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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第二十九話 最後の試験

 「……はぁ?」


 開いた口が塞がらないとは正にこのことだろう。

突然何を言い出すのかと思えば学校?しかも魔術の?

話に関連性がさっぱり見つからなくて眉をひそめるしかない。


 「そこの学校の校長とはアタシは知り合いでね。紹介してあげるよ」

 「ちょっと待て。何で俺がそんなところへ行かないといけない?ふざけるなよ」


 そうだ。すでに数年を使ってしまっている。

複雑な心境になってはいるが、復讐の炎が消えているわけではない。

シルフィードのことは置いておくにしてもやめるつもりは無かった。

彼女が望む幸せとは違うのかもしれない。いや、いつも優しく見守っていた彼女がこんなことを望むはずが無い。

そんなことは誰よりも知っている。

 だが、それで俺はどうなる。俺の思いはどこへいってしまう。

のうのうと生き長らえるあいつらを想像するだけで怒りに気が狂いそうになる。

あの館での惨劇で散っていった命は忘れ去られてしまうのか。

違う。そんなのは認められない。

俺が覚えている。だからこそ果たさなければ、何も終わらないんだ。


 「アンタにはやりたいことがある。それは今すぐにでも。そうだね?」

 「……そうだ。そしてそれはお前も無関係じゃない」

 「知っているさ。色々と聞きたいことがあるようさね?例えばシルフィードのこと。例えば……レコン・ルシエイドのこと」

 「…………」


 さすが、とここでは言うべきだろうか。俺の考えなんてお見通しだったということだ。

気分は悪いが、話は簡単に済ませるようで助かる。

 シルフィード。俺と契約した精霊であり、ミライの……親友だった精霊。

その精霊とこの女は昔からの知り合いだった。

つまりミライのことも、俺が彼女の息子だったことも知っていた可能性が高いということ。

 そしてレコン・ルシエイド。大切な人を奪った元凶の一人。

その男が生きているかもしれないということ。目が曇ったままだった俺はマリーの一言で気付かされた。

確かにアリエスが言っただけでレコンの死体を俺が見たわけではない。

真実が知りたい。もしもアリエスの言葉が嘘だったなら、どうしてそんな憎まれ役を買って出たのかも。


 「だからミコト、ここは一つゲームをしようじゃないか」

 「ゲーム……?」

 「そうさ。卒業試験にかこつけたゲームをね」


 言うなりアリエスは戦闘態勢をとる。

それは格好だけで殺気といったものが微塵も見受けられなかった。今すぐ戦うというわけではないらしい。

拳をこちらに突き出しながら、アリエスは不敵に笑って話し出した。


 「ミコト一人の卒業試験。内容はアタシとの試合。本来は仕上がり具合を見るつもりだったけどね。ここで条件を追加しようじゃないか。

  アンタがアタシに攻撃を当てる毎に知りたいことを一つ教えよう」

 「それは何でもか?制限なしで本当のことしか喋らないんだな?」

 「約束しようじゃないか。嘘は絶対につかない。何だって教えるさね。例えばスリーサイズとかでもね」

 「知りたくないから安心しろ」

 「あら、それは残念さね。それと、試合の時はアタシも反撃するつもりだから覚悟して挑むといいさね」


 僅かに身じろぎしたかと思えば、風を切り裂くアリエスの拳が俺の眼前まで迫り、目と鼻の先で止まる。

まともにくらえば一撃で意識を刈り取られ、下手したら致命傷を負って命まで取られかねないその拳。

当てるつもりはないとわかっていても、肝を冷やしてしまう。

そんな心中を悟られないように、その手を払いながら鼻を鳴らして挑戦的に睨む。


 「上等だ。アンタに認めさせた上で洗いざらい吐いてもらうぞ」

 「いいねぇ。その瞳、ゾクゾクするじゃないか。……まぁそれは置いておいて、学校のことなんだけどね」

 「おい。せっかくやる気出してたのに水を差すなよ」

 「まぁまぁ。最後まで聞きなよ。ミコトが聞いて損はない話だからね」


 テンションが上がっていた所に先ほどの話を持ちかけられ、思わず憮然とした表情になってしまう。

何を言われようと考えは変わらないと思うが、ここまでアリエスが言うのなら聞くだけ聞いてもいいだろう。


 「アタシが紹介するグリエント魔術学校は魔術の最先端を行く所でね。帝都に居を構える由緒ある学校……らしいよ?」

 「何だその頼りねぇ言い方は」

 「パンフレットの受け売りだからねぇ」

 「……何かすげぇ聞く気がなくなってきた。帰るわ」

 「じょ、冗談さね。本当に帰ろうとしないで!」


 踵を返して山を降りようとした所をアリエスに手を掴まれて足を止めた。

本気で焦った顔をしているアリエスに溜飲がいくらか下がった俺は、もう一度だけ話を聞くことにした。

ただし、今度もなにかふざけたことを言うのなら、いくら止められようと無視する。

雰囲気からそれを悟ったのか、ごほんとわざとらしい咳をついてアリエスは真面目な顔を作った。


 「んん。……最先端、というのは間違いじゃないさね。未来ある生徒の育成と同じく、そこでは魔術の研究も行っているみたいでね。

  新たな魔術はグリエントから始まる、と言われるぐらいさね」

 「ほう、それはすごいな。それで?」

 「アンタの体を治す方法が見つかるかもしれないのさ。ミコトのINTが異常に低いのは元々じゃないんだろう。

  INTはMPにある程度比例するはずだからね。MPがあんなにあってINTだけが低い、ってのはおかしいのさ」


 なるほど、そんな所から俺の状態を把握できるとはな。

しかし治すとはいうものの、すでにアナライズでの状態は普通になっているのに戻すことなんて可能なのか、と考えなくもない。

