勝者は誰?
※これは小学生のお話です。
転校することになった。
親の仕事の都合、時期は学年末、次の学年で私はここにはいない。
「わかった」
親にはそう、一言伝える。やせ我慢じゃない、逆にスッキリしている――私は学校でいじめを受けていた。
先生には伝える、両親の都合、騒がれるのは嫌いだからギリギリまで知らせない――と思っていたけど委員会の引き継ぎの関係で何人かには知らせることになっちゃった。世の中うまくいかないね。
「灯里!転校するってマジか!?」
「うん、マジだ」
「マジか」
同じ委員会所属の石田くんが聞いてきた。隣にいる杏ちゃんもびっくりして固まってる。
実は私、次の委員長候補だったからなぁ。私が転校となると必然的に他の確率が上がる。最高学年が三人しかいないから。
「実は俺も転校するんだ」
「……マジか」
「マジだ」
「マジで!?」
頭を抱えてしまった、杏ちゃんはもっと抱えていた。二人脱落ってことは……だもんね。
ちなみに委員会、生徒会です。トップ候補が揃って消えるってどうするよ?
その日の委員会活動は私達の後継は誰にするか?という議題に変わった。
「石田くんと折原さんは誰か推薦できる人いる?」
「えー?推薦ってつまり次の生徒会長――は杏がやるから副会長?誰か居るか?」
「うーん、橋本さん……かな?頭いいし仕事には責任感もあるよ(私との相性はともかく)」
「んじゃ俺もそれで」
個人的な感情を抜きにして、仕事を任せられる人を推薦した。
橋本さんはかつて私をいじめた人だ。
今私をいじめているのは別の人だけど、彼女が私をいじめていた事実は変わらない。
……本人にその自覚があるかはわからないけど。
きっかけはとても些細な事、だって橋本さんと私はそれなりに仲の良いクラスメイトだった。今でもそこそこ話をするほどだ。友人には正気か?と聞かれた。返答に困るね。
「女子を叩ける?」「絶対無理」「本当に?じゃあ私達が叩いても?」「……うん、無理だわ」
そしていじめが始まった。
彼女たちの言い分はつまり私が彼女たちを叩きたくなる状態にするというものだったんだ。
それが理由で私は彼女たちにいじめられた。私はそう認識していたし、周囲もそう認識していた。
「灯里ってなんで橋本にいじめられてんだ?」
仲の良かった海くんの言葉である。後に私に正気か?と聞いてきたのも彼だ。
「灯里が手を出せないなら俺がやろうか?」
「んー?それは負けた気がするからやめて」
海くんは私の言うことを聞いてくれた。
橋本さんからのいじめが終わったのは単にクラス替えでグループが自然解散したから。つまりその程度のことだった。
「これで終わりかな?」
クラス替えで有耶無耶になった時の私の感想だった。
――私へのいじめは終わらなかった。
きっかけがわからない、なんで?なんで?なんで?
一番仲の良かった子が私をいじめる主犯になった。
「れいちゃん……どうして……?」
何もしていないのに突然強い力で頭を叩かれる、紙を引っ張られる、文句を言えば、やり返せばいいでしょ?とやはり強い力で叩いてくる。
……どうして?
休日に遊べば自転車の鍵を隠され嫌がらせを受けた。
――仕方なく自転車をおいてそのまま帰った。一時間くらい歩いたかも?
……どうして?
次の日、学校でカギを返された。
「邪魔だから取りに来てよ」、ヘラヘラ笑いながらレイちゃんは言った。
……ああ、そうか、そういうことか。
私の中からレイちゃんが消えた瞬間だった。
「灯里、お前木崎とどうしたん?」
「海くんか。レイちゃんは友達じゃなくなったんだよ」
「……あ、お前、ついにキレたか」
「私は女の子は殴らない、か弱い子に手を出す卑怯者にはならない、でも、怒らないなんてひとことも言ってない」
「か弱い女子はいじめないとおも……なんでもありません」
海君は相変わらず私のお願いを聞いてくれた。
「橋本さん、ちょっといい?内緒の話」
「ないしょ?」
「そう、ないしょ」
くすくす笑いながら橋本さんを連れだした。
「石田くんと折原さんが転校するから委員会を引き継いで欲しいの」
「え?」
連れて行った職員室で先生が橋本さんに説明しているのを石田くんと黙って聞いていた。
「二人共本当に……?」
「そうだよ。皆には内緒ね?」
「俺はもう皆知ってるけどな」
「私までだとちょっと混乱するでしょ?」
「他に知ってる人って……」
「「いない」」
だって海くんにもいってないもん。幼馴染の八代くんは知ってるけど橋本さんは八代くんと知り合いじゃないし。教える必要ないよね?
