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 落ち着け、落ち着け。

 僕は深呼吸を繰り返し、もう一度メモを見る。


 《家出シマス。探サナイデ下サイ。先立ツ不幸ヲオ許シ下サイ。  ジャック》


「先立つ不幸」の使い方がおかしいし!ってかもうジャックは先立ってるし!

 また荒くなった息を必死に整えながら考えを巡らす。

 原因は昨日の出来事だろう。

 怒らせてしまったとは思ったが、家出するほど傷つけてしまっていたのか。

 家出して何処へ?

 真っ先に思い当たったのは〈黒猫堂〉。次いでヴィヴィやドウセツなどの知り合い冒険者の家。

 だが、そんなすぐ見つかるところにいない気がした。

 僕は、ジャックの部屋の扉を開けた。

 背もたれのある椅子。

 きちんとたたまれた服。

 見覚えのある頭蓋骨型の貯金箱。

 だが、彼の剣や盾がない。

 レイロア内に家出するなら剣や盾は要らない。

 やはり街の外へ出たと考えるべきだろう。

 しかし、街の外に行くところなんてあるのか?

 彼には故郷だとか前の暮らしの記憶がない。

 帰る場所はこの家しかないのだ。

 何処へ行くか見当がつかない。

 ……いや、一つだけあった。

 彼が強敵(トモ)と呼ぶゴブリンの集落。

 あの集落には『テレポート』で行けると思う。

 すぐに転移するか?

 いや待て、落ち着け。

 ジャックが出ていったのは昨夜から今朝の間。

 仮にあの集落に向かっていても、到着するのは数日後だ。

 ならばゴブリンの集落は後回しでいい。

 まずは聞き込みだ。

 目撃情報を集め、行き先を特定するんだ。

 僕は手早く着替えて、街へと飛び出した。

 早足で歩きながらつい、感情が声に出る。


「……探さないでくださいって。探すに決まってるじゃないか!」


 家を出て真っ直ぐに向かったのは西門。

 レイロアの四方にある門には、常に門番が立っている。

 ゴブリン集落へ向かったなら、西門を使ったはず。そして、それを門番が目撃しているはずだ。

 僕が西門に着くと、いつも通り暇そうに門番が立っていた。


「おはようございます」

「ん?ああ、君か」


 この前、西方へ行ったときにもいた門番だ。


「うちのジャック……スケルトンの使い魔なんですが、昨日の夜から今朝にかけて西門を通りませんでしたか?」

「いいや、見てないな。というか今日も誰も通ってないぜ」

「そうですか……ありがとうございます」


 西門を通ってないなら、ゴブリン集落の線は消えたと考えていいかもしれない。

 僕はその足で他の門の門番にも聞き込みすることにした。

 次に向かったのは北門。

 このレイロア一の人の出入りがある門でも目撃情報は得られなかった。

 そして東門。


「おはよう、ロディ、エディ」

「おう、ノエル。おはよう」

「おはよう」


 この二人は東門の門番のロディ&エディ。

 双子の剣士で、僕と同年代の元冒険者だ。

 最近、揃って結婚したのを期に、危険な冒険者を辞めて門番へと転職した。


「あのさ、うちのジャック見てない?」

「見たぞ。なあエディ」

「ああ、見たな。ロディ」

「ほんと!?それはいつ頃?」


 僕の問いに、二人同時に顎に手をやる。


「あれは明け方だったか?」

「そう、確かそうだ」

「ジャックで間違いない?」

「スケルトンだったのは間違いない。なあエディ」

「ああ、ロディ。フードを被っていたが、あれはスケルトンだった」


 フード付きマントも持ち出していたのか。気づかなかった。


「どんな様子だった?」

「さあ、スケルトンの様子はわからんなあ」

「ああ、わからん。ただ、地図を持っていたな」

「地図、ですか?」

「ああ。地図を持って、歩いて出ていった」

「そうだった、間違いない」


 目的地がある、ということか?


「ありがとう、ロディ、エディ。助かった」

「問題ない」

「気にするな」


 双子の門番に見送られ、今度はギルドへと向かった。

 理由は単純。

 地図を売っている場所といえばギルドだからだ。

 ギルドに着く頃には、もう日が高く昇っていた。

 扉を開け、真っ直ぐ購買所の前へと向かう。


「こんにちは」

「やあ、ノエル君。こんにちは。今日は何が入り用だい?」


 購買所担当の小太りなおじさんが、優しい調子で聞いてくる。


「えと、うちのジャックが地図を買いに来ませんでした?」

「ああ、早朝に来たよ!そうだった、そうだった!」


 やっぱりか。

 これでどこの地図を買ったのかわかれば、ようやく行き先に見当がつく。

 そう考えていたら、おじさんが手を出しているのに気づいた。


「ん?何です?」

「お代だよ。ジャック君がツケで買った地図代を払いに来たんだろう?」

「ツ、ツケですか」

「うん?代金を払いに来たんじゃないのかい?」


 地図くらい自腹で買えるだろうに……意趣返しのつもりか?ジャックの奴め……


「持ち合わせがないなら、また今度でいいんだよ?」

「あ、いえ。払います。それとジャックが買った地図と同じものをもう一つ下さい」

「構わないけど……無くしちゃった?」

「ええ、そんなとこです」


 僕は地図二枚分の代金を払い、地図を一枚受け取った。おじさんにお辞儀してから購買所の前を離れ、地図を開く。

 ワナカーン付近の地図だ。

 やはり東の方角に向かったのは間違いない。

 だがワナカーンへの道ではなく、ワナカーンから更に奥の山道が記された地図だ。

 山越えでもする気なのか?


「あら、ノエル君。ジャック君の自分探しの旅はどう?」


 受付カウンターから僕を見つけたマギーさんが、聞き捨てならない台詞を口にした。

 僕はぐるりと首を回して、マギーさんを見つめる。


「自分、探しの、旅!?」

「え、ええ。あれっ?違った?」


 僕の表情を見て動揺するマギーさん。

 僕はそんなマギーさんの元へ、ゆっくりと迫っていった。

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