前編
全三回のお話です。
最近は何かと物騒であちこちで爆発物が派手に爆発しているらしい。
騎士団の総本部ではこの事に対して調査を始めている。
「見つかるんですかね?」
そんなニュースを眺めながら煎餅をかじっているのはオスカー。
常にスーツを着ているこの男は通りを歩くだけで女が振り返るほどだ。
本部でも人気があり、私が本部へ行くとオスカーの様子を尋ねられるほどだ。
「難しいんじゃない? 犯人に繋がる証拠無いみたいだし。」
オスカーの問いに答えたのはエリル。
真っ赤な髪が目立つお調子者。この男はオスカーとは違いどこにてもいるにーちゃんといった格好なのでいつもは騎士団に見られる事は少ない。
頬杖を吐いてテレビを見ている。この男がニュースを見ている事が驚きだ。
「その内ココにも来るかもしれませんね、隊長?」
エリルに呼ばれた私、シオンがここの責任者だ。美しく可憐な私が雷霆騎士団劇場通り所属部隊隊長。
隊と言っても三人しかいないが……。
「そんなものは来なくていい。面倒な事になるからな。」
「ああ、この間の泥棒騒ぎみたな。」
オスカーをきっと睨む。
そう、この間侵入した"泥棒が暴れた所為で"私は本部に行かなければならないのだ。
壊れた事務所はすぐさま修復された。前よりも若干良くなって。
「というか、時間大丈夫なんですか?」
「ああ。二時に来いって話だからな。」
時計はまだ十一時。
ここからなら一時間も掛からない。
「着替えなくていいんですか?」
「ん、この格好では変か?」
雷霆騎士団の本部とはいえ鎧を着ていく必要もないし、これで良いと思うんだが。
トレーナーにジーンズ。外は寒いので上着を羽織っていけば問題は無い。
「いや、定期報告ならそれで良いかと思うんですが。」
「なら問題ないんじゃないか?」
窓に映る姿を見るが、どこもおかしくは無いと思うが。
「制服着ていきましょうよ。」
「あのジャージか?」
「違いますよ。分かってて言ってるでしょう。」
「は~、じゃ着替えに戻るか。じゃ、行って来るから時間になったら戸締りをしっかりして帰れよ。」
戸締りの部分を強調して私は事務所を後にした。
家に戻りスーツに着替えコートを羽織り剣を持ち本部に向かう。
時計はまだ十二時になろうかと時間。
「昼食ってから行くか。」
その位の時間はあるか。しかし混むしな……本部近くでどこかあったかな。
この時間は空いているかな、と思ったがそうでもなかった。
電車は座れたが、降りると人の数は一気に増える。
その流れに乗って歩いていく。
外は寒いんだろうな、と思いながら覚悟を決めて階段を上る。
「うひゃ。」
冷たい風に吹かれて思わず出る声。周りに聞かれてないかと思い見回すが……大丈夫。聞かれてない。
ポケットに手を入れて昼飯を求めて歩き出す。
時間は十二時半か。空いてるトコないかな。
まだランチタイム真っ只中で、どこもすぐには入れそうに無い。
本部には二時に行けばいいのだ。まだ一時間半もある。
「どうしようか。」
どこかで買って本部で食うか。
それが無難か。
「いや、待て。」
団長に見つかったらどうなる事やら。泥棒の一件は報告はしてある。
人づてに聞いた話だと、かなり怒っていたらしい。今日呼び出されたのもその事についてだろう。
団長のに見つかれば怒鳴られる時間が増える。
しかしメシを食う場所が無い。
外は晴れてるとはいえ寒いから嫌だ。
うーん。
しかし、団長も暇ではない筈。私を探している事も無いだろうし、まさかこんな早く来るとも思ってないだろう。だとすれば見つかる事は無い。
「よし、本部で食うか。」
混雑している人込みの中を掻き分けるように歩いていく。
昼飯の為の行列に並び、やっとの思い出ゲット。
さて本部で食うか。と店を出たところ、体が飛んだ。
それは私の意識したものではなく後からの衝撃で吹き飛ばされた。
幸い自動ドアは開いていたからそのまま外まで飛ばされた。
世界はスローモーションになり頭の中は真っ白になりながらも視界から得られる情報を処理しようとしている。受身を取る事なく地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけられる感覚で世界はいつもの速度になる。耳はなにかハウリングしている。
痛む体を庇いながらもなんとか立ち上がる。そこで感じた視線。
人込みの先にあるその視線を追う。
そこに居たのは、サングラスをかけた男。背は高い。髪は白く同じ様に真っ白なコートを着ている。その男の動く。ここからはよく見えない。が、何かを押したように見えた。
瞬間、聞こえなくなっていた耳に轟音と悲鳴が飛び込んでくる。
見ればさっき居た店の二階からガラスの破片が降り私がいた店からも黒い煙が立ち昇っている。
さっきの男を見る。
遠くからでも分かる。その口元は歪んでいる。笑っている……笑ってる!
そう思った瞬間私は走り出した。その男は手を広げ私を見ている。
遠巻きに見ていた人の群れに正面からぶつかり転ぶ。さっき吹っ飛ばされた時にどこかおかしくなったのかまっすぐ走れない。それでも、なにか体の中からの衝動に突き動かされて足を動かす。
男との距離が少し縮まる。男は逃げる様子も無い。ただただふらふら走っている私を見ている。
男が後を向く。
「ま、待て!」
私は声を出す。男は振り返るだけで止まろうとはしない。
「くそ! 動け!」
自分の足を叩く。痛みは鈍く痺れたような感覚だけが残っている。
そのままその場にしゃがみ込み後を振り返る。人垣の向こうでは黒煙が立ち上り、泣き声と悲鳴が入り混じって私の耳に入ってくる。
「くそ!