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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第一章 幼少期 リヒテン編 『信じるものは救われない』
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第十三話 魔術の実技

 あれから少し休憩を入れて、さぁ魔術の練習をするぞ!となったのだが、魔術を学んだ先達であるプリムラより俺が先にすることになった。

主に体力的な面で後がいいらしいが、本当にそれは疲れているからだろうな?

目が泳いでいたのが気になるが、まぁ早く魔術に触れてみたかったからちょうどいい。

なんたってあのステータスだし、魔術なんて余裕だろ!

パパッと二人にいいとこ見せてすげーすげー言わせてやるぜっ。




 「フゥゥーーーーーーーーー」


 深く深く息を吐き出して俺は精神を落ち着かせる。

肺から空気が抜け出し、体が弛緩していく。それと同時に目を閉じた。

周囲の音がノイズとなって耳に届く。もう一度深呼吸。

段々と音が遠くなり、風のざわめきや木々のゆらめき、そして自らの鼓動さえ遠く遠く。

無音。

時間さえ意識しなくなった時、ようやく訪れたその静寂。

俺はその静寂を自ら破り、ミライから教わった魔術の詠唱を厳かに唱えた。

数メートル先にある的に意識を向け、魔力を放出するイメージを伴いながらその魔術を行使する。


「風よ、放て。ウィンド」


 ……しーん……。

あれぇ?

シュバババーン!って音が聞こえてこないぞ?

これゲームだったらバグだ!って激しい批判受けてもおかしくない場面だよ?

試しにもう一度やってみるが何も起こらなかった。

あれーーーーーーーーー??




 魔術というものは精神に大きく関係する、という話を思い出しながら俺は自分なりに魔術の準備を行い、思いの外うまくいったんじゃね、と後から振り返っても準備万端と思えるのに肝心の魔術は発動しなかった。

めちゃくちゃ時間をかけたんだぞ。瞑想と言えるぐらい頑張ったのにちくしょう。

所詮は素人の精神統一か……。

がっくりと肩を落とす俺に、後ろで見ていた二人が声を掛けてきた。

一人はちょっとだけ嬉しそうに。一人は苦笑を混ぜながら。


 「残念でしたわねっ。ミコト」

 「うーん、やっぱり言葉で説明しただけじゃすぐには使えないね」


 おい、プリムラ。お前声が弾んでるんだよ。

俺が自分と同じで魔術が使えないって喜んでいるのが見え見えなんだよ!

口の端っこひくひくさせやがって、それで隠しているつもりかっ。

くそ。自分のステータスがチート臭いから魔術なんて楽勝だろ、と楽観していた過去の俺を殴ってやりたい。

ミライはミライで期待してくれていたのか、残念そうな声がグサリと心に刺さる。

 あー。なんでだ。

アナライズより詠唱が短いのによ。あっちは特に意識しなくてもポンと出来たってーのに。

ミライがやっぱりって言ってたってことは、ウィンドは難しいのか?

アナライズは入門の魔術だからちょー簡単だったってことか。

ええい、考えていても仕方ねぇ。出来ないなら何度でもやりゃあいいんだろ!

やけっぱちな気持ちでもう一度試そうとすると、プリムラの声が聞こえて後ろから俺の肩を軽く叩いてきた。


 「今度は私の番ですわ!」


 振り向けば自信満々に鼻息を荒くして胸をどんっと叩くプリムラ。

なんだろう、最初のイメージは高貴な雰囲気を持つ美少女お嬢様って感じだったのに、会うのが二回目にしてこの残念さ具合は……。

俺がお嬢様に変なイメージを持っていただけだろうか。

今時のお嬢様はこうやって腕まくりして気炎を上げながら魔術を使おうとするのだろうか……。

 そんなことを思っているとは知らず、プリムラは俺たちから距離を取るとおもむろに精神集中を始めた。

こう見ても俺がしていたのとあまり変わりなさそうなんだけどなー。

一体何がいけなかったのだろう。

思考の迷宮に迷い込みそうになった時、晴れ晴れとした青空の下で威勢のいいプリムラの言葉が響き渡る。


 「ハァ!風よっ、放てぇ!ウィンド!!」


 ……しーん。

ち、沈黙が痛い。俺より気合いれまくりの詠唱が更に痛さを倍増させる。

オマケになんだあの格好は。なんであんなにかっこよさ気と思わしきポーズとってんの?

