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思考進化の連携術士  作者: 楪(物草コウ)
第一章 幼少期 リヒテン編 『信じるものは救われない』
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第十話 お嬢様と魔術の勉強

 不思議空間をどうにか突破したのは数分前のことだ。

それからあれよあれよと言う間にご立派な建物の中に連れ込まれたのだった。

中も期待を裏切らない豪華っぷり。

玄関に敷かれていた金の刺繍が縫い込まれた絨毯はふっかふかだったし、これ土足でいいのかよと思わず心配してしまった。

平然と廊下には絵画とか飾ってあるし……まぁ絵の良さなんて少しもわからねぇけど。

他にも壷とか光沢を放つきらめく鎧とかもあって結構楽しかった。

 廊下に鏡もあったのには驚いたな。

この世界、今まで鏡というものを見たこと無かった。たぶん高級品なんだろうな。

日本にいた頃の物と比べると幾分かくすんでいるとはいえ、館の鏡は十分にその機能を果たしている。

現に金髪のショートヘアがよく似合う可愛い女の子がそこに映っているし。

……。

…………これ、俺かよっ!

ぺたぺたと自分の顔を触ると、鏡の中の女の子も同じように触っていた。

水面に映して見みていた時はどちらかというとイケメンな感じだと思っていたのに、くそ、あれは俺の心が生み出した幻だったか。

自分の面がどうだろうと比較的どうでもいいと思っていたが、可愛いのはちょっと……。

 てか、ほんと美少女だな。いや自画自賛とかそういうことじゃなくて。

ミライによく似ている。特に目元や瞳の色、髪の色も。

顔の方はまだ子供だからふっくらとしていたが、子供らしい柔らかさもあってまるでマシュマロである。

ぱっちりとした大きな瞳に、ほのかにピンク色の小さな唇も相乗効果を生み出す。

プリムラが美人な子供のトップだとしたら、俺の顔はその対極にいるであろうレベル。

白いワンピースとか着たら似合いそうだな……と思っていたところで、ようやくハッとした。


 (俺、男。俺、男。俺、男。俺、男)


 ぶつぶつと心の中で呪文を唱える。

オレオトコ。自分を確認する魔法の言葉だ。唱えることで精神の安定化が出来る。

しばらくそうやって再確認をした後、自分の顔についてはまぁいいか、と思うことにした。

その最大の原因はミライに顔が似ているからである。

いえす、マザコン。


 「何してますの?ミコト、行きますわよ」

 「ミコト~。一緒にいこー?」


 後をついてこない俺に気づいた二人が、鏡の前で立ち止まっていた俺へと声を掛ける。

置いていかれてはたまらない、と俺も急ぎ足で二人の所へと歩いていった。




 どうもミライとプリムラは名前を呼ぶ合う中のようで、二人が並ぶと美人親子といった感じだった。

時折聞こえてくる会話を聞く限り、親しげだ。

少しだけミライを取られたような嫉妬心に駆られるが、俺も中身は大人である。

そ、そんなに嫉妬なんてしてねぇし。ほんとだし。

前を仲良く歩く二人の背中を見つめ、俺はとぼとぼと後ろをついて行く。なんという疎外感。

そう言えば……美人親子。はて、このフレーズ最近どこかで聞いたような。


 「着きましたわ。ここですわミコト」


 とある部屋の扉の前に着くと、くるりとオーバーアクションでプリムラはその身に飾った赤いドレスを舞わせ、俺の方へと振り向いた。

どうでもいいけどこのお嬢様、えらくフレンドリーなんだけど何で?

今だって別に俺に言わなくてもいいじゃないか。

まぁちょっとだけどこに行くのかとおどおどしてたけど。

助かったと言えば助かったけど、感謝なんてしねーから。

俺は警戒心丸出しの半眼で見つめ返す。プリムラは小首を傾げて可愛らしく微笑むだけだった。

なんだろう、この敗北感。

唸りそうになる自分の声を必死に抑え、俺たちはその部屋へと足を踏み入れた。







 「……と言うわけだから、大魔導師アイザックが生涯を通して精神の鍛錬を行っていたように、魔術は精神修行ありき、と言えますわ!」


 ドヤ顔で釣り目がちな目を満足げに細め、お嬢様……プリムラ・ローズブライドは教本片手に俺に微笑を投げかけた。

立ち姿も姿勢が良く洗練された空気が漂い、優美な仕草にこの女の子が貴族なのだと改めて思い知らされる。

片や俺はと言うと、材質がわからねぇがえらく座り心地がいい背もたれ付きの椅子と、それと比べても遜色ないデザインに凝った机の前に大人しく座っていた。


 (言えますわ、と言われてもな……)


