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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第百二十八話 闇に浮かぶ白

 暗闇の中で不気味な赤がたくさん蠢いている。地上に見える視界のほとんどが眷属たちで埋め尽くされていた。

うじゃうじゃと湧き出る眷属の数は確かに脅威だ。魔界樹からの敵の供給は今も止まっていない。

空から降り注ぐ鱗粉は光景こそ幻想的だが、俺たちにとっては厄介なことこの上なかった。

 眷属の個体としての強さもこのダンジョンの上層と比べると遥かに強い。

普通の魔術だったなら中級程度なら軽く耐えるだろう。


 「炎よ。我が敵を打ち払う矢となりて貫かん。フレイムアロー!」


 だが弱点さえ突けばその強弱も逆転する。

女生徒が放った炎の矢は見事に敵に直撃し、容易く魔物の体を貫いた。

体を貫かれた木の化け物はそれでも生き汚く足掻こうとしていたが、炎は体の内から燃え上がる。

瞬く間に炎は全身に燃え広がり魔物を火達磨にしていった。


 「やった!!」


 嬉しそうにガッツポーズをして声を上げる女生徒。

たった一匹の魔物を倒したに過ぎないが、戦いの経験があまりない女生徒にとってはそれが自信へと繋がる。

手応えを感じているのは一人だけではないようで、戦いの場には場違いな明るい声が所々からあがっていた。

 魔術師は生徒や先生を含み総勢八十名、冒険者が十名程度。

それが今のグリエント本隊の戦力だった。残りの者たちは学校の防衛に当たらせている。

数的にはなかなかのものだが、魔術師に限ってその実態のほとんどが魔術師の卵のようなもの。

戦力的には頼りになるとは言いがたい。


 (それでもいないよりはマシだが)


 士気があがる生徒たちを冷めた目で見ながら戦況を確かめる。

遠距離戦を徹底しているおかげで今の所、グリエント側に情勢は傾いている。

これがいつまで続くかはわからないが。

 魔術も万能ではなく、MPというものが尽きると使えなくなるばかりか意識を失う危険性もある。

戦いの最中にそんな状態になれば死は免れない。

 そんな魔術師の鉄則を熟知しているのだろう。

ある程度魔術を使った者は後ろに下がらせ、交代交代に攻撃を仕掛けている。

下がった者にはポーションでMPを回復させているようだ。

苦い顔をしてポーションを飲み干している生徒の姿が見える。

薬草の類を調合して作られているおかげで、基本的にポーションはまずい。

 そのポーションも生徒たちが各々準備していた物を持ち寄って集め、学校に常備していたアイテムもこの決戦に使うようだ。

幸い、学校の設備も丸々転移したおかげでアイテムは無事だった。

後方支援にまわっている一部の生徒が大量にアイテムを配っている様子が見えた。

怪我人には手当てと回復魔術を、前線に向かう戦士には回復ポーションを受け渡している。

あの中におそらくマリーもいるのだろう。そんなことをなんとなく思った。

長期戦になってもある程度は問題なさそうだ。


 (だが、敵もそこまで馬鹿じゃない)


 魔術師は遠距離は得意だが、近距離は不得手としている。

熟達した魔術師ならば近接戦闘に対する備えもあるだろうが、まだ子供である学生たちにそれを望むのは酷だ。

敵もやられているばかりではなく、魔術の砲弾の嵐を掻い潜って距離を詰めてくる素早い個体が現われる。

 しかしそうはさせんとばかりに立ちはだかるのが冒険者を始めとした戦士たちである。

戦闘経験豊富な彼らはブロッカーとしての役割を十二分に全うしていた。

それこそ蟻の子一匹たりとして後ろに通していない。

その中には瀕死の重傷を負っていたはずのライザーの姿もあった。

傍らにはぴったりと寄り添っているアマナの姿もある。


 「なかなか根性があるな」

 『でも顔色があまり良くないのですよ』


 心配そうなシルフィードの声。なるほど、ライザーは戦闘が始まったばかりにしては玉の汗を顔に確かに浮かべていた。

マリーの治療はうまくいったのかもしれない。だが回復魔術は傷を治せても大量に失った血液は戻せない。

激しい戦闘を繰り広げるには、貧血状態だと相当に苦しいのだろう。

 ライザーに余裕といったものがなく、それでも必死に眷属たちと戦っている。

アマナはその傍で一度ライザーを失いかけた経験があるせいか、鬼の形相で周囲の敵を蹴散らしている。

なりふりを構わない戦い方は眷属の反撃すら受け付けない圧倒的なものである。

だが、あれは冷静さを失っているだけだ。すぐに体力の方が底をつくだろう。


 「また死に足を突っ込むのか。今度は二人仲良くあの世にいければいいな」


 薄く笑いながら本心でそう思う。

取り残される気持ちというものを知っているだけに、思い合あっているのならばいっそのこと二人で死ねばいいと思う。

 さて、まぁそんなことはどうでもいい。

俺が余裕そうに傍観しているように見えるだろうが、俺も砲撃部隊に参加して遠距離から魔術を叩き込んでいる。

並び立つ学生たちよりよほど強い魔術を放つ。だが、それでは満足できない。

魔法が未だにうまく使えていないからだ。風の剣は精製できるが、もっと破壊力がある魔法は使えない。

クロイツと戦った時に使えたあの黒い槍や、能面の男と対峙した時に使った腐食の性質をもった魔法。

あれが使えればそれこそ一人で戦えるのに。


 (焦るな。まだその時じゃないだけだ)


