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「あなたリオ?……久しぶり。まだ死んでなかったのね」

「フン、お前こそ。オークに兎鍋にでもされてると思ってたニャ」

「んまぁ!相変わらず口の悪いこと。ナーゴ族は下品で困るわ」

「陰気臭いラビー族に言われたくないニャ」

「何ですってえ!」

「何ニャ!」


 顔を突き合わせて睨みあう二人。


「あのぉ……すいません」


 僕が恐る恐る手を挙げると。


「何です!!」

「何ニャ!!」


 案の定、僕に火の粉が飛んできそうな勢いだ。


「ううっ。ええと、二人はお知り合いで?」

「……最初のパーティの仲間ニャ」


 リオの最初のパーティというと……全滅しかけたときのパーティか。


「何でこんな人とパーティ組んでたのかしら。人生最大の汚点だわ!」

「それはこっちの台詞ニャッ!」


 二人は尚も睨みあい、同時にふいっ、とそっぽを向いた。何だか似てるな、この二人。


「お客人、お客人」


 がらの悪い男が僕の側にきて、囁いた。


「ラビー族とナーゴ族は生来、仲が悪いんでさあ。ほら、猫兎(ねこうさ)の仲って言うでしょう?」

「ああ、なるほど」


 種族的な問題なのか。

 そんなに仲悪い種族同士でどうしてパーティ組んだのか、こっちが聞きたくなった。


「それで?あなた、何しに来たのよ」


 そっぽを向いたまま、リュドミラさんが尋ねる。


「フン!お前ニャ関係ないニャ」


 同じくそっぽを向いたまま、答えるリオ。


「実は、僕達も十五階にお店を開こうと思ってまして」

「ノエル!余計なこと言うニャ!」

「いやいや、これは知らせておくべきだよ。こんな繁盛してるんだからさ。勉強になることも多いと思うよ?」

「こいつから学ぶことなんて小妖精(ピクシー)の小指の先ほどもないニャッ!」


 ぷりぷり怒るリオとは対照的に、リュドミラは納得いった顔つきになった。


「……そう、黒猫堂ね?冒険者の為の店だとか噂してるのを聞いて、もしやとは思っていたけれど。リオの店なのね?」

「こんな店より、ずっと良い店ニャ!」

「ふうん。たしか、五階だったかしら?そんな浅い階層で店を開いて、どこが冒険者の為なのかしらねえ?」

「ニャにおう!」

「ふふん」


 ギリギリと歯を食い縛るリオ。

 対してリュドミラさんは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 それを見たジャックが、不安そうに僕に耳打ちした。


「りおサン、張リ合ッテコノ店ノ前ニ店ヲ出ストカ言イ出スノデハ?」

「うーん。ここまで繁盛してると商売敵にもならないよねえ」

「何ヨリ、当初ノ目標トズレテキマス。りおサンノ目指シタヨウナ店ハ、既ニアルワケデスカラ」

「ああ、だね」


 するとリオの耳がピクリと揺れ、僕達を睨んだ。

 どうやら聞こえていたらしい。


「見損なうニャ!そこまで落ちぶれてないニャ!新店舗は中止ニャッ!」

「ご、ごめん。でもいいの?事前に決めた場所さえ確認してないけど」

「……気づいてなかったニャ?ここがそうニャ」

「エッ?ソウナノデスカ?」


 驚いたジャックが僕を見るが、僕は首を振った。隠し通路を来たせいか、さっぱりわからなかった。


「たぶん、こいつが本来の通路を壁で隠したニャ。だから気づかず通り過ぎちゃったニャ。性悪らしいやり口ニャ」

「盗賊の癖に気づかないのもどうかと思うわぁ」

「ニ゛ニ゛ニ゛……」

「あの、お客人」


 怒りに震えるリオに、がらの悪い男が話しかける。


「何ニャッ!」

「あっちのテーブルでカードをやっておりまさあ。少し気分転換でもされたらどうです?」

「カード!?」


 リオの耳と尻尾がピーンと立った。

 途端にそわそわとし始め、僕の顔を上目遣いで覗いた。


「……ちょっと遊んできたら?」


 僕がそう言うと、


「ッ!ちょっとだけ行ってくるニャ!」


 と、言うが早いか盗賊らしいスピードで駆けていった。


「……相変わらず、ギャンブルには目がないのね」


 リュドミラさんがため息をつく。


「すいません、リュドミラさん。リオが失礼なことを」

「ふふっ、あなたが謝ることはないのよ?古い付き合いだもの。本気で憎み合ってるわけではないわ」


 色っぽく微笑むリュドミラさんは、左手を頬に当てた。


「それなのに、顔を合わせたら今みたいになってしまうの。何故かしらね?やっぱり種族のせいなのかしら」


 たしか、ポーリさんも同じようなことを言っていたことを思い出した。リオは昔の友人には甘えてしまうところがあるのだろうか?あるいは、やんちゃだった頃の性格に戻ってしまうとか?


