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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第八十五話 リンカーの能力

 俺の変化を見て様子見でも決め込もうというのだろうか。

プリムラは自分から攻めることをしなくなった。

右手の魔剣を少し後ろに構え、体を斜めにずらすことで炎の騎士盾で身を隠す。

磐石な防御の姿勢だった。こちらが本来の戦い方か?

 動かないなら動かせるまで、と遠距離から魔術を叩き込もうとも魔剣と盾に阻まれる。

INTが多少は改善したといってもプリムラには効かないか。

落胆しているわけではない。むしろ朗報である部分も多い。

ずいぶんと魔術がスムーズに扱えるようになっていたからだ。

これなら今まで出来なかったことも可能になるかもしれない。


 (お前の力を借りるぞ、シルフィードっ)


 心の声でそう伝えれば喜びの感情がシルフィードから返ってくる。

自然と頬が緩むのを感じながら、俺はプリムラに突っ込んでいく。

ブーストを掛けた高速移動。俺の背中に生えた四枚羽は呼応するように輝いた。

風が俺の背中を押してくれている。そこに俺はシルフィードの力を感じていた。

 更なる加速を得た俺は片手に風の剣を持ちながら疾走する。

風景が歪むほどの速度の中、俺は高速思考を起動させた。

移ろいゆく世界に楔を突き立てて、時の流れに逆らう。誰にも追いつけない、俺だけの……。

いや、それだけじゃ……ダメなんだな。

 自分だけの不可侵領域に俺は少女を受け入れようとする。

俺だけがいた世界だ。誰かを招き入れるのはどうしようもなく怖い。

俺がつくれる確かな居場所なんてここ以外知らないから。奪われたら、なくしてしまったら。

そう思うと怖くして仕方がなかった。

その感情は本能に刻まれた傷跡で、自分でも制御することは出来ない。

 ふわりとその時、誰かに後ろから抱き締められたような感覚がした。

感じた感触は小さな女の子のもので、シルフィードがもしも俺と同じぐらいの大きさなら、こんな風な感触だったのかもしれない。

怖れはなくなっていない。それでも自分だけだった世界に優しい風が吹く。

何処までも臆病者の俺に小さな精霊は微笑んでくれている気がした。


 (……シルフィード)


