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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第三十六話 一番下の緑

 魔術の学校、といっても中の様子はそう特別なものでもないと知ったのは入学してからだ。

ごく普通の廊下にごく普通の教室。

中庭があってそこに噴水があるのは少し珍しいかもしれない。

後は椅子や机といった物のデザインが洋風にまとめられている点を除けば、日本の学校とあまり変わらない。

あくまで外見は、だが。

 一見してわからないだろうが、魔術に抵抗する為の壁が張り巡らされているのだ。

これは生徒を含め、関係者全てが魔術に関わる者たちであることを考えれば当然の処置。

火の気がある所に防火扉や消火器を備えない所がないのと同じだ。

後は部屋と部屋を繋ぐ空間には魔術が施され、校舎の中は見た目の倍以上に広い。

 目の錯覚かと思ったものだが、どうやら俺に察知できない程の高度な魔術が施されているみたいだ。

空間魔術と言えば魔術の中でも異色を誇る特級魔術というカテゴリに値するらしく。

建物に空間魔術を組み込んだものはグリエントしか存在しないのだとか。

 まぁそんなことをつらつらと爺が言っていたんだが、正直、話を半分以上は聞いてなかった。

何かにつけては変態っぷりを発揮しようとするから仕方ないだろう。

あの爺、話の途中で突然上半身脱ぎだしたりしたからな……。

何が、わしの古傷見る?むしろ見て!だ。

そのまま朽ち果てろ。

クソ老人の痩せた体なんて気持ち悪いだけだし、冷徹な視線を向けても喜ぶし、始末に終えなかった。




 そんな校舎の廊下をこうして歩いているのだが、以前と比べるとまさに雲泥の待遇に心の中で苦笑いしてしまう。

以前とは勿論、俺が地球にいた頃の話だ。

あの頃はまさに灰色、いやむしろ黒色の青春を過ごしていたものだったが、今ではどうだ。

行く先々で視線を浴び、遠巻きに俺に熱い視線を投げかけてくる奴らばかりだ。

 転校初日を終えた次の日だというのに俺の噂は広まりまくっているらしい。中には高等部の生徒もいるようだ。

視線には敏感な性質なので、これがどんな意味のものなのかも大体わかる。

羨望や好奇、もしくは好意に溢れたものばかりだった。


 (まぁ俺は見た目だけはいいからな)


 自慢でもなんでもなく事実としてそう思う。

何せ俺はミライの容姿を受け継いだ子供なのだ。見目麗しいのは当たり前だ。

顔立ちもそうだが、特にケアというケアもしていないのに髪はさらさらで眩い金色。

転校初日の時は女子共によく触らせて欲しいと頼まれた。

にっこりといいですよ、と対応しようものなら黄色い声をあげるのだからチョロイ。

 こうして遠巻きに見ている輩に挨拶と一緒に笑顔をくれてやれば、目の中にハートを浮かばせる者も多数だった。

全く、なんて簡単な連中だ。

そんなことでは俺に利用されるだけだぞ。

俺は裏切るのは大嫌いだから、利用するのなら最後までそのいい夢を見させてやるがな?


 「あー。なんかすっごく悪そうなことを考えてる顔してる……」

 「失礼なことを言いますね、マリーさん」

 「その口調に態度、とっても気持ち悪いんですけどっ」

 「慣れてください、マリーさん」


 手を振っては女子共のキャー!という声を独り占めにしている俺に気持ち悪いとは失礼な奴だ。

一緒に登校していたマリーはこの騒ぎにげんなり気味だった。

口調は二人きりになったらともかく、この態度を変えるつもりはない。

子供時代の俺は人との触れ合いなど辟易したものだったが、俺も処世術を学んだ。

遠ざけるよりは傍に置いていて方が賢い。

勝手に寄ってくるのなら毎度毎度あしらうより、相手にしてやった方が幾分かマシだというただそれだけの話。


 「毎朝こんな調子ならたまんないよ」

 「別に私と一緒に登校しないのならいいのではないですか」

 「むぅ……。ミコト、冷たい。皆に向ける優しさをあたしにも分けて欲しい」


 そんなこと言われてもな。事実、そうなんじゃないか?

