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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第十四話 魔物退治

仄かに漂ってきた申し訳程度のRPG要素。

ちなみにLvとはレベルのことです。

 いつも俺が体を洗ったり水汲みに行っている湖の先、更に奥に行った林の中を掻き分けて俺たち二人は進んでいた。

人の手が入らない自然の中では平坦な道など見つけるほうが難しい。

動物が踏み均した獣道はあれど、それが人に優しい道かと言えば首を横に振るだろう。

道しるべとなるものも見当たらず、コンパスや地図といったものがない今、迷わない為にはこうして木々に印を残していくしかない。


 「ずっと気になってたけど、それ何してるの?」

 「俺たちがここを通ったって印をつけてる」

 「ふーん?」

 「……帰り道がわからなくなったら困るだろ」

 「あー!なるほど、なるほど」


 納得した顔で頷くマリーに俺は眉間に皺を寄せるだけで留めて置く。

あの湖から林の中に入ってすでに一時間以上は経っているだろうか。

その程度では俺もマリーも疲れたりはしないが、そろそろ何かしらの痕跡でも見つかって欲しい所だった。


 「師匠が言っていた魔物って本当にいるのかな」

 「いるんだろ。試験にするぐらいだから」


 アリエスが出した卒業試験。それは魔物退治だった。

この世界には魔物が存在している。動物とは違う、恐ろしい強さを持っている化け物。

魔物には核となる結晶のようなものが存在し、それが強さの源と言われている。

実際に俺は見たことはないが宝石のような物が体のどこかにくっついているらしい。

 固体によって核となるその形は千差万別。

強さに比例するように色や形、輝きが増していき、人の欲がその光に魅入られる。

またレベルを上げるためには魔物を討伐することでしか上げることが出来ない。

危険とわかっていても飛び込まずにはいられない、魔物とはそういう存在だった。

平和に過ごす一般人からすれば災厄とまで言われてるらしいが。


 「ローエンウルフだったか。その魔物の名前」

 「うん。あたし達で言うならLv5に相当するって」

 「Lv5ね……マリーはLvいくつだ?」

 「あたしは師匠と一緒に別の魔物倒したことがあるからLv4だよ」


 俺と合わせてちょうどLv5か。そのあたりアリエスも考えていたのかもな。

しかしあの女がそれだけで終わるはずがないと俺は予測している。

いや予測と言うよりは確信に近い。

暢気に構えていては手痛いしっぺ返しがくるだろう。

魔物が見つからず痕跡もない現状では警戒しながら探すしか手はないが、やれることはまだ残っている。


 「マリーは回復魔術以外は何が使えるんだ?」

 「使えないよ?」

 「…………は?」


 互いの戦力を事前に確認するのも大事だと思い、マリーに出来ることを聞こうと思ったらこの返事である。

耳を疑うような返答に俺がまじまじとマリーの顔を見てもきょとんとしているだけで、嘘をついている様子はない。

いや、魔術は使えなくとも……と続けて俺が聞き出していくが、頭が痛い事実が出てくるだけだった。

 マリーは体力こそいつも俺と山登りをしていたから十分にあるが、他はからっきし。

戦闘訓練といったことも特にしたことがなく、武器という武器を持ったことがない。

魔術も攻撃系は使えず、その代わり回復系は得意中の得意らしい。

まさしく生粋の守ってもらうタイプの回復職だった。

三年間一緒に住んでいたのに知らなかったのは、俺が最低限の接し方しかしなかった弊害だろう。


 「つまり、攻撃役は俺だけってわけだ」

 「そうなるね」


 そうなっちゃうか……。

あっけらかんとそうのたまうマリーに文句を言う気力も湧かない。

思わず立ち止まって空でもしばらく眺めていたい気分になる。


 (考えを改めるべきだ。腐っていても何も始まらない)


 賽はすでに投げられている。ならば後は出目次第、運次第。

行き当たりばったりすぎて仕方ないが、そんなものはどんな戦いでも同じようなもの。

攻略本もインターネットもないこの世界では出たとこ勝負をするしかない。

 そんなことをうんうんと悩んでいたら、隣で歩いていたマリーがいつの間にかいなくなっていた。

歩きながら考え事をしていたから置き去りにしてしまったか、と焦る。

こんなところではぐれようものなら見つける自信がない。

そう思って来た道を帰ろうと踵を返せば、マリーは少し離れた先で立ち止まっているだけだった。


 「何やってんだ、マリー」

 「ミコトはあたしと一緒でいいの?」

 「はぁ?」


 全くの突然にそんなことを言われて、これ以外に反応できる奴がいるだろうか。

映画に出てくるようなイケメンならば君だからいいんだよ、と臭い台詞を言うのだろう。爽やかスマイル付きで。爆発しろ。

残念ながら俺にはそんなスキルは持ち合わせていない。

幸いにも続く言葉があるようで、マリーは苦笑を浮かべながら口を開いた。


 「だってあたしは回復しか出来ない。それに……」


 それ以上は尻すぼみになり、ろくに言葉として俺の耳には届かなかった。

なんとなくだが彼女が言いたいことはわかった気がした。

あの激しく降り積もった雪の日のことを未だに引き摺っている、そんな気が。

あれから随分と時は経っている。今更、と思わなくもない。


 (表面上は大丈夫そうだったが。俺がそう思いたかっただけか)


 厄介な問題だと思う。これだから人と関わるのは嫌いなのだと、改めて思う。

俺のことなんて放っておけばいいのに。お節介だと切り捨てた俺のことなんて。

 彼女が最後に言ったあの言葉の真実を知りたかったが、聞けばマリーにまたあれこれと聞かれるのが嫌だった。

アリエスにもあのことは聞いていない。そんな事実を素直に吐くとも思えなかった。

真実に蓋をすることにした俺はあれからいつも通りに過ごしていたはずだ。

だがマリーは違ったらしい。

だからこそこうやって形となって出ている。


 「これは二人の試験だ。どちらか一人欠けただけでも合格とはならないだろう」


 何かが欠けている答えと知りつつ、俺はそう声に出した。

真実、彼女は微妙な面持ちで俺の言葉を聞いていた。


 「それに回復しか出来ないってことはない。色々とやりようはある」

 「やりようって……?」

 「それはマリーの方がよく知っているんじゃないか?アリエスと一緒に魔物を倒したんだろ」


 思い当たることがあったのか、マリーはゆっくりとだが頷いた。

けしてその表情は晴れているとはいえない。わだかまるものが心に残っているのは明白だった。

 ……この試験はおそらく本当に二人でなければ合格できないように出来ている。

さっきから嫌になる程あけすけな気配がどこからか漂っていて、誰かが監視していると言っているようなものだった。

間違いなくアリエスだろうが、気配は殺していないくせに位置を掴ませないとか何者なんだあの女。

あの長身がそこらへんにいれば一発でわかるはずなのに見渡した所で影一つない。

それなのに見られているという気配だけは丸わかりで非常に気持ち悪い。

マリーは気付いていない様子だったが。


 (つまり監視の下に魔物を倒さなくちゃいけない)


 そしてもしダメだったなら俺との勝負もお預けということだろう。

……クソ忌々しい。やり口が気に入らない。あの女が気に入らない。

 アリエスのことを思うと、あの時の言葉を思い出す。

何が裏切りが怖いだ。俺はお前なんか信じようとも思っていない。

ついあの時は我を忘れてしまったが考えてみれば何と言うことはない。

俺が約束といったのはただの言葉の綾であり、深い意味なんてものはない。

それを言葉尻だけ捉えて惑わされただけだ。


 (それはマリーだって同じことだ。協力はするが、ただそれだけ)


 これが終わってアリエスとの戦いが終わればここにいる理由なんてもう一つもない。

マリーとも二度と会うことはないだろう。場合によっては彼女がそもそも会いたくもなくなるかもしれない。

それだけの覚悟はすでにある。




 色々と思う所はあるが、この試験に関してはどういう意図があれど俺が魔物を倒せばそれでいいだけのことである。

魔物には何の恨みはないが、文字通り俺の糧となってもらおう。

Lvが上がれば俺のステータスも間違いなく上がる。強くなっていく。

俺が魔物を倒す理由なんてそれだけで十分だった。


 「うん……あたしにもやれることは、ありそう」

 「そうか、ならそれをやってくれればいい。後は俺がどうにかする」

 「うん、わかった。ありがとね、ミコト」

 「礼を言われるようなことは何もしてない」

 「そんなことは……ッ。ミコト!」


 否定しかけたマリーの言葉は最後まで続かず、代わりに押し殺しつつも鋭い声で俺の名前が呼ばれ、手を強く引っ張られる。

ただならぬ様子に俺は逆らうことはせずに身を任せ、近くの茂みの中に二人共突っこむ形になった。

枝葉が肌を擦って小さな切り傷を作る。それを気にすることなく、何かから身を潜めるようにマリーは息を殺している。

 何があるというのか、彼女の視線の先には一体何が。

ついっとマリーの視線を辿る俺が見たのは、異様だった。

あれは……何だ?

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