 自分に言い聞かせながら魔術を放つ。

ちまちまとこんなことをしているより、四枚羽で空を駆け風の剣を振るって敵を蹂躙した方が早いのはわかっている。

そうするだけの自信はもちろんあるが、実際に行動に移せば後ろからの誤射が飛んでくるだろう。

俺の速度についてこれる奴なんてここにはいないと確信をもてる。

 俺の精霊化した姿がよほど珍しいのか、ちらちらとこちらを見る緊張感のかけらもない馬鹿もいる。

今更ながら俺の魔術の威力に驚いている奴はまだかわいいものだろう。

そんなことに驚いたり、余所見している暇がお前らにあると思っているのか?

優勢であることに早くも勝利したと勘違いしている馬鹿が多すぎる。戦いはまだ始まったばかりだ。


 「そろそろ仕掛けてくるだろうな……」

 「え、今何か言った……」


 呆けた調子で俺のことを見ていた隣の奴が言い終わる前に、それは現われた。眷属たちとは明らかに違う異物。

暗闇の中でも浮かぶ白い物体。赤目がゆらりと幽鬼の如く揺らめき、からからという骨の音が鳴る。

赤目が十。眷属たちの合間からぬらりと現われた。それは五体ものスケルトン。

白い骨で体が構成されたその魔物は雑魚に分類されるのが一般的な常識である。

 一瞬だけ虚をつかれた生徒たちは、突然現われた雑魚モンスターに笑いながら魔術で攻撃する。

眷属たちを容易く屠ってきた生徒たちにとって、スケルトンはもはや敵ですらない。

スケルトンも火属性の魔術に弱い。ならば容易に倒せるに違いない。

そんな自信に裏打ちされた魔術は、しかし、魔術障壁によって打ち消された。


 「は?」


 誰が呟いた声かさえも定かではなく、その隙をつくようにスケルトンの一体が姿勢を低く、まるで弾丸のように駆け抜ける。

スケルトンにあるまじき動きに、さすがの冒険者たちも驚く。

あっという間に接近され、目の前まで寄られた時にようやく我を取り戻した。

 大きな隙を見せてしまったが、されどそこは経験豊富な冒険者。

スケルトンの抉りこむような必殺の一撃に剣をなんとか合わせた。

しかし何処にそんな力があるのか、その一撃は鋭く重い。冒険者は剣筋を逸らすことだけで精一杯だった。

それでもぎりぎりの所で回避には成功する。薄皮一枚、攻撃された冒険者の首筋に一筋の赤い線がはしる。


 「くっ!!」


 苦し紛れの冒険者の反撃も空を切り、スケルトンは大きくバックステップを二歩、三歩と取りながら下がっていった。

一撃必殺のヒットアンドアウェイ。盗賊や暗殺者がよく使う戦闘方法だった。

軽装のそのスケルトンをかばうように、全身を鎧で覆った奴が前に出てくる。

凶悪な外見をしているモーニングスターを右手に、縦長のカイトシールドを装備した重装甲のスケルトン。

外見からはスケルトンだとはとても思えないが、動く度にからからと骨が鳴る音がするのだ。


 「ようやく出てきやがったか!!」


 俺はいても経ってもいられず、後衛部隊から即座に抜け出した。

編隊に加わってはいたが、最初から最後まで後ろにいるつもりはなかった。

どうせこの指揮を務めているあの女もそれは期待していなかっただろう。

一っ飛びで冒険者たちの所へ辿り着くと、俺は静かに風の剣を作り出しスケルトンに相対する。


 「お前たちは下がっていろ。ここは俺が相手をする」

 「し、しかし、君は学生だろ。こんな得体の知れない奴を相手にさせるには危険すぎる」


 常識的な言葉を口にしているようでいて、それは全くの勘違いだ。

そもそもがお前らではこいつらの相手にならない。

いちいち口論するのも馬鹿らしく、巻き添えになるならそれでもいいか、と俺は口を閉ざした。

そんな俺たちの合間にライザーが姿を見せる。

スケルトンの姿を見て、自分が斬られた時のことを思い出したのか、苦い顔をしている。


 「……彼なら大丈夫だから、俺たちは後ろに下がろう」

 「ライザー!?お前まで何を言っているんだ!」

 「さっき敵のど真ん中を駆け抜けながら、敵を倒していった光がいただろう。その光の正体が彼だ」

 「なっ……こんな子供が?」


 遠目からだとただの光にしか見えないだろうからな。

何処からその情報を仕入れてきたのかは知らないが、死に損ないのくせに役に立つじゃないか。

未だ怪訝な顔をする冒険者を連れて、ライザーはこちらに顔を向けて弱々しい笑顔を見せながらこくりと頷いた。

後は任せた、とでも言ったつもりだろうか。

 そんなライザーの傍らでアマナが何故だか俺のことを睨みつけていた。

何でこの女は俺のことを睨んでいるんだ?さっぱりわからない。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。

さっきまでの戦いぶりだと、そう遠くない未来に死んでいただろう。

こうしてライザーと共に後ろに下がることで生き長らえたというのに。

やはりあの時、斬り捨てていればよかった。

そんな栓のないことを考えていると残りのスケルトンが三体、そして因縁の男が再び顔を見せた。


 「クロイツ。さっきぶりだな。何処に逃げ帰っていたんだ。尻尾を丸めて逃げやがって、貴族としての名が泣くな?」

 「……もう、貴族としての名、捨てた。僕はただのクロイツ」


 安い挑発にも乗ろうとしてこない。やはり、明らかに前とは様子が違う。

俺はつまらないとばかりに鼻を鳴らす。


 「まぁいい。お前には聞かなければならないことが山ほどある。力づくでも吐いてもらうぞ」

 「今度は戦う。ミコト、お前を倒す」

 「玩具を貰っただけの小物のくせに、大口叩いてんじゃねぇ!!」


 ブーストを起動しての急加速。びゅう、と耳が風の音を捉えた時には俺はフルアーマーに風の剣を振るっていた。

スケルトンの中では唯一、こいつだけが俺の攻撃を受け止められる。

ならば初手で最初に潰してやる。

 上段から振り下ろした一撃はカイトシールドに防がれた。ぎりぎりと剣と盾が拮抗する。

反応速度はそこそこといったところか。

やはりこいつらはただのスケルトンじゃないな。おまけに遡行の魔術もかかっているから回復力は尋常ではない。

原型がないほど叩き潰したとしても数秒後には何事もなかったかのように復活するだろう。

面倒な相手には違いないが、この程度の敵を倒せないであいつに手が届くはずがない!!


 (シルフィード!!)

 『わかっているのですよ!この人たちは危ないのです。ここで倒します!』


 俺の合図を待っていたかのようにシルフィードの魔術が構築されていく。他人に自分の体で魔力を使われるのはやはり妙な感じだ。

剣を持った手とは逆の手から魔力が勝手に励起していく。

俺はタイミングを見計らって剣から力を抜いた。必然、フルアーマーの盾が競り勝ち、俺の剣を弾き飛ばそうとする。

馬鹿が。にやりと笑いつつ、俺はされるがままに剣を手放した。


 「ァァァア!!」


 モーニングスターを横殴りに振りかぶりながら、おぞましい叫び声が兜越しに聞こえてくる。

聞くに堪えないな、俺はそんなことを思いながら最小限の動きで上半身を逸らしてその攻撃を避ける。

空を切る鉄球が鋭い音を響かせる。当たっていれば頭がトマトのようにぐちゃっとなっていただろう。

グロテスクな想像をする俺とは対照的に、フルアーマーは隙のない流れるような動きで、今度はカイトシールドを叩きつけてきた。

シールドバッシュ。単純な攻撃ながら受ければ体勢を崩され、次の一撃を避けるのは困難となるだろう。


 「残念だったな?これは罠だよ」


 こいつらスケルトンはおそらく冒険者を元に作られている。

それもレベルの高い熟練者だ。その動きから明らかな戦闘技術が垣間見えていた。

ただのスケルトンよりよっぽど凶悪なのは間違いない。

 しかし、このスケルトンには弱点が存在している。

少ない戦闘時間ながら、それを俺は把握していた。こいつらはあまりに最適化されすぎている。

一手、一手が最善を選び取っているのだ。だからこそ動きが読みやすい。


 『風よ風よ。轟く風よ。私たちを守って欲しいのです。強き調べをここに……"戦場のフーガ"』


 シールドバッシュが俺に当たる前に、シルフィードの魔術が完成を迎えていた。

その魔術を俺は左手から放つ。先ほど俺が剣を当てた盾へと。

 効果は劇的である。

元々、シルフィードの魔術は強力であったが、俺の連携術士のスキルと相まって威力は倍増された。

風の剣さえ受けた盾は紙切れのように粉微塵になり、その先にいるフルアーマーをも切り刻む。

元はどんな魔術だったかは知らないが、瞬きする間にフルアーマーは細分化されて原型さえわからなくなっていった。

 一瞬の攻防に勝利する。

前回は他のスケルトンの邪魔が入って厄介なことになったことを踏まえ、速攻で片をつけることにしたのだ。

隙を見せたのも、このスケルトンなら様子見することなく間違いなく攻撃してくるとわかっていたからだ。

 これで厄介な壁は始末した。

すぐに復活するだろうが、時間はそれだけで十分だ。

術者からの魔力供給さえなければ、召喚された魔物は現世に留まっていられない。

クロイツは残りの四体のスケルトンに守られるように後ろに下がっているが、そんな紙切れみたいな陣形で何秒持つと思っているんだ?

弾き飛ばされた剣を再び生成させて、俺は地を駆けて再び攻勢に出るのだった。

誤字・脱字があったら教えていただけると幸いです。

また感想・評価の方も随時受け付けております。

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