騒ぎに巻き込まれたくないなら一緒にいなければいいだけだ。嫌なら離れればいい。

冷たくしているつもりはないが、マリーがそう思うのならお前にもサービスしてやろう。

民衆共を魅了したこの笑顔をくらうがいい。


 「…………」

 「……何か言ってくださいよマリーさん。私が空しいじゃないですか」

 「だって、さぁ……」


 何がさぁ、なのか。生徒たちにはご好評のこの笑顔が気に入らないというのだろうか。

試しにもう一度近くの生徒に微笑んで見ると、その生徒は男子にも関わらず頬を染める。

うん、いや、微笑む相手を間違えた。

違う、俺は男色の気はないんだ。だからお前、俺が歩き出したのに目で追うなよ!?

とんでもない勘違いを一男子生徒に埋め込み、焦っていた俺はマリーの呟きを聞き逃していた。


 「その顔も確かに綺麗だけど……あたしは普段のミコトがたまに見せてくれる笑顔の方が好きだな……」

 「訂正したいがすでに手遅れ感が半端ないっ……!!……っと、危ない危ない。マリーさん、今何か言いましたか?」

 「ううん、何でもないよ!それよりミコト、罪作りなことはしないようにしなよ?」

 「あ、はい。今まさにその罪に嘆きたいところだったんです……」


 思わず肩を落としたくなったが周りに目がある以上、情けない姿は見せられない。

胸を張って威風堂々と歩くことを意識して、自分たちの教室に向かうことにした。


 そういえば、教室といえば気になることがあった。

この学校は個人の成績によってクラス分けがされている。

新入生は入試の結果で判断され、それぞれ上から黒、赤、青、緑と色で組み分けされる。

 最高は黒。成績優秀者しか入れないクラスで学園内でも一目を置かれる存在らしい。

最低は緑。所謂、おちこぼれに該当する生徒が入ることになり、扱いもかなりぞんざいになるみたいだ。

新入生の間ではまだ差別というレベルで浸透している事実ではないが、上級生たちの間では色によって対立してしまっているとか。

この学校自体がその対立関係を煽る形をとっているため、特に対策という対策もしていないみたいだった。

つまりは実力主義、ということなのだろう。

強ければそれだけの待遇になり、弱ければ弱いなりに自分でどうにかしろ、と言外にいっているのだ。

あの爺は真性の変態で救いようがないが、こんな方針にしたのだけは評価できる。

強ければいい。実にシンプルで俺好みだ。

 それで元の話に戻るのだが……。

っと、考え事をしていたらいつの間にか教室に辿り着いていたな。

見上げればドアの上の部分に木のプレートがかけられている。

刻まれている文字は一の四。

一年生の四組目、という意味だ。そしてそのプレートに色分けがされている。

俺たちのクラスの色は……最低の色である緑。疑いようのないおちこぼれクラスである。


 「そういえばマリーさん。貴方はどうして緑色なんですか?」


 意訳。お前なんでおちこぼれなの?

ちなみに俺の場合はあまりのINTの低さから緑色となった。まぁそれは仕方ないな。魔術を専攻する学校なのだから。

特に不満というものもない。例えば俺が黒に行ったとして、高度な魔術を学ぶことになったとしよう。

しかし残念ながら俺のINTではおそらく発動することさえ叶わないだろう。

 爺の特権を使って入ることも可能だったが、丁重にお断りした。

上記のこともあるし、あの爺に借りを作りたくなかったというのも大きい。

普通に転入試験を受けた結果、普通に受かった。とまぁ俺の話はそれぐらいでいいか。

本題に戻ろう。


 「え、それってどういう意味?」


 婉曲に言ったつもりだったんだが、あまり伝わっていなかったらしい。

俺なりに少し遠慮をしたのだが、ならばと直接的な表現に変える。


 「成績がドベの緑に在籍しているなんて、バカなの?」


 と、マリーにしか聞こえないように声を小さくしてにっこりと笑う。

第三者から見れば楽しい会話をしているようにしか見えないだろう。

マリーの顔は一気に引きつったが、角度を計算して他の人には見えないようにした。

まぁ見えたとしてもそれほど気にならないだろう。


 「う、うう……あまりに辛辣すぎるよ。自分だって緑なのに……」

 「私は事情がありますから。それで、マリーさんはどうしてですか?」


 マリーの実力的に緑はおかしい。

この学校の色による平均がどの程度のものかは知らない。

けどマリーは回復魔術が使えてLvも4はあったはず。

あの魔物を倒したことからこいつもレベルアップはしているだろう。

黒は難しいとしても赤か青にいたとしても不思議ではないはずだ。


 「とても言いづらいことなんですけど……」

 「言いづらくても聞きたいです」

 「そこは遠慮する所じゃないのかな!?迫力ある笑顔で責め立てる場面じゃないよっ!」


 往生際の悪い。さっさと吐いてしまえばいいのに。

教室の前であまり騒いでいては他の生徒の迷惑にもなる。

この話は後日にでも聞きだすか、と思っていた時、昨日のことを思い出した。

 そういえばこいつ、昨日の放課後どこかに行っていたな。えらく遅かったし。

俺なんて以前は速攻で帰宅していたものだったが、さて、生徒の自由な放課後にすることといえば?

