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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第三十七話 怒りの鉄槌

 薄く笑うそいつはご高説に忙しいのか俺たちに気付いている様子もない。

子分のように後ろに侍っている奴らは、そうだそうだと言いながら件の男子生徒をおだてていた。

典型的な金魚の糞だな、ありゃ。

 親分的なそいつの見た目は鼻に掛ける二枚目、といったところだ。

金髪碧眼に気障ったらしく目元まで髪を伸ばし、目じりには泣きぼくろ。

体型はすらりとして身長も同年代と比べると五センチは高そうだ。

そいつの制服の襟元を見ると赤色の花の形をした記章をつけていた。

 それは自分の所属しているクラスを表すもので、入学を終えた生徒たちにそれぞれ渡されるものだ。

黒はクロユリ、赤はバラ、青はアジサイのような形をしていた。

俺たちの緑は何の花か、というと花でも何でもないただの葉っぱである。

花にもなりきれてねぇのかよおい。

格差の波が記章にまで及んでいるあたり、上級生たちの対立もひどいことになっていそうな予感がする。

そんなことを思いながら、まさしく喧嘩を売りにきたであろう赤の生徒を眺める。


 「こうやって僕が何度も何度も教えに来ているのに、一向に数が減らない。

  全く害虫のような存在だね君たちは。いるだけで迷惑だと思わないのかな?」


 おーおー。ガキの癖によく口が回りやがる。

言っていることは確かにひどいが、こいつの場合は言葉に酔っている節があるな。可愛いもんだ。

本気でそう思っている奴らは相手を物を見るような目で見るんだぜ?体験談だけどな。

 だがしかし、言われているクラスの奴らは顔を伏せて怯えているようだった。

相手が二つ上の赤とはいえ、この様子は普通じゃない。

反抗心を抱いて睨みの一つでもしてよさそうなものなのに。

原因はこの赤の生徒か?

よくよく見れば腕には水色の宝石が嵌められた高級そうなブレスレットをしている。

身なりのよさからみて貴族か。

なーにが貴族も農民も等しく扱うだ。早速、立場によるいじめが発生してんじゃねぇか。


 「ふぅ……それとも実力がわかっていないのかな?嘆かわしいね。

  そうだ、君たちに真の実力者がどんなものか教えてあげよう」


 そう言い放つと、赤の生徒はアナライズを唱えた。一体何をするつもりだ。

詠唱が終えると同時に教卓の上に見慣れたウインドウが現れる。

こいつのステータスか?

へぇ、そんなことも出来るのか。そう感心しながら俺はそいつのステータスを見ることにした。



 名前 … クロイツ・シュトラウセ

 性別 … 男

 種族 … 人間

 状態 … 健康

 クラス … ウィザード

 L V … 20

 H P … 180 / 180

 M P … 272 / 272

  STR … D

  VIT … D- 

  AGI … D

  INT … C-

  DEX … D-

 S L … なし



 そのステータスを見てざわめくクラスメイトたち。

俺はというと、何でこいつらがそんな反応をしているのかよくわからなかった。

 確かにLvはかなり高いが、Lvにしてはステータスの数値がかなり低く思える。

アリエスが言っていたパワーレベリングをこいつはしたのかもしれん。

魔物と直接戦わずに冒険者なりを雇ってのLv上げ。これなら危険も少なく手軽に上げられる。

ただし、十分に鍛えることをせずにLvだけ上げたら上昇値が少ないという話だ。

 まぁINTがCというのは素直にすごい部分だろうけどな。スポーツで言えばプロレベルだろうし。

おまけにクラス持ち。この歳でクラス持ちはかなり珍しいんじゃないだろうか。

俺がそれ以上にチート臭くて全然驚きもしないんだけどな……。

 そういえば俺はLv1になっているけど、こいつのステータスよりちょっと高い部分がある。

一応、現在の俺のステータスも晒すとこんな感じだ。



 名前 … ミコト

 性別 … 男

 種族 … ハーフエルフ

 状態 … 健康

 Exクラス … 連携術士(リンカー)

 L V … 1

 H P … 54 / 54

 M P … 33 / 33(2800 / 2800)

