中編
「大変だったな。」
雷霆騎士団本部団長室に私は居る。
大きな団長室にいるのは私と目の前に髪に白いものが混じったおっさんとメガネをかけた秘書さんだけ。
おっさんの名は"アルトゥルス・アーツ"。雷霆騎士団団長。見た目はにこにこしているが怒らせるとマジで怖い。秘書さんは"ナコ"さん。スーツの似合う美人だ。
「まぁ……怪我は酷いのか?」
「問題ない。」
答えて横を向く。
「話は終わりか?」
それじゃ、と立ち上がる。
「待て待て。まぁ今日呼んだのは泥棒の一件だったんだがそれはもういい。今は爆弾魔の事だ。」
秘書さんがお茶と一緒に何か資料を持ってくる。
「これを。」
資料を見る。そこには"疾風""徐林"など雷霆と同じ騎士団の名が並んでいる。
「他も動いているのか?」
「ああ、他もかなり躍起になって探してるな。その状況でこの様だ。」
「で、協力するのか?」
団長が黙る。深く息を吐いて、
「ああ。しないと面倒な事になりかねん。」
ソファに体重を預けて、
「近々、"クライス王子"が劇場に観劇に行くのは知ってるな?」
「……。そうだっけ?」
「まだ正式な通達はまだですよ。」
「そうか、まぁその予定があるんだ。」
ふーん。ま、そんなVIP警護に私は関係ない。
「お前達の管轄というか、そこの劇場だ。お前達も警護に出るんだぞ。」
ぶーっとお茶を噴出す。
「お前は、汚いな……ナコちゃーん、付近持ってきて!」
「なんで私達が警護につくんだよ。どうみても人数足らんだろう。」
咽ながらも一言言っておく。何か問題が起きたら謝って済む問題ではない。
「お前達だけじゃない。本部主導でやるんだ、指揮は私が取る。お前達だけに任せておけるか。」
テーブルを拭きながら団長は続ける。
「お前達は今日から劇場周辺の警戒をやってもらいたい。前もって警戒しておけば不審者や物を特定しやすいだろう。」
「視察は何時頃になる?」
「二週間後だ。」
「三人では無理だと思うんだけど。」
「もう劇場前の事務所にはスタッフを派遣してある。彼等と協力するように。」
「そっちは任せる。私はあの男を追う。」
立ち上がるが、秘書さんが前に立ちふさがる。
「もう少しお話を聞いてくださいね。」
にこっと笑うがこの人も怒らせると怖い。
無理に通ろうとすると怒りそうなので、大人しく座る。
「話って何?」
「でだ。爆弾魔の狙いは分からん。共通してるのは人が多い時って事ぐらいだ。それで……ここからは賭けになるんだが……。」
団長がぐいっと身を乗り出す。
「王子にも一役買ってもらって爆弾間を誘い出す事にした。」
何言ってんだ、この人は?
「そんなアホを見る様な顔をするな。王子も爆弾魔の事を知っておいででな、どうにかしたいと思ってらっしゃる。で、王子が捕らえられるのなら協力を惜しまないと言われたので……。」
「で、囮になってくれって言ったアンタはスゴイよ。」
呆れるほどのバカだこの男は。
王子に怪我でもさせたら雷霆騎士団解散させられるぞ、その事を分かっているのか?
「で、劇場なら人も集まりやすく何より国民に人気のある王子が劇場に来るんだ、更に人も集まるだろう。」
「ナコさん、何で止めなかったの?」
「私が席を離れた隙に話をまとめてしまったのよ。」
微笑むナコさん。
「なにより劇場前はお前達の管轄だしな。勝算はあるさ。」
「最後にさらっとこっちにも責任を負わせようとするな。」
「違う、そうじゃない。お前達の実力を認めているって事だ。」
どうだか……ま、話が動いているのなら仕方ない……事も無いな。
なんだかいい様に動かされている様な気もするが、あの男を捕らえられるチャンスなら乗らない手はない。
劇場の二階から見る通りは人通りが多く、夕暮れだというのに衰える事は無い。
いや、夕暮れだからこその多さなのかもしれない。
劇場から出ると冬の冷気が体を包む。思わず震える体、反射的にポケットに入れた手に力が入る。
これで準備は整った。後は当日を待つだけだ。
劇場を見上げる。
一週間後、ここがどうなるか……考えるだけでも胸が高鳴る。