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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第二章 少年期 魔術学校編 『繋げる者』
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第五十八話 力の正体

お久しぶりです。リアル事情で二ヶ月間更新できていませんでした。

その辺りの詳しい話は活動報告にて。

今日あわせて七日更新したいと思いますのでよろしくお願いします。

 『何かとてつもなく嫌な気持ちがミコトから伝わってくるのです!!』

 「あ、あわわわ」

 『私と契約を結んだあの時に伝ってきた感情以上の……いえ、まるで何かに唆されているように急速に膨らんで……このままじゃミコトが破裂してしまうのです!!』

 「ひぇっ!?」

 『急がないときっと大変なことになっているのです。すぐにでも辿り着かないと取り返しの付かないことにっ』

 「待って待って!今、あたしの背中を押しているのは妖精さんだよね!?さっきまであたしがかかった罠から守ってくれてた妖精さんだよね!?!?」

 『早く、早く行かないと!!』

 「ぎゃあああ!?四方八方から火の弾がっ!?床から刺さったらとても痛そうな土の槍が!?」

 『待っててくださいなのです、ミコト!今度は絶対に見捨てたりなんかしないのです!!』

 「今、脇腹を魔術がかすめていったよ!ほら、見て!見てぇ!!バンドの色がさっきより赤いの!?」

 『疾風を纏いて疾く疾くと。空の障壁さえ打ち破る迅速なる力を。クイックネス!』

 「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!なんか更に加速したぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!人の限界速度をすでに超えちゃってるよコレぇぇぇぇええ!?

  誰か助けてえええええええええええええ!!!!」





 「…………」


 静寂がこの空間を支配していた。何も聞こえず、何も響かない。

自分の心音でさえ何処かに行ってしまったかのように聞こえなかった。

俺の身の内から囁く声も今は口を閉ざしている。

 まるで嵐の前のような静けさ。

それが事実であることは誰にでもわかることだった。

そう、この場に立っている俺も、目の前にいる奴もわかっていることだ。

そんな張り詰めた空気の中で口火を切ったのは奴だった。


 「貴様は……何だ?何者だ?そんな魔術は見たことがない。アルトロンの上級魔術にも匹敵する攻撃を簡単に防げるなんてありえない」


 放心した顔でぶつぶつと小さな声で呟く奴の言葉は、もしかしたら自分に問いかけていたのかもしれない。

この力は魔術なんてものじゃない。もっと別種の力だ。

 デバイスから産まれ出でた闇は棲家を定めたかのように俺の影へと移っていった。

そして闇は半径一メートル程にまで広がり、うねっては絶えず動き続け、まるで生き物のようだった。

傍目から見れば嫌悪感を覚えるような光景に、俺は一種の寂寥感に苛まれる。

俺はこの力の根源が何であるか知っていたから。こうして触れていてわかってしまったから。

それが何であるかなんて奴に教えるわけがない。

教えれば、奴はさも楽しそうに哄笑を上げるに決まっている。

 だがもう一つの答えは簡単だ。俺が何者か?そんなものは決まっている。

問いかけの答えはあの時から、あの人を失ったその時からずっと俺の中に存在しているものだったから。

だから俺は当たり前のような顔で平然とした声で奴に言葉を返した。


 「俺はお前をコロす存在だよ。そんなことが何故わからない?」

 「なっ…………」


 首を傾げたい程に不思議だった。もしかしたら無意識的にしていたかもしれない。

奴をコロすことなんて確定的な事実だ。八つ裂きにしても事足りない。どんな惨い罰を与えたとしても不足する。

俺の中にある喪失感が、渇きが欲している。

コロせ、コロせ、と。奴をこの手にかけることで刹那の間でも安らぎを得たいのだと叫んでいる。

ほら、阿呆のように大口を開けて驚く理由なんてどこにもないじゃないか。


 「ぼ、僕はそんな殺されてもいいようなひどいことは……」

 「……シネよ」

 「ひぃ!」


 自分の意志とは関係なく足元に潜んでいた闇が動き出す。

先駆けた闇は鞭のような形をとり、瞬き一つの間に奴の鼻先をかすめた。

俺の感情に呼応してしまったのだろう。あまりに自分勝手な言葉に抑えが効かなかった。

奴は致命的に遅れながらも自分の命の危機に気付いたのか、悲鳴を上げて尻餅をついたのだった。

 ……自分の胸に聞け、と問わなくてもわかることをどうして今更口にするのか。

奴が喜劇と嗤っていた、想像を絶する地獄のような悲劇の数々。それを巻き起こした張本人が何故?

