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 翌朝。

 夏であることを忘れそうな、冷たい空気に目を覚ました。

 天幕越しに、あちらこちらから生活音が聞こえる。

 ここのゴブリン達はずいぶんと早起きのようだ。

 三人を起こさぬよう、そっと天幕を出る。

 辺りに朝もやの立ちこめる中、多数のゴブリンが動き回っていた。

 集落に来て気づいたが、ゴブリンソルジャーばかりというわけではなかった。半分くらいは普通のゴブリンだった。

 今、精力的に働いているのは普通のゴブリンばかりだ。きっと戦士階級とそれ以外で、きっちりと役割が分かれているのだろう。


「のえるサン、オハヨウゴザイマス」


 朝の訓練を終えたらしいジャックが歩いてきた。


「おはよう、ジャック。昨日はずいぶんモヒカンと話し込んでたね」

「エエ。とろーる戦ノアトドウナッタノカ、互イニ話シテイマシタ」

「へえ、聞きたいな」

「アノアト、方々ヲ渡リ仲間ヲ集メタソウデス。安住ノ地ヲ求メ、人ノイナイ西方行キヲ決メタノデスガ、ソレニ反対シタおーく達ト喧嘩別レニナッタミタイデス」

「そういやオークもいたね」

「エエ……ン?」


 一匹のゴブリンがジャックの肩を叩く。

 そしてモヒカンやジャックがするように、身振り手振りで何かを伝えようとした。ジャックはモヒカンとやるようにはうまく意思疏通できなかったが、繰り返しやりとりをして、ようやく理解できたようだ。


「フム、フム。我ガ強敵(トモ)ガ呼ンデイルト。ナニヤラ話ガアルソウデス」

「わかった。皆を起こすね」


 皆を起こし、昨晩も訪れた大きな天幕に入った。

 並ぶ僕達の前にモヒカン、僕達とモヒカンの間にジャックが座る。


「カギギ、ギゴ、ガガゴ」

「エッ!?」


 モヒカンの言葉にジャックが驚く。


「どうしたの?早く通訳してよ、ジャック」

「……東ノ人間ノ村ニ行クナラ、送リ届ケテヤルガドウスルカ、ト」

「レイロアのこと?」

「イエ、コノ近クダソウデス。徒歩デ半日ホドダト」


 今度は僕達が驚く番だった。


「西方に人間が住んでるの!?」

「まじか?」

「何かの間違いじゃないのですか?」

「……いや、十分にあり得る話です」


 そう呟いたレオナールに視線が集まる。


「【腐り王】の侵攻より二十年。腐敗も私達が見る限り、残っていない。となれば、故郷へ帰りたいと思い、行動に移す人はそれなりにいるはずです。ルパート、ポーラ。あなた達がそうであるように」


 兄妹は視線を落とし、静かに頷いた。


「ソレデのえるサン、ドウシマス?」

「興味は、ある。確認してギルドに報告したいし。でも予定より遅れているから」

「半日とはいえ逆方向ですしね。まずは依頼に集中するべきでしょう」


 レオナールも同意見のようだ。


「キギグゴ、ゲッ?」

「村ニ用ガナイノカ?ナラバ何故西方ヘ?ト、言ッテマス。答エテイイデスカ?」

「うん、構わないよ」


 それからモヒカンとジャックの間で、ジェスチャーの応酬が始まった。推測だが、冒険者ギルドとか依頼なんかの概念を伝えるのに苦労しているのではないだろうか。

 かなり長い攻防の末、疲労困憊のジャックが振り向いた。


「……ココヨリ西ハねずみ男ガ出ル。ひどふぁん村マデ護衛シテヤル、ダソウデス」



 多数のゴブリンソルジャー達が、前方と左右に展開し僕達を護衛する。これまでの苦労が馬鹿馬鹿しくなるほど、順調な道行きだ。

 軍隊を思わせる集団の迫力に、大抵のモンスターはこちらを見るなり逃げ出した。

 たまに襲ってくるモンスターも、モヒカンに統率された流れるような連携の前に、為す術もなく散っていった。


「いやあ、快調、快調!」

「機嫌いいね、レオナール」


 スキップでも踏み出しそうな足取りのレオナールは、にっこり笑って僕を見た。


「ゴブリンの護衛なんて、そうそう経験できないですよ!さて、この経験をどんな歌にしようか……」


 そう言って、早くも口ずさみ始めるレオナール。


「ドウデス、我ガ強敵(トモ)ハ!頼リニナルデショウ?」


 ジャックが自分のことのように胸を張る。


「でも、モヒカンに借りばっかり増えてない?一宿一飯の恩に護衛までさせてさ。ライバルとしては良くないんじゃない?」


 するとジャックは鼻で笑った。


「フッ。借リトカ恩トカ。強敵(トモ)トハ、ソウイウモノデハナイノデスヨ。のえるサンニハワカラナイデショウネエ」


 言い方に腹が立ったので、ジャックの腰骨に蹴りを入れた。


 日が暮れると同時に、モヒカンは歩みを止めた。

 野宿の準備が始まるが、雰囲気は野宿というより軍隊の野営だ。

 僕達は大きな篝火の前で地図を見つめた。


「すごい進んだな!」


 興奮した口調のルパート。


「うん。あと三、四日かかると思っていたけど、明日には着いてしまいそうだ」

「それは素晴らしい。ゴブリン達と出会ってから、運が向いてきましたね」


 レオナールが機嫌よく言う。


「あのう、聞いてもいいですか?」


 ポーラがおずおずと手を挙げた。


「モヒカンさんの言ってたネズミ男って何ですか?」

「そうそう、俺も気になってたんだ」


 ルパートもポーラに同調する。


「西方でネズミ男ってことは、ワーラットだよね?」


 僕の問いにレオナールが頷いた。


「ワーラット。鼠顔の亜人。西方を未開の地たらしめた張本人」


 レオナールの歌うような説明に、ルパートが首を捻る。


「それは【腐り王】だろ?」

「いや、それより前の話。ずっと未開の地だったのは、ワーラットからうつる病気のせいらしいんだ」


 僕の説明に続いて、レオナールが歌うように補足する。


「死神病。黒いアザ。三日のうちに苦悶して死ぬ」


 兄妹の顔が青ざめる。


「それ、ヤバくないか?」

「『キュアウィルス』が効くんだよ。【腐り王】の侵攻前に開拓が進んだのは、『キュアウィルス』が普及したからなんだ」

「はあ~、なるほどなあ」


 しきりに頷くルパートの横で、青ざめたままのポーラが言った。


「……私、レベル10になったら真っ先に『キュアウィルス』覚えます」


 夕食を終え、レオナールの奏でる音楽に乗ってルーシーが揺れ始めた頃。

 モヒカンが僕の所へ歩いてきた。


「ギギッ、ガケガゴ」

「フム。我ガ強敵(トモ)ガ同行ヲ求メテイマス」

「同行?どこへ?」

「ゴキガ、ギル、ゴッ」

「ソウデスカ……」

「ん?何て言ってるの?」


 ジャックは言い辛そうに僕を見た。


「人間ノ遺体ヲ見ツケタカラ確認シロ、ト」


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