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炎の魔剣士

 帝国領の国境付近に位置する砦では防衛準備が進められていた。それはというと昨晩、王国領に侵入し偵察を行っていた斥候が国境付近の森にて王国軍の夜営を確認したからである。以前からもその森では王国軍の夜営が確認されており、その度にこの砦は王国軍の攻撃を受けていた。

 だが、幾度の攻撃を受けてもなお、この砦は陥落することがなかった。石造りの堅牢な砦は丘の上に建てられており、見晴らしがよい。街道を監視するにはうってつけだ。進軍してくる敵軍の動きがよく見え、柔軟に迎え撃つことができる。このことは防衛拠点としての長所になる。

 この砦はおよそ四百の帝国兵が駐屯していた。ここに居る帝国兵たちは普段のように攻撃に備えて個々に配置に就いている。

「……霧が深いな」

 砦の門番を任されている帝国兵は呟いた。

 深夜に降り始めた雨は早朝には小雨に変わっていたが、その影響か辺りは霧に包まれている。これではこの砦の長所を活かすことができない。視界が悪いことは両軍同じ条件となるのだが、門番の兵士は嫌な予感を感じていた。

「……?」

 しばらく経ったとき、霧の奥に人影が見えた気がした。門兵は持っていた槍を構えたが、彼が感じた人影は複数ではなく―――

「誰だ!?」

 再び視界に人影が映り、門兵は声を荒げた。

 少しずつ足音が近づいて来るのがわかる。しかし、その足音は一つだけで、門兵はその方向へ槍を向けたまま人影を凝視していた。

「何だ?……貴様は」

 ぼんやりとした人影がはっきりと見えるようになったとき、門兵が確認したのは――赤髪の男であった。

 相手が王国兵であれば鎧を着込み、武器を持っている筈なのだが現れた男は鎧など装備しておらず、そもそも王国人だとも判別つかない赤い髪をしている。

「……一般人か? こんなところで何を―――」


 ――――ィア


 門兵の言葉を遮るように赤髪の男が何かを呟いた。

「何を……っ!?」


 ―――瞬間、赤髪の男の眼前に赤黒く歪んだ空間が発生する。現れた異形な空間はその赤と黒が(うごめ)くように螺旋を描き、渦を巻いている。


 この奇妙な光景だけで門兵は足がすくみそうになるが、赤髪の男はその異形の空間に何の躊躇いもなく右腕を突っ込んだ。

 そして何かを掴むような素振りを見せたあと、一息に「それ」を引き抜いた。ほぼ同時に辺りに熱風が吹き荒れる。


「お、お、お前は―――っ!!」

 門兵に皆まで言わせず、赤髪の男は「それ」を横に振り抜いた。

 瞬間、血飛沫を上げながら門兵の体は鎧ごと上半身と下半身に二分され、その鎧の断面は「切れた」というよりは「溶けた」と表現したほうが正しいのか赤熱し、鮮血と臓器を撒き散らした体からは肉が焦げた臭いと僅かに煙が上がっていた。


 門前の出来事は、すぐに砦内の帝国兵に発覚した。続々と現れた兵士たちがまず目にしたのは、変わり果てた仲間の姿と……


「……魔剣士」


 兵士の誰かが口にした。

 立っていた赤髪の男が手にしている異形の剣は、男の身長ほどある大剣。骨のように白く輝く刃、肉のように蠢く装飾は、臓腑のように鼓動する。

 このような武器が人の手で創れる筈がない。兵士たちの誰もが確信した、この男は「魔剣士」であると。


「かかれーーーっ!!」

 誰が放ったかも判らぬ号令で、兵士たちは赤髪の男に殺到する。槍や剣、それぞれ持つ武器は違えど、確実に同じ標的を絶命させんと殺意を向けるが、赤髪の男は左腕をかざすだけだった。当然、その腕は制止を促すものではなく、迎え撃つためのものだ。


「……吼えろ、獄炎」


 それだけだった。男の左手から瞬時に火球が放たれ、命中した兵士を中心に炸裂し、何十人もの兵士が巻き込まれた。

 ほとんどの兵士が灰となり、息のある者も腕か脚を焼失してしまっている。

 苦痛の呻きとどよめきが起こる中、炎の魔剣士は静かに凄惨な笑みを浮かべるのだった。

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