 俺は何かを言おうとして、そして何かを言う前に口を閉ざした。

語ることはいくらでもある。でも今はそうしている時間がない。

 そして俺は現実世界へと回帰する。目と鼻の先にプリムラがいた。

炎の盾の向こうから垣間見えた瞳は、執拗に俺にすがり付こうとする狂気染みたものではなかった。

その目は俺を敵だと明確に認識している。

 鉄壁の防御で迎え撃とうとするプリムラに、俺はぶつかる直前に無詠唱のウィンドを放った。

下級魔術ではあの守りを突破することは叶わない。

掲げた炎の盾によって容易く風の魔術はかき消された。

一瞬でも目くらましに使えればそれでよかった。

 おそらくプリムラはそれさえも読んで、俺が風の剣で攻撃してくると思っているのだろう。

魔剣で魔術を切り払わなかったのも、強烈なカウンターを叩き込むため。

だが俺は魔法の剣を自分の手の中から消した。目を見開くプリムラ。

無手のままで両の手を俺はプリムラに突き出した。


 「風よ、断ち切れぬ翼となりて、数多の同胞を率い狩人となれ」


 詠唱を聞いたプリムラは唇の端を歪ませる。自分にはその魔術は効かないと思っているのだろう。

近距離に相手がいるとはいえ、俺が予想外の行動をとったことで躊躇したプリムラは防御することを選んだ。

事実、INTは上がったが中級魔術は通用しないだろう。二重詠唱でも怪しい。

だから俺は一人の力ではなく、俺とシルフィード、二人の力を合わせることにしたのだ。


 『小さな風の子は戯れ、愛しき空へと誘うだろう。満ちよ風刃』


 右手には俺の魔術、左手にはシルフィードの魔術が宿る。

高速思考の領域をシルフィードに一部でも託したことによって可能となる新しき二重詠唱。

魔力の高鳴りで体が熱い。自分の魔力を自分以外の者が使うという違和感にむずがゆさを感じる。

だが、不思議とそれも悪くない。


 「ウィンドブラスト!!」

 『エアレイド!!』


 同時に発動した風の魔術は種類が違えど、俺の魔力で出来たものだ。相乗効果は当然のように現れる。

無数、数多の風の群れ。数えるのも馬鹿らしいほどの風の刃の中心にプリムラが身構えていた。

風の刃の姿は見えなくとも、取り囲まれているのは肌身で感じているのだろう。


 「さっきと同じ結果になるだけですわよ、ミコト!フレイムサークルっ」


 プリムラは焦ることなく片膝をついて、炎の盾を地面にたたきつけた。

次の瞬間には彼女を守るように半円状の緋色の障壁が生まれ出た。

もしかして最初の二重詠唱の時、あれで防いでいたのか?あんな手札をもっていたのか。

よほど防御に自信があるのだろう。その顔には余裕さえ浮かんでいた。

 上空に待機していたシルフィードの魔術が先方を務める。

発生場所が比較的自由に決められるエアレイドだったが、威力はその分低いようだ。

相乗効果のおかげでその数こそ馬鹿げているものの、プリムラの障壁を打ち破ることは出来なかった。

ならばと俺のウィンドブラストも射出する。しかし、結果は同じだった。

そのことにプリムラは笑みを深くする。


 「まだ笑うには早いんだよプリムラ!!」


 今度は同時に二人の魔術を緋色の障壁へと差し向けた。

単体の火力が足りないなら量で押せばいい。

上空と地上からの同時攻撃。さしもの鉄壁の防御といえど響かせることぐらいは出来ると思っていた。

しかしそこには俺にも予想が出来なかった光景が広がっていた。


 「なんですのこれは……きゃっ」


 それは響く所ではなく、緋色の障壁といわず根幹であるプリムラも大きく揺さぶるほどの衝撃を与えていた。

魔術が、変化した?

 シルフィードのエアレイドが雨の様に降り注ぐ中、ウィンドブラストが交差するようにプリムラの元へと辿り着いた。

鉄壁の障壁はそれぐらいでは揺るぎもしない。

無駄に終わりそのまま消滅するかに思えた魔術が、より一層強力になり燕のように空中で踵を返して更なる連続攻撃をしたのだ。

エアレイドはその身軽な小さな刃をより鋭く尖らせ、ウィンドブラストはもはや死神が持つような大鎌に変貌していた。

 驚いているのはプリムラだけじゃない。魔術を撃った俺自身もそうだ。

魔術の維持はなんとか続けているが、これ以上新しくウィンドブラストを射出する意味がない。

未だに消滅していない風の魔術がプリムラの障壁を削り取っていっているのだから。

俺と同じ思いなのだろう。シルフィードも攻撃を更に加えようとはしなかった。


 「くぅっ。調子に乗らないでくださいませんか……!!」


 プリムラはただ防御に徹していてはいずれ追い込まれると思ったのだろう。

自ら障壁をかき消して立ち上がる。

自慢の障壁を崩され、正体不明の攻撃に曝されているというのに動揺は見られない。

 魔剣で小さな刃であるエアレイドを、騎士盾で凶悪な形をしているウィンドブラストを迎撃する。

直感というにはあまりに的確な対処法。

それでも相殺にすら到らず、ぎりぎり凌げているだけだった。


 (これはどういうことだ?)


 精霊化の影響?二重詠唱の隠された相乗効果?

どちら可能性としてはあるかもしれないが、いまいちピンとこない。

もっと何かがあったはずだ。俺が気付いていないだけで答えは目の前にあったはず。


 (魔術がプリムラを攻撃した後に変化した。……もしかして、タイミング、か?)


 攻撃を重ねることに意味がある?いや、それは前の二重詠唱の時も変わらない。

なら前と今で違う部分が……そう、今回は俺だけではなくシルフィードも一緒に魔術を唱えた。

……まさか。

俺のExクラスである連携術士(リンカー)の能力か?

 連携術士のスキルにはコンボというものがある。

あれは他の人と力を合わせることで攻撃が強くなるというスキルだったのだが……。

どうせ俺は自分一人でやっていく。大したものでもないだろうと、記憶の中からも消えかけていたというのに。

こんな効果を持っているなんて思いもしなかった。Exクラスというものを俺は甘く見ていたのかもしれない。


 『ミコト。そろそろ魔術を止めないとプリムラが……それにMPも馬鹿にならないのです』

 「あ、ああ……」


 思わず声に出しながらそう返事をして魔力の供給ラインを断ち切る。

流す魔力がなくなればどんな魔術だろうとたちまた効力を失い、消えていく。

例にも漏れず、俺の能力で強化された魔術も消えていった。

その様子に何処となく俺はほっとしていた。


 「ミコト……」


 プリムラの声を顔を向けると、彼女ははぁはぁと荒い息をつきながら魔剣を地面に突き立てていた。

あれだけの猛攻を受けながら傷の一つも見当たらない。

その代償として鎧は所々が破損して崩れかかっている。騎士盾はその存在すらがもうなかった。

たった一度の攻撃であれだけの強さを誇っていたプリムラが見る影もなくなっている。

早目に攻撃の手を止めたのは正解だった。続けていれば大怪我をしていたことだろう。

 そう思っていた俺だったのだが、プリムラは違った。

魔剣の柄の部分を支えにしながらも顔をあげ、強烈な視線を俺に投げかける。

その表情にははっきりとした怒りが刻まれていた。


 「貴方、今、私に情けをかけましたわね……ッッ!!」

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