この世界についてあまりに俺は無知だから、方法はあるのかもしれないが。

学校に行くというのは一考の価値はある。世界を知るちょうどいい機会だろう。

情報が武器となるのはどの世界でも共通だろうしな。

胸中、打算的にそんなことを考えつつ、アリエスには否定的な言葉を返した。


 「だが確実ではない。見つからないかもしれない」

 「そうさね……アタシには絶対、とは言い切れない。正直に話すと見つからない可能性の方が高いだろうさ」

 「アリエスは俺を学校に行かせたいんだろ。そんなことを馬鹿正直に言っていいのか」

 「嘘は嫌いだろう、ミコト。アタシも好きではないけどね」

 「……ふん。まぁあんたの言いたいことはわかった。だがそれでも行く気にはならないな」


 メリットは少なくない。

確実性に乏しいが、INTが元に戻れば大幅な戦力の強化が出来る。学校という学び舎で知識も手に入る。

しかしそれでまた数年を使ってしまうリスクを天秤にかけると非常に微妙な所だった。

その時間をあいつらを探すことに宛てれば何処にいるかわかるかもしれないのだ。

感情的には断然に探しに行きたいという気持ちが強い。

俺の決断の速さにアリエスは苦笑していた。


 「だろうとは思っていたけどあっさりと言ってくれるね。でもこれを聞いてもその意志は揺らがないかな?」

 「もったいぶって切り札でもあるって言うのか」

 「グリエントはね、ミライが通っていた母校でもあるのさ」

 「……………………」


 確かに、それは俺にとっての切り(ジョーカー)だった。

途端に苦悩する俺にアリエスはそれ以上何も言わなかった。

 結局、その場で答えを出すことは出来なかった。

アリエスも何もすぐに決断できることではないと思ったのだろう。

答えは試験が始まる直前、つまり一週間後までには出して欲しいと言われた。





 そうして一週間は瞬く間に過ぎていく。俺を答えを出すべく悩み続けてようやく結論は出た。

その間、小さくない変化が起きた。

マリーはこの小屋から出て行ってしまった。いやそう書くと外聞がよくないか。

マリーはこの小屋から旅立って行ってしまった。

気付いた時にはすでに旅立った後で、書置きも何も残されてはいなかった。

アリエスにそういえばマリーの姿が見えないな、と聞いた時にようやく彼女からその事実を聞いたぐらいだったのだ。

卒業、と言うからにはマリーもいずれここから出て行くのはわかっていた。

だがそれはもっと何かが起きてからだと思っていた。

俺は別れの言葉を期待していたのだろうか。今となってはその本人がもういないからわからない。


 「なんだい、浮かない顔をしているね。心配事でもあるのさね?」

 「……うるせぇな。何でもねぇよ」

 「そうかい?それでミコトはどうするんだい」


 小屋から少し離れた広間。俺とアリエスは向かい合うようにしてそこに立っていた。

いつもここで苛烈な修行を行っていた。血反吐を吐く思いでその修行に耐えていた。

懐かしくもあり、今となってここが最後の舞台となることに嬉しささえ覚えてしまう。


 「あぁ。俺はグリエントへと行く」


 確固たる意志を言葉に込めて、俺はそう言い放った。

語るべきものはそれ以上は何も無いだろう。俺は魔術学校に通い、そして帝都にてあいつらの情報を集めることにした。

宛てどもなく各地を彷徨うよりは人口の多い帝都に行く方が効率はいいだろう。

自由になる時間はそれこそ少なくなるだろうが、知識を得ることも、もしかしたら体が治る可能性もある。

 それに……ミライが辿った軌跡が知りたかった。

俺は彼女に対して驚くほど何も知らない。

彼女の人となりこそ十二分に知っているが、どうやってそこまで来たのか過去のことは全然知らなかった。

 そう、だからこれから行われる試験も負けられない。

静かに気力を漲らせる。アリエスと俺とでは実力差がかなりある。気持ち的に負けているのでは話にならない。


 「やる気さね、ミコト」

 「あんたも手加減するつもりはないんだろ」

 「当然。ミコトのこれまでの集大成、見せてもらおうじゃないか」


 語り口はそれまで。

これからは戦いの中にて全てを語るとしよう。

俺の中で不思議と殺意というのは沸いてこなかった。アリエスが仇を奪っていないかもしれない、とわかったからだろうか。

ただ相手を倒したい、という思いだけは止められない。

それはアリエスも同様なのだろう。空気からでもヒシヒシと肌を刺すように伝わってくる。

 いつもの亜流のボクシングスタイルに隙という隙は見当たらない。

今日に至ってはそれに加えてガントレットを装着しての完全武装。

あの拳から繰り出される一撃は想像を絶する破壊力を持っていることだろう。

 それでも引くことは出来ない。

相手の射程距離は俺よりも長く、懐に入るしか手段はない。いつもの張り付き戦法でやるしかないのだ。

全く、俺が戦う相手はどいつもこいつも一撃必殺ばかりで嫌になる。

ただし今回に限っては勝つ必要がない。攻撃を当てれば目的は叶う。

俺がグリエントに行くといった時点で、試験の合否もここに至ってはないも同然だろう。

すなわち、いかにしてアリエスに当てられるか、それだけに絞ればいい。


 (……なんて、みみっちいことは考えていないがな!)


 倒す。倒す倒す!

敵が目の前にいればそれだけを考える。後のことは後に考えろ。

Cブーストを足にかけ、アリエス直伝の流麗な魔力操作に努める。

爆発的な速力を得るのを想像し、思考を加速させ追従させる準備を整える。

一秒にも満たない間にそれを同時進行させ、待ち受けるアリエスへと、今!


 「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

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