プリムラは前に体を倒しながら左手を右の肩に添え、右腕を前に突き出していた。

本人はかっこいいつもりなのだろうが、傍から見れば妙にへっぴり腰で情けない。

そんなコミカルな姿勢を保ちつつ、顔はあくまで真剣そのものなのである。

不倶戴天の敵がいるかのように、その眼から放たれる視線の強さは尋常ではない。

まぁそんな敵いねーわけだが……。


 「ふぅ!失敗しましたわ!」


 えぇー……なんでそんなに爽やかな笑顔で帰ってくるの?

自分で失敗したと言いつつ、やり遂げたぜ、って雰囲気出しまくるの?

まるで動いてもいなかったのに汗を拭う仕草をしながら、そうしてプリムラの魔術の練習は終わった。

……終わったんかいっ!




 プリムラは一度試して満足したのか、それからは近くにあったベンチに座って休憩している。

そんな満足そうな顔してていいのかお前は。

ミライはミライで何も言わないし、これってもしかして諦められてる?

いや本人が納得しているならそれでいいのか……。

 しかし、さっきはプリムラの様子を見て俺とあんまり違わないな、と思っていたがこんなに残念な結果を見るとそもそも精神集中の仕方が違うのかと思えてきた。

まぁ見た感じは同じだが、内心何を思って集中に費やしているかわかったものではないが。

ミライに聞いてみても、要領の得ない答えが返ってくるだけだった。

ミコトを抱っこしている時のこと思い出してるよ、と言われてもそれ本当に集中できているのかと。

実演して貰った時はすごく真剣に取り込んでいとも簡単に成功させていたが。

とてもそんなことを思いながらやっている風には見えなかった。

やはりこれは自分なりに答えを出すしかないのだろうか。

 ちなみにウィンドは名前の通り風属性の下級魔術で、その効果もシンプル。ただ風を叩きつける魔術だ。

魔力の量によって威力は変動するらしいが、まぁINTが高ければ威力も相応になると思って間違いは無いだろう。

ミライのウィンドは、的であるカカシくん(屋敷のメイドさんお手製)の全身がブルンブルン震えるほどの衝撃波を繰り出していた。

下級魔術でこれかよっ、すっげぇー!