「橋本さんなら仕事に真面目だから推薦しちゃった」
「灯里ちゃん……うん、あたし頑張るね!」
頑張ってください。
引き継ぎの日々はあっという間に過ぎていった。
なんだかんだで海くんにはバレた。そういえば海くん、八代くんと仲良しさんだった。
「転校ってマジかぁ」
「マジだわぁ」
「……俺はちょっと寂しいけど、灯里はスッキリしそうだな」
「うん、海くんたちと離れるのはちょっぴり寂しいけど、煩わしい女子関係がなくなるにはスッキリする」
「それでこそ灯里だな」
「幼馴染がいうと重みが違うなぁ……どうせなら最後にしめちまえばいいのに」
「カイくんってば物騒、八代くんも頷かない!最後にしめたら今まで我慢した意味無いじゃん」
「灯里がやるきになれば灯里のほうが勝つもんな」
「灯里のケリはマジで痛い」
「痛い、縄跳びの二重跳び失敗した時の痛さ」
「あれは痛いよな」
「私ミミズ腫れになったことある!」
「あ、俺も俺も!」
そのままどうでも良い話題に移行した。二人は手を出さないでほしいという私のお願いにやっぱり頷いてくれた。
「灯里、転校するってマジ?」
「マジマジ」
「マジかぁ」
転校する日が近づいて、ホームルームで先生が皆に話した。
授業前には他のクラスからも友達が確認に来た。全肯定しておいた。『マジ』しか言ってないけど。
「灯里!レイちゃんの話聞いた!?」
次の日学校に行ったら縁ちゃんが走ってきた。なんでレイちゃん?
「レイちゃんが吊るし上げ食らってる!」
「……はい?」
「杏ちゃんが教室で!灯里ちゃんに謝れって迫った!」
それで周りも謝れって。
「……余計なことを」
「え?」
「なんでもない、教室いく」
教室に行くまで私は杏ちゃんに怒りを感じていた。
だって、杏ちゃんはレイちゃんのグループだ、私をいじめた一人だ!!!
でも、教室に入った瞬間、私の怒りは霧散した。
それどころか、背筋が凍る思いだった。
「灯里ちゃんに謝りなよ!玲香がやってたことはいじめだよ!」
「灯里ちゃん転校するんだから!今、きちんと謝りなよ!」
「「「あーやまれ!あーやまれ!」」」
たった一人。
教室の真ん中にたった一人佇む少女を。
30人以上が取り囲んで攻め立てていた。
「れいちゃん?あんちゃん?」
「あかりちゃ・・・ぐすっ、あかりちゃん、あたし、あたし……あかりちゃんのこと……いじめてた?」
そこからかよ!?
「はっきり言ってあげたほうがいいよ?こういうことはきちんとしなくちゃ!」
あなたがそれを言いますか?
「あれ?これどうなんの?灯里、手出し厳禁って言ってたよな?」
「え?どうする?」
「判決は灯里次第ってことでいいんじゃね?」
無責任すぎるだろう、なんのために私が諸君らを抑えていたと……。
泣き続けるレイちゃん、そばに近寄ろうとしないそのグループメンバー、判決を見守る他生徒&先生。
……先生、仕事しようよ。ほら解散ってさ?一言言えばほかは散るって!
「ひっく……あかりちゃん……?」
「ああ、うん、別にいじめてないんじゃない?レイちゃんがそう思ってるなら」
「本当?」
「ほんとほんと」
「ちょっと、灯里ちゃん!?」
「杏ちゃんは口出さないでよ」
「……」
判決――無罪?
「無罪でいいのか?」
「いや、あれは有罪だろ?」
「どっちになるかはレイちゃん次第だよ?それに――」
なんで私がわざわざレイちゃんを更生してあげなくちゃいけないの?
「やっぱりキレてるし」
「だって、レイちゃん自覚してなかったんだよ?次は誰をいじめるのかな?佳奈ちゃんかな?」
もう兆候はでているみたいだし?
「マジでなんでこいつをいじめようと思えるんだか。キレたら怖すぎんだろ」
「だから、相手はいじめって認識してないんだろ?」
「橋本にもさり気なく厄介事押し付けたよな?」
「灯里をいじめた犯人新旧が所属か。生徒会は荒れるな。後輩どもはかわいそうに」
「いや、私にそこまでの影響力はないけど……あと橋本さんは純粋に仕事への評価だよ」
「灯里自身にはなくてもなぁ?」
「お前、いじめられてること隠してないから学年全員が知ってるんだぞ?」
「しかも今回公開処刑が起きたから知らなかった奴まで知った事実~」
「それは私の知ったことじゃないよ。転校したもん勝ちだね」
「精神的にいじめた側じゃなくていじめられた側が勝利する異常事態発生」
「こいつにいじめは通用しない、なぜならいじめてきた瞬間相手を切り捨てる」
「こえぇよな、今までどおり笑いかけてても実は友だちと思ってないんだぜ?知らないうちにその他カテゴリー行き」
「お前らも切り捨てるか?」
「「すいませんでしたー」」
くすくす、あははは
放課後の教室で無邪気な笑い声が響いた。
実はいじめていた人がいじめられていた人に守られていたお話。
そして主人公は腹黒一直線!