  STR … E+

  VIT … E 

  AGI … D+

  INT … G-

  DEX … D


 S L … 高速思考・デュアル△

     覚醒・トゥルースサイト

     フィーリングブースト

     森羅万象



 MPの括弧は魔術で隠している所だな。隠しているだけでちゃんと括弧の中の数字分は使える。

全体的に以前のLv1の時より数値が上がっているのは、修練の成果とクラス補正のおかげだろう。

クロイツとはLvが19も差がある。

俺がもしLv20になったら、あいつより全てのステータスで上回る自信があるな。INT以外だけど。

クロイツのステータスを見た周りの反応は劇的だった。


 「相変わらず馬鹿げたステータス……。INTがCって普通じゃない」

 「MPもありすぎだろ。魔術を撃ち放題じゃねぇか」

 「クラス持ちなんて適うわけない……」


 と、驚愕してばかりだった。

クロイツはその反応に満足気に頷いていた。

……俺は自分自身のステータスの異常さに自覚がないとは思っていたけど、この光景見ると改めて自分の異常さを認識するな。

吸生のイヤリングと爺の魔術でステータスを偽装したのはいい判断だったかもしれない。

この反応を見るに、ばれたらとんでもない騒ぎになるだろう。

俺はMPお化けだしな。でもINTはないに等しいから、そんな騒ぎにもならんか?

試してみる気は毛頭ないが。

 そんなわけでどこか周りの空気についていけなかったのだが、クロイツは自慢話だけで終わらせるつもりはなかったらしい。

ある一人の男子生徒に目をつけると、クロイツは教卓の前からあっさりと降りる。

その生徒の席へ行くや否や髪の毛を思いっきり引っ張り、強制的に立たせた。


 「お前はこの中でも特に気に入らないんだよね。何を人間らしく椅子に座ってるの?