「……黒猫堂。やっぱり私達、似た者同士なのね」


 リュドミラさんは嬉しいのか不服なのかわからない、複雑な表情をした。


「最初のパーティということは、岩屋で全滅しかけたっていうときに一緒だったのですよね?」

「ええ、そうよ。リオったら、そんなことまで話しているのね」

「それが黒猫堂を開いた動機みたいです。アタイも冒険者の役に立ちたいって」

「……そう」


 リュドミラさんは少しだけ微笑んで、懐かしそうに目を細めた。


「トコロデ、りゅどみらサンガ隠シ通路ヲ作ラレタノデスヨネ?見タ目ニヨラズ、ぱわふるナンデスネエ」


 ジャックが感心したように言う。確かに、あの隠し通路を一人で作れるような風には見えない。


「……もしかして、つるはしか何かで掘ったと思ってない?魔法よ?」


 リュドミラさんが呆れたように言った。


「魔法?」

「ええ。私は土属性の魔法使いなの。魔法で隠し通路を掘って、本来の通路も魔法で塞いだわけ」

「ホホウ!」

「魔法デソンナコトガ!」


 ジェロームとジャックが同時に感嘆の声を上げた。


「石壁作ったり、落とし穴掘ったりはお手の物よ?」

「ヘエ!知ッテマシタ、のえるサン?」

「いや、えーと、その……」


 ジャックの問いに、僕は言葉に詰まった。


「ふふっ、いいのよ。土属性って地味で人気ないものね」


 可笑しそうに笑うリュドミラさん。


「でもね。土属性ってダンジョンでは強いのよ?例えば地面から石の槍を呼び出す『ストーンスピア』。ダンジョンなら壁や天井からも呼び出せるわ」

「そうか!壁や天井も地面として使えるんですね」

「加エテ、壁ヤ落トシ穴デだんじょんノ構造自体ヲ変エラレル……恐ロシイデスナ」


 ジェロームが顎骨を触りながら感想を述べる。

 僕は壁や天井からもワラワラ出てくる『マッドハンド』を想像して、ブルッと身震いした。


「わかってくれて嬉しいわ」


 満更でもない様子のリュドミラさん。僕は、今のうちに聞きたかったことを質問することにした。


「もう一つ、聞いてもいいですか?」

「どうぞ?」

「本来の通路を隠したのは何故ですか?最新版の地図にも反映されていませんでしたが……」

「それはあっしらの為でさ」


 がらの悪い男が口を開いた。


「うちの店員は、すねに傷のある奴ばかりなんでさあ。親分はそんなあっしらに職をくれたんですよ」


 店員にしてはがらが悪いと思っていたが、そういうことか。はぐれ者をほっとけないあたり、本当にリオと似ているな。


「……レイロアは冒険者の街よ。冒険者としてやっていけず、ごろつきのようになってしまった人間も大勢いるわ。私は彼らに居場所を提供しているだけ。でもね、彼らがまっとうに生きようとしていても、昔の悪い仲間が聞きつけてやって来るの」

「だから秘密の店にしたわけですか」

「ええ。隠し通路でしか入れないようにして、利用者には口止めして。紹介する相手も、信用できると見込んだ者だけにして頂いてるわ」

「でも、それでもバレる可能性は……」

「そのときは、私がパパッと入り口を作り変えるだけ」

「そうか、そうですよね」


 〈野兎の隠れ穴〉は信頼とリュドミラさんの魔法で成り立っているようだ。


「ヴニャー!!」


 リオの雄叫びが聞こえて、思わず振り返る。

 丸テーブルに突っ伏すリオ。

 この短時間で幾ら負けたんだ?


「相変わらず、好きな癖に弱いのね……」


 僕とリュドミラさんは、同時に深いため息をついた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! ほのぼのとしながら読んでいます。 [気になる点] うーん。一つだけ。 お店候補の場所と言うことは、ある程度安全な場所と言うことですよね。 そこへ至る道を塞いじゃうってことは…
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