験ッテ、イツモコンナのりナンデスカ?」
「いや、カルロスさん特有のノリじゃないかな」
戸惑う受験者をよそに、カルロスさんは続ける。
「試験内容を説明する!試験は……これだ!」
カルロスさんはハンカチ大の紙を両手で広げた。
何か、複雑な模様の入っている紙だ。
カルロスさんは受験者に紙を見せ終わると、すぐにクシャクシャっと丸めてしまった。
「これと同じ紙が入った宝箱を、太古の森エリアに設置した!それを回収して戻って来てもらう!お前達のために偽の宝箱も用意してやったからな、ありがたく思えよ?正しい宝箱の数は……」
カルロスさんが四本、指を立てる。
「四つ!つまりお前たちの内、一つのパーティは必ず不合格になるということだ!」
何人かの受験者が、ギルド入り口の方へじりっ、じりっと動き始める。
試験が受験者同士の競争になると察したからだ。
カルロスさんはそんな受験者の様子を気にもせず、受付カウンターを指差した。
「試験のルールブックを置いた!規定に違反したパーティは即刻不合格となる!冒険者として恥ずかしくない行動を心がけろ!では……始めっ!!」
その声と同時に、受験者達はルールブックをかっさらうように受け取り、ギルドを飛び出していく。
「……僕達は出発しなくていいの?」
「ん、うむ」
ルールブックを受け取りにきたハルヴァーに問うと、困った顔で奥の方を振り返った。
壁に寄りかかるジェドに二人が寄り添い、ニヤつきながらコソコソ話している。
「アノー、急ガナイト先越サレチャイマスヨ?」
ジャックが声をかけると、ジェドは不愉快そうに顔を歪めた。
「チッ。スケルトンなんぞに言われなくてもわかってるよ!」
ジェドは壁をバン!と叩いて、早足で歩いてきた。
「まったく……昔から言うだろう。慌てる冒険者は貰いが少ない、ってな!」
「そうなんだぁ。さすがジェド様!」
「頭いいー!」
それっぽいことを言いつつ、ジェドはギルドを出ていった。
デイジーとワンダ、続いてハルヴァーも後を追う。
僕は不安にかられつつ、ジェドを追って大門へと向かった。