  虫は虫らしく地べたに這い蹲っていろよ!」


 掴んだ手をそのまま振り切ると、その生徒は周囲の机や椅子を巻き込みながら投げ飛ばされた。

飛び退きながら悲鳴を上げる他の生徒たち。

あっという間にクロイツの周りを囲むように人の円が出来る。

 うめき声を上げているのは床に蹲る件の生徒。頭に怪我でもしたのだろう、血が流れていた。

クロイツはちぎれた毛が数本残っていたのが気に入らないのか、顔をしかめて汚らしいものでも付いたかのようにハンカチで手を拭う。

そしてそのハンカチごとぱさりとその生徒の上に落とすと、魔術の詠唱を始めた。

 まさか魔術で更に痛めつけるつもりか、と思ったがどうやら違ったらしい。

詠唱が始まるとクロイツが嵌めていたブレスレットの宝石が光り、何もない空間が渦巻いたかと思うと水の球が現れた。

クロイツは水球に突っこんで手を洗うだけのようだ。

それにしてもあのブレスレットは魔道具か?詠唱に呼応するように光っていたな……。

 用が済むと水球は自然と落下して、未だに蹲る生徒に全て降り注ぐ。

びしょ濡れになった生徒はとうとうすすり泣き、クロイツは嗜虐的な笑みを覗かせながら生徒の傍に立った。

びくりと体を震わせて、悲惨な姿の生徒は怯えた瞳でクロイツを見上げる。


 「そう、そこがお前の似合いの場所。似合いの格好だよ?」


 今にも笑い声を上げそうなクロイツに、周囲の生徒は助けることも出来ず見守るばかり。

子分の奴らはどうにか追従するように笑顔を保っているが、その顔は引きつっていた。

誰一人としてクロイツの暴挙を止められる者はいなかった。

俺?助けるつもりなんてないな。こんな茶番付き合いきれない。

ただ俺の同行者だけは違ったらしい。


 「シュトラウセ!いい加減にしなよ!」


 マリーがさっきから拳を握りながら震えていたのは我慢をしていたかららしい。

山でも噴火したかのような怒りの声。隣に立っていた俺の耳がキーンとなった。

うるせぇし、余計なことに首を突っこむんじゃねぇ、と忠告する間もなくマリーはずかずかとクロイツの元へと歩いていく。


 「これはこれはマリー女史。ご機嫌いかがかな?」

 「あんた……いくらなんでも度が過ぎるんじゃないの?ほら……ロイドくん、大丈夫?」

 「おや、魔術の私的利用は校則違反だよ?」


 ロイド、と呼ばれた男子生徒に回復魔術を唱えるマリーに、自分のことを棚にあげながらクロイツは愉快そうに笑う。

回復魔術特有の緑色の光を帯びた手で怪我をした頭にかざし、マリーは歯軋りしながら詠唱に集中するように無視をする。

 構ってくれないことを察したのか、それとも一通り暴れて満足したのか。

クロイツはやれやれと肩を上げながら足を教室の出口へと向けた。

そこでずっと傍観していた俺と目と目が合う。

ぱちくりと目を瞬かせ、それからクロイツは満面の笑みを乗せて俺に話しかけてくる。


 「やぁお嬢さん。見ない顔だね。黒か青の人かな?君もこの最底辺のクラスに遊びに来たのかな?」


 性別を間違えられるのは毎度のことながら、さっきまでの態度と面白いぐらいに違うな。

あくまでフレンドリーで人当たりのいい笑顔をしていて実に好青年に見える。

それとこいつが緑だと思わないのはまだ俺が記章をしていないからだろう。

突然の転入生、ということで用意されていなかったのだ。

 さて、どういう対応を取るべきか。

クロイツが貴族なら下手なことすればすぐに厄介事になるだろう。

こいつの標的が俺じゃないなら特に何もするつもりもないしな……普通に返しておくか。


 「いいえ、私もこのクラスの一員です」

 「……何だって?それはこの緑に所属している、ということかな?」

 「はい、そうですよ」


 にっこりと笑い返せば少しだけクロイツがたじろいだ。

まー、この状況下で笑っていられるなんておかしいかもしれんな。

何度もいうが、こんな茶番だからこそ俺はずっと冷静でいられるのだ。


 「へぇ……。こんな時にも笑顔を見せられる胆力。なかなか出来ることじゃないね」

 「褒めていただいてありがとうございます」

 「惜しむらくは底辺の緑という所だ。容姿も十二分に美しいのに何とも勿体無い……」


 ……こいつ、本当に俺の顔ばっか見ていやがるな。

俺さ、今ちゃんと立っているから服でわかるよな?

自分で俺は男だって言うの、今でも情けない気持ちになるんだからな?

転入初日だって、ズボン履いてるから大丈夫だろう、と思ってたんだからな?

こいつもそろそろ気付いてほしいものだが……まぁ別に勘違いしていたらそれはそれで、俺に係わり合いにならないなら……。


 「そうだ。こんな所にいないで僕のメイドにでもならないかい?金も弾もうじゃないか。その美しさになら僕は……」

 「私、男です」

 「………………うん?」


 きっぱり、はっきりと言ってやる。勘違いさせたままだと恐ろしい事になりそうだ。

ぴらぴらとズボンを引っ張ってアピールもする。

クロイツ、俺の顔とズボンを交互に見る。

顔に視線が移る度に俺もこくこくと頷く。

以下、その繰り返し。


 「……………嘘だろう」

 「本当です。証拠を見せることは出来ませんけど」


 手で顔を覆いながらクロイツは絶望したかのような声を振り絞っていた。

口説き落とそうとしていた女が実は男だった、という衝撃は同じ男としてわからないでもないが。いや、そんな経験はないけどな。

クロイツは心底肩を落としながら、深いため息をついた。

そして独り言のように小さく零す。


 「緑なんて下賎な輩が徘徊するような場所。僕としたことがそんなことも見誤るとは。

  いや、あまりのその容姿に騙されただけか……。どうせ商売女の親からその美貌を受け継いだだけだろうに」

 「…………………あ゛?」


 ピシリと笑顔を固まらせ、思わずドスの効いた声が漏れ出てしまう。

こいつ、今なんて言った?もしかして俺の母親、ミライのことを貶したのか?


 「それにしても紛らわしい。男なのに長い髪をして。あれでは間違えても仕方ないじゃないか。

  ……ん?そうだ!君、僕に勘違いさせた罰としてその髪を切りたまえ。それで帳消しにしてあげよう!」


 挙句、この髪を切れ、だと……?

この髪はあの日の決意を成す為のもの。軽々しく切れるものではけしてない。

てめぇは俺の決意をなくそうとし、あまつさえ俺の母親を汚しやがったな……?

 俺はこの学校に来てから本性は見せないように決めていた。

元の性格の俺なんてきっと受け入れられないだろうから。

だが、それも止めだ。

呆気なかろうが、これだけ馬鹿にされて黙っている俺じゃない。

吹き飛べよ、優男!!

 そう今にでも飛び出しそうな俺だったが、それよりも前に飛び出していった者がいた。

俺の鞄の中に潜んでいると約束したはずの、身長二十センチの少女。

無論、その姿は俺にしか見えず、少女は高速で飛びながら魔術を唱える。


 『あったまきたのです!!天誅!風の鉄槌よ、その身振り下ろしては圧殺せよ!エアハンマー!!!』

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