それに奴はまた俺をコロそうとした。ならばコロされる覚悟があって然るべきなのだ。

 もういい。考えるのも面倒だ。コロそう。

闇を振るえば例え奴がどんな化け物であろうとやれる。そんな確信が俺の中にあった。

 この力は俺だけのものじゃない。奴が奪ってきたたくさんの人々の無念も込められているのだから。

今でも毎夜毎夜に俺に囁くんだ。死にたくなかった、生きていたかった。痛いよ、寒いよ、怖いよ、と。

あの時のように夢の中でも縛られている俺にはそんな人々に対して何も出来ない。


 「待て!僕の話をよく聞け……?うっ……!?」


 一身にその感情を受け止めることしか出来なかった。日毎に増していく憎しみの感情に焦がれながら。

安息の中で眠ることなんて一度としてない。それが何も出来なかった俺への一つの罰。

償いは彼らの無念を晴らすことしかできないだろう。


 「ひ、人の顔!?闇の中に蠢いて……!?ば、化け物ぉ!!助けて!こんな奴と戦うことなんて出来ないっ。貴様ら見ているんだろう。早く僕を助けろ!!」

 「化け物が化け物をコロせるんだよ」

 「何を言っているんだこいつは!?そんな目で僕を見るなぁ!!嫌だ嫌だ、僕に近寄るなぁ!!」


 手をつきながら床の上を後ずさる奴はとうとう壁際まで追い込まれる。もうそこに逃げ場はない。

がたがたと体を震わせている奴に俺は無造作に近寄っていく。

選ぶがいい。このまま無抵抗にコロされるか、それとも俺と戦うのか。

どちらにせよ、もう俺は待ったりしない。

 そうして俺は全身に闇を纏いながら、一際闇の色が深い右腕を奴に向かって振り下ろした。

そのままであれば間違いなく奴の命運は尽きただろう。だがそうはならなかった。


 「……こんな主人でも守るっていうのか、木偶如きが」

 「――――!!」


 声なき声を叫びながら俺と奴との間に入ったのはアルトロンと呼ばれる紛い物の精霊だった。

巨大な体躯で押し入ったアルトロンは強力な魔術障壁を展開。

ばちばちと激しい閃光を闇と障壁の間に瞬かせ、驚くべきことに俺の闇を防いでいる。

 だがそれも時間の問題だった。

余力を残している俺に対し、アルトロンが魔力を振り絞って障壁を維持している様子からもそれは明らかだ。

防げてはいるものの、侵食はすでに始まっている。息のつく暇もない程に明滅を繰り返す障壁を闇が除々に喰らう。

そんなことはアルトロンにも承知のことだったのか、次なる一手は上空に潜んでいた。


 「芸の無い……」


 一切の執着なく俺は攻撃を諦めて後ろへ飛んだ。

一秒も置かずに俺がいた場所に図太い氷の槍が地面に三本突き立った。

時間差による魔術攻撃。間に入る前からすでに魔術を待機させていたのだろう。

魔力の密度を更に高めた高等魔術か。あれでは例え俺の闇であろうと消失させる前に貫かれていたかもしれない。

 死角からの攻撃に対応できたのは偶然ではなかった。

何かに目覚めたかのように今の俺には周囲の全てを感知できるようになっていたのだ。

これも囁く声がくれた力とでもいうのだろうか。


 「あるとろん……アルトロン!僕を、僕を助けて!あいつをやっつけて!」


 幼児退行でもしたかのような奴の言葉にアルトロンは応え、無詠唱のタイダルウェイヴを展開。

その規模は俺と奴が使ったものとは比べられるものではなく、圧倒的としか言いようが無い。

 逃げる余地さえ残さない大波に俺は闇の膜を周囲に張った。

攻防一体の闇は完全に波をシャットアウトした。重い衝撃は響くものの俺がダメージを負う事はない。

だがそれだけには留まらず、アルトロンはタイダルウェイヴそのものを凍らせて俺の動きを止めた。

なるほど、始めからそれが目的だったということだ。


 「小賢しいんだよ!」


 苛立ちを発散させるように闇を放出する。莫大な魔力が込められたものであろと食い破り、飲み込んでいく。

視界がクリアになった所でアルトロンが詠唱している姿を目視で確認した。


 「――――。――――」


 何を言っているかはわからないが、あれは確かに詠唱だ。

無詠唱で強力な魔術を唱え続けたあいつがわざわざ準備が必要な魔術。

早くも奥の手を出してくるアルトロンに舌打ちを禁じえない。


 「クソが。更に足止めも追加で準備万端ってか」


 当然のようにアルトロンは俺に邪魔をさせない為に惜しげもなく魔術を展開していた。

あいつが足止めに使った魔術は正確にはわからないが、似たようなものは知っていた。