友達と話していた?それにしてはパンを食いながらも疲れた顔をしていた。

部活動?可能性としてはなくはないが、どこか違う気がする。

後はあるとしたら……居残り?

…………ほう、なるほど。

始めは冗談で口にした言葉だったが、実はそれが真実だったということだったんだな。


 「マリーさん」

 「は、はい?何かな?そんな神妙な顔をして。あたし、とっても嫌な予感がするんだけど」

 「マリーさんって……その……ばk、あ、間違えました。頭がよろしくないんですか?」

 「言い直してるけど、それどっちみちひどい言葉だからねっ!」

 「ははは」

 「笑い事でもないから!うー……そうだよ、あたし、頭悪いもん。筆記試験でギリギリ合格だったし!」


 そうかそうか。実力的に問題はなくても、マリーの足を引っ張っていたのは知識面か。

気になっていたことが一つ解決して俺としてはすっきりしたんだが、どうやら彼女にとってはトラウマになっているみたいだ。

まぁ勉強なんてすればするほど身に付くもの。

努力の範囲でカバーできるのだからこれについては苦手でも本人が頑張るしかない。

 それに言ってはなんだが、この学校の授業レベルは相当に低い。

昨日の授業だって足し算を習っていたんだぞ?

地球で言えば俺はおおざっぱにいって小学五、六年生。

その歳になって足し算など遅すぎる。小学一年生で覚えるようなものなのに。

周りを見ても俺と同年齢の子供ばかりで、特に俺が突出しているというわけでもない。

 おそらくこの世界全体を見ても同じ感じなのだろう。

教育に力を入れていない、ということではなく、入れる必要がないのかもしれない。

前にも言ったが勉強するよりこの世界では必要なことがある。だから必要最低限の勉強しかされない。

それは全くもって正しい。

地球でもせいぜい文字の書き方や漢字を覚え、単純な計算を習い、英語や他の言葉を少し嗜んでおけば事足りる。

難しい計算式など覚えなくても将来必要になることの方が少なかった。

 まぁそんなわけで、こんな俺でもすらすらと問題が解けてあいつすげぇ、って目で見られるようになったんだが。

この程度で奴は天才か!?と思われたとしても全然嬉しくねぇ……。

ともかく、マリーだってやれるはずなんだがなぁ。


 「出来の悪い生徒ですよ、どうせ。ミコトは簡単に解けるからいいよね。昨日だって一瞬で答えちゃったし」

 「まぁまぁそう不貞腐れず。からかったのは悪かったです。本当に悩んでいるなら私が勉強を教えますから」

 「え、本当?実は昨日出された宿題が解けなくて、その、ノート見せて欲しいかなーって」

 「それ教えるって言いませんから。やる気、あります?」

 「や、やだなー!勿論、参考にするだけだよっ」


 参考にするといいつつ丸写しするつもりだろうが。

お前はウィキペディアからコピーアンドペーストするどこぞの大学生か。

呆れながら教室のドアを開くと、途端にどこか空気がおかしいことに気付いた。

緊張しているかのような張り詰めた空気が満ちていたからだ。

クラスメイトの視線は一部こちらに移ったようだが、大半は教卓にいる昨日は見かけなかった男子生徒へと注がれていた。

誰だあれは。偉そうにふんぞり返って、子分のような奴らを傍にはべらせているじゃないか。

厄介事の匂いしかしないそいつは、クラスの全員を見下しながら尊大に言葉を吐き捨てる。


 「最底辺の緑の諸君、おはよう。これまた辛気臭い顔をして生きてて楽しいのかな?

  どうせ魔術の才能もないのだ。さっさと退学でもした方が身の程を弁えていると思わないのかな?」


 あぁ、ったく。

嫌な予感ほど当たるとはいうが、こうまではっきりと目の前に現れるといっそのこと笑えてくるな……。

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