 仏頂面でそれに応えるものの、プリムラはそれを気にすることなくニコニコ笑っている。

なんだこのお嬢様は……普通、こういう生意気な態度を示したら貴族ってのはプライドを刺激されて怒るんじゃないのかよ。

苗字がプライドと似ているくせに。

ちなみに彼女の苗字はローズブライド。ローズ 『B U』 ライドなのだ。ややこしいなおい。

 まぁそんな感じで俺たちが住むあの部屋とは雲泥の豪華絢爛な部屋の中、俺とミライ、プリムラの三人は魔術のお勉強をしていた。

うーん、さっきからわけのわからない事態に巻き込まれているが、なんで俺は貴族のお嬢様に勉強をさせられているのだろうか。

チラリと横に目をやると、隣に座っていたミライは頬をリスのように膨らませて拗ねていた。


 「むぅ~」


 なぁにこれぇ。

門の前で起こったこともおかしかったけど、これも同じぐらいおかしい。

誰かプリムラが俺に授業する理由と、隣でミライが拗ねている理由を調べてくれ。マッハで頼む。

プリムラのハキハキした喋り声と隣から聞こえる唸り声の二重演奏。なんというか困る。





 「えっと……」


 しばらくしてようやく俺は授業を進めようとするプリムラに声を掛けようとするものの、なんて呼べばいいんだこのお嬢様のこと。

対人経験が浅すぎて、どんな風に言えばいいのかもわからないぜ。お嬢様?プリムラさん?プリムラさま?

めんどくせぇな……名前とか別に呼ばなくてもいいか。

なんか呼び掛けるにしては変な風になるが、知るか。


 「何か質問でもありまして?」

 「あの、どうして授業してるの?」

 「魔術のお勉強をしにきたのですよね?」


 きょとんとした顔で、何当たり前のことを聞くの?とプリムラの顔にはそう書いてあった。

そりゃあ今日はそういうつもりだったが、プリムラに教わるとは聞いていない。

……待てよ?

実はプリムラはこう見えて高名な魔術師で、ミライが俺に教えてくれるよう頼んでくれていたとか?

俺に何も言わなかったのは驚かせるためとか。ありそうだ。

推測を確かめるため、再び横に目をやれば何故か猛然とした勢いでミライが立ち上がった。


 「そうだよね!ミコトは私に教わりたいよね!!疑問に思うのも当然だよっ」


 ……う、うん?


 「ミライ。これは私の復習も兼ねているのです。双方にメリットがある良い勉強の仕方でしょう」

 「そんなことないもん!私だってミコトの初めての授業をやってあげたいってメリットあるもん!」


 あー、なんか拗ねていたのはそれなのか。ていうか、そのメリットはどうなのか。

諭すような口ぶりのプリムラと、握り拳をブンブン上げたり下げたりするミライ。

一体どちらが子供でどちらが大人なのかと思わせる光景だ。

心情的にはミライを応援したいが、プリムラの言葉もわからなくない。まぁ本当にそんなこと考えているかは知らんが。

初対面の俺をそこまで気にかける意味もよくわからん。疑って当然である。

 睨み合いに発展しそうな二人に、挟み込まれた俺としてはたまったもんじゃない。

こちらに飛び火しないうちにどうにか解決策を見出したいところだが。

どちらか一人に教師役を頼むのも何だか嫌な予感がする。

じゃあもういっそのこと、二人でやってもらうってのでいいんじゃねぇかと思うんだけどな。

まずはミライを撃沈させるべく、早速俺はその案を実行に移した。


 「僕、二人にやってもらいたいな」


 いつも通りの上目遣いと濡れた瞳のワンセット。

目をうるうるさせるコツは事前にアクビをかますことだ。わー超簡単。

幸い二人はデッドヒート中だったので準備に気づかれることはなかった。

すぐに効果覿面だったのはミライである。

一も二もなく即頷いた。ちょろい。

 そしてもう一人のお嬢様はと言うと……何故か両手を頬につけてうっとりした顔でこちらを見ていた。

さながら、愛玩動物を発見した可愛いもの好きの女性のようである。

しかし残念ながらこの部屋にはそんな動物は一匹もいない。

いるのは美人母一人と美少女貴族、そして俺だ。オレオトコ。オレオトコ。

どこにもいない。ああ、どこにもいない。見目麗しい可愛い女の子なんてどこにもいない。

うっすらと何かを感じ始めた俺だったが、勤めてそれを無視することにした。

触らぬ神に祟りなし。プリムラから目を逸らして、そっと遠い目をする俺だった。


 そうしてようやくまとまった後は、プリムラをメインにミライはそのサポートをする役で授業を進める、という形になった。

この状況、まさに至れり尽くせりではあるが、二人がたまに競って俺に教え合おうとするのは止めて欲しい……。

魔術の授業、というよりやはりただのイチャコラでした。

ミライお母さんの低年齢化が止まらない……。

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