高等魔術書に載っていたダイヤモンドダストという上級魔術。

小さな氷の結晶を数え切れない程に大気中に発生させ、対象に降り注ぎ切り刻む広範囲魔術。

常人ならば高い集中と繊細な詠唱、そして馬鹿にならない時間を消費してようやく唱えられるというのに、軽々と無詠唱でこなしてやがる。

 高密度の魔力が込められている氷の槍と比べるとダイヤモンドダストの威力は低い。だがそれでも量が多すぎる。

見渡す限りの周囲全てが一瞬にして真っ白に染まり、ダイヤモンドダストが吹雪く轟音も合わさり耳と視界が奪われた。

俺はスキルによってどうにか相手の位置は掴めるが、これがなかったらそもそも方向さえわからなくなっていただろう。

 全身に闇を纏わせながら歩を進める。闇に触れた傍から氷の結晶は消失していくが、小さな衝撃だけは受け流せない。

それが何十、何百と続くせいで遅々として移動が進まなかった。

そんな時、あの声が俺に囁いた。


 『ナニヲ、シテイルノ?』


 (見てわからないか?あの木偶をぶっ壊そうとしている所だ)


 『ホントウニ?』


 (……何が言いたい)


 こうしている間にもアルトロンの詠唱が終わるかもしれないというのに、余計なお喋りにかまけている暇はない。

だが内から響く声はそんな俺の核心に迫る言葉を投げかける。


 『コワシタラ、アノオトコモ、シヌノニ?』


 (………………)


 『ホントウニ、コワソウトシテル?』


 氷結晶の吹き荒ぶ嵐の中で俺はその声に答えることが出来なかった。

人の身では扱いきれぬ魔力を宿した精霊。召喚した代償は全てを捧げること。

ならば全てを捧げた精霊が死ねば、あの男はどうなるのか。

……アルトロンを倒せば床で転がっている男が死ぬ。それが事実であることは疑いようが無い。


 『マヨッテイルノ?ナンデ?アノオトコハ、ヤツニ、ミカタシテイルンダヨ』


 (………………)


 『アノオトコヲ、サキニネラエバ、モットカンタンダッタヨ?

  キカイハ、イクラデモアッタ。デモキミハ、ミノガシタ。ナンデ?』


 ……例えば俺が闇の力を手にした時。

あの時からアルトロンは俺の障害になることははっきりとわかっていたのに、横入りされるまでは相手にもしていなかった。

戦う対象としていなかった。邪魔をされるだろうことは明白だったのにも関わらず。

囁く声の言う通り、あの男を先にどうにかしていればこんなことにはならなかった。


 (躊躇しているのか、俺は……?)


 そのことに気付いた俺は動揺を隠せず、闇の制御が危うくなる。闇の衣が解ければ一瞬の間にずたずたに切り裂かれていただろう。

寸での所でどうにか持ち直したが、心の方は未だに波立っていた。


 俺があの男をコロそうとしないのは、しないのは……復讐する相手ではないからだ。

……どうしてだ?邪魔をするなら排除すればいい。奴らに味方をする者は残らずコロしつくせばいいんだ。

そう、そうか?本当にそれでいいのか?

……お前の憎悪はそんなものなのか。忘れてしまったのか、あの痛みを、あの悲しみを。

覚えている。覚えているけれど、全てをコロさなきゃいけないのか?

……そうだ。コロせ、コロして、コロしつくせ。

もしも……復讐する相手の一人であるガウェインと再び出会った時。

その時にあの子が……俺をおうじさまと呼んでくれたティアが立ちはだかった時、俺はやれるっていうのか?

……コロせ。スラム街の子供たちが現れようと、コロせ。

何も悪いことをしていなかったとしても?

……奴らに味方していることこそ悪だ。悪は断罪しろ。

俺は、正義の味方なんかじゃない……ただ自分の我侭を押し通したいだけなんだ。

……我を通したいのなら犠牲も必要だ。それにお前はすでに犠牲を払っているじゃないか。

あぁ……そうだな。俺は犠牲の上に成り立っている。

……綺麗な復讐を遂げられると思うな。

わかっている。わかっている、つもりだった。だが、それでも……。


 『ココニイタッテモ、ジモンジトウヲ、クリカエス。ミコト、キミハジツニ、イトシイネ?

  マダマダ、タリナイ。ソウイウコトカナ?ジャア……モット、モット、オボレルダケノ、チカラヲアゲヨウ?』


 頭の中にまで痺れるような甘い囁き声。

その声は優しく、狂おしいほどの愛に満ちていた。

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