と喜んでいたのは、俺のクールなイメージが崩れるから内緒である。


 顎に右手を当てて思い悩んでいると、下に落としていた視線が地面に影を見つけた。

ついと顔を上げるとミライがすぐ傍にいて、微笑みながら俺に話しかけてきた。


 「魔術、難しい?」

 「難しい、かも……」


 難しいと断定するには些か悔しくして、俺は言葉を濁した。

そんな俺の態度が微笑ましかったのか、笑顔の質を一段階上げて彼女はアドバイスをしてくれた。


 「ミコトはね、たぶん考えすぎなんだよ」


 それ以上言うことはないとでも言うように短く言い残すと、ミライは俺の傍から離れていってプリムラがいるベンチへと歩いていった。

考えすぎ、か……。

俺は歩いていくミライの後姿を見据えながら、彼女が言った意味を考えていた。

いや、そもそもこれがダメなのだろうか。

どうも俺は考え込む癖みたいなものがある。

高速思考などと言うスキルが発現したのも、それが原因ではないだろうかと思うほどに。

魔術に対して様々なアプローチを考えてはいたが、結局の所もっと単純でいいのかもしれない。

言うなれば思考よりも、もっと感情的な何かを込める。

精神論なんて馬鹿馬鹿しいと笑ってしまう俺がいるのも確かだが、精神集中とはその為にあるのかもな。

心を落ち着かせるだけではダメだ。それでは先ほどの二の舞だろう。

ならば、その先に感情を乗せれば……。


 「よし!」


 俺は一つ気合を入れるために両手で自分の頬を強く張った。

……すごく、痛かったです。

やりすぎた。アホか。

ヒリヒリする頬は、しかし心を引き締めるのにはちょうどいい。

しかしアレだな、プリムラのやり方もあながち間違いではなかったのかもしれん。

格好をつけることで気分の高揚を図り、声を張り上げてその感情を乗せる。

一見、ふざけているように見えるが実は理に叶っているのかも。

まぁ俺は絶対にあのポーズは真似しないが。だが声に感情を乗せるのはいいアイディアだ。

 俺は初めに試した時のように精神を落ち着かせる。ここのフェーズは間違っていないはずだ。

そうして周囲の声が遠ざかり、集中による無音が訪れる。

一秒、二秒、三秒……。

胸中で数を静かに数えれば、細波は消え去り心の水面が水平を保っていく。

そうして更に数を数えて、積み重ねた五秒が経った時――。

かっと目を見開き、視界に世界を取り戻す。

意識はカカシに向けられ俺は右の手の平を向けて吹き飛べ!と言う感情を言葉に乗せ、風の魔術を唱えた。


 「風よ!放てっ。ウィンド!!」


 唱え終わると同時に、(ごう)、と凄まじい音が鳴り響き衝撃が手の平を駆け抜ける。

魔術のあまりの反動に、俺の小さな体はあえなく逆方向に吹っ飛ばされた。 

何がなんだかわけがわからないまま、二転三転と俺の体は勢いそのままに転がり続ける。

幸い地面は柔らかな芝生だったので痛みはそれほどなかったが。


 (うおおおおおおおおお。目が回るうううううううううううううう)


 その分、回転具合がひどかった。

そんな俺が自分がどうなっているかわかるはずもなく、ローリング街道まっしぐらだった。

たっぷりと時間をかけてようやく止まった時には、体中は草だらけ。

三半規管は揺らされまくりで世界が回る。俺を中心に回る。

仰向けに倒れてしばらく立つこともままならなかった。

地面に寝転がって見上げた空は青かった。青いぜ……青すぎるぜ。

そんなことをシェイクされた脳みそで思っていると、慌てた二人の声が聞こえてきた。


 「ミコト!大丈夫!?」

 「すごい勢いで飛んでいきましたわ!?逆噴射ですわ!?」


 お、お~?

未だまとまりきらない頭を振りながら体を起こすと、こちらに駆けて来るミライとプリムラが見えた。

その姿を見てなんだかほっとするが、二人の後に広がる光景を見てぎょっとした。

 カカシくんが、いなかった。

あのカカシ、屋敷の警備員っぽい筋肉質な人が木槌でガツンガツン埋め込んでいたのに跡形もない。

どこに行ったのかと思ったら、遥か遠くの生垣に刺さっていた。

しかしえらくみすぼらしい姿になってしまっていて、藁が飛び出てポロリというレベルではなくボロリボロリだった。なんかグロい。

かろうじて繋がってはいるようだったが、体はくの字に折れ曲がってしまっている。

 そして俺が放ったと思わしきウィンドの跡か、芝生に俺の横幅以上はあるであろう太いわだちが出来てその衝撃を物語る。

モーゼの海のように通った跡は芝生が剥げて地面が丸出しになっていた。

それが俺がいたと思わしき所から、カカシがいた場所を通り過ぎて二十メートル程度広がっていた。

それだけ距離が出れば生垣を貫通してもいたし、花壇には直撃しなかったものの近くを通り過ぎたせいかみんな一方向に倒れていた。

終点である所に目をやれば大きな木があり、その幹に当たる部分が大きくドリルで削ったように抉れている。

一言で言って大惨事である。


 「…………」


 言葉がさすがにでねぇ……なんじゃこりゃあ。

プリムラは普段はもっと毅然としています。

一緒に授業を受けて舞い上がっているだけです。

けして残念お嬢様ではありません。ええ。

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