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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第一章 幼少期 リヒテン編 『信じるものは救われない』
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第五十三話 鏡の中の

ちょっと短いです。

 貴方はどうして生きているの?どんな理由があって呼吸をしているの?

……復讐だ、それしか俺には残されていない。


 今更そんなもので誰が満足するというの?

……死んだ者はかえってこない?そんなことは知っている。ただの自己満足だって言うことも。


 そう、貴方がそんな安い理由で生きているから翻弄される。周りを巻き込んでしまう。

……違う!!俺だって好きで巻き込みたかったわけじゃない!!俺が悪いんじゃない!!


 お前に産まれてきた価値があるのか?母を殺してまで生きている意味があるのか?

……俺が母親を殺したんじゃない!いつまにかそうなっていただけだ!!


 貴方はただの玩具なのよ?運命に弄ばれるだけの人形なの。

……俺は意志を持たない道具じゃないっ。ちゃんと感情だってあるんだ!


 違うわ、貴方はただの部品。代替品でしかないの。

……お前がそれを押し付けただけだ!俺は俺だ!誰の身代わりでもないっ。


 ミコト、貴方の為に死んだ私にもそんなことを言うの?

……!? み、ミライ……?


 あの時もし私が逆の立場だったら貴方は身代わりになってくれなかったの?

……ち、違う。俺はミライを助けたかった。例え自分が死んでしまったとしても!


 ほぉら、貴方はただの部品なのよ。

……黙れ、黙れ黙れ!!


 貴方は人形なのよ。

……うるさい!頭の中で囁くなぁ!!


 お前に価値はない。

……それ以上口に出すなら消し飛ばしてやるぞクソがぁぁああ!!!


 私もそうやって殺すの?今度はその手で直接殺すの?

……もう、もうやめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。


 そんな目?どんな目?あの場所で貴方を見上げていた子供のような目?

……!!!!




 「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 飛び起きた際に耳に飛び込んできたのは絶叫だった。

それが自分の声だったのだと気付くまでに数分。乱れきった頭の中は考えることを許さない。

その間、俺はびっしょりと汗で体を濡らして荒い息をついていた。


 「夢……だったのか」


 夢の中には様々な人が現れては消えていった。

名前もすでに忘れてしまった人々。

写真でしか見たことのない前世の母親、親父、俺を殺した義理の母親。

皆が皆、俺を取り囲んで責め立てていた。

どれだけ俺が否定しようとも誰も聞く耳さえ持たず、責め苦に耐えられずしゃがみこんでいた俺を冷たい視線で見下ろしていた。

それは…………俺を愛してくれていたはずの彼女でさえ同じだった。


 「違う違う違う。彼女はそんなんじゃない。俺を大切に思っていてくれたはずだ」


 ……果たしてそれは本当だろうか。

最早、思い出すことさえできなくなった彼女の記憶の中に本当にそんな思いがあったのだろうか。

頭の中ではずっと否定している。あんなことを彼女が言うはずがない。

あれは自分が作り出した幻想。そうに違いない。

だが絶対、と信じきることが出来ない。

 もし。

もし彼女が本当は俺のことを好きでも何でもなかったら。あの笑顔が仮面だったのなら。

その事実に直面するだけで体の震えが止まらなくなった。

がたがたと震え、体の芯から凍てつく冷たさが這い上がり津波のように押し寄せる。

自分の両腕で体を抱き締めようと、底冷えする冷気は一向に消えない。

暖かいぬくもりをくれた彼女が今はこうして俺の心に冷たい楔を突き立てていた。

がんじがらめに縛られた俺の体はそれからしばらくの間、震えること以外は許さないのだった。




 俺がそれから抜け出せたのは悪夢の残滓がいくらか薄れた頃だろうか。

ぼーっとした意識で頭の中をなるべく空にすることで元に戻ることが出来た。

 汗を吸った服が冷たくて気持ちが悪い。

俺に用意された服はどれも女物で、寝巻きでさえゴテゴテしたフリルなどがついていて辟易してしまう。

その中でも取り分けマシな部類の、膝下まで伸びた白いワンピースをクローゼットから取り出して着替えた。

変な装飾もなくシンプルなデザインだが、やはり俺が着ると女の子に見えてしまう。

立ち鏡でその姿を見て瞳を伏目がちにする。


 (……似ている)


 俺にこんな服を着せているのは、レコンが俺のことをミライと思っているからだろう。

奴の異様な雰囲気からしてルクレスに何かしらされたのだろうが、それを抜きにしても鏡で見るその姿は確かに彼女に似ている。

そっと鏡面に手を這わせれば、鏡の向こうの俺も手を合わせるように伸ばした。

ぴたりと手が合わさっても、当然のように冷たい感触しか残らない。


 (ミライの声が聞きたい……)


 そんな俺の姿に彼女の姿を重ねて見てしまう。

レコンのように逃避するわけではないが、どうしても記憶の中にある彼女の声、そしてぬくもりを思い出してしまう。

優しいあの声で、俺のこの思いをただの勘違いだと笑って欲しかった。

いつものように暖かく抱き締めて欲しかった。

それも今となっては過去の思い出であり、願いは叶うことはない。

 唇を噛み切ってそんな思いを俺は断ち切る。鏡の向こうでつーっと唇から赤い線が垂れ落ちていた。

弱い。弱すぎる。

俺の心はなんて弱いんだ。

確かに本当は愛してもらえていなかったというのならば、それは心が凍りつくほどに怖い。

だが例え嘘であったとしても、彼女がくれた物はそれ以上に俺に幸せをくれたじゃないか。

確かめる術のない疑心暗鬼に陥るぐらいならば、成すべくことに命を捧げればいい。


 (強くなりたい……何事にも動じない強さが欲しいッ)


 願えば叶う魔法のアイテムなんてそんな便利なものはここにはない。

いや、例えあったとしてもそんなものに俺は頼らない。

自分自身で得た物でなければ、一体何の価値があるというのだろう。

仮初の心の強さなんていらない。己だけで立ち上がることが出来る力が欲しい。

そうすれば、きっとこの大きく空いてしまった心の空洞も耐えられることが出来るだろう。


 「強くなる……俺は強くなる」


 自分で言い聞かせるようにして声に出せば、鏡に映る姿も彼女ではなくミコトその人になる。

何をかもをも強さに変えなければならない。

痛みもいずれは強さとなり、苦しみは心の成長へと繋がる。

辛さを憎しみの糧としろ。

日々、目的の為に邁進しなければならない。

この身は一本の復讐の刃。

研ぎ澄まされた刀身に迷いは曇りとなり必要としない。


――俺の目的はなんだ?


 「あいつらを殺すこと……」


――お前は何の為に生きる?


 「復讐を遂げる為……」


――強くなりたいか?


 「なりたい、じゃない。ならなければならない……」


 深呼吸を一つして、伏し目がちだった瞳を開く。

その瞬間、瞳に飛び込んできたのは決意を瞳に宿した俺の姿。

そこに迷いといったものは存在せず、ただ仄暗く瞳を光らせているだけだった。

 俺は弱い。それは疑いのようのない事実。これから先も揺らいでしまうことはあるだろう。

だがそれでも道は違えはすまい。どれだけ足を踏み外そうが這い上がり、意地汚く生きてやる。

どれだけの屈辱を与えられようが、体に痛みを刻まれようが諦めることはしない。


 「…………」


 その日から俺は彼女との思い出を思い返すことはなくなった。

それは全てが終わった後でも出来ることだから。

誰もいない音さえもない部屋の中、無言で佇むそんな俺の姿を鏡だけが静かに見つめていた……。

『思考進化の連携術士 EE』にて館の中での話を投稿予定です。

読まなくても差し障りはありませんが、興味が出た方はよろしければご覧ください。

ただ過激と思われる箇所があると思いますので、苦手な方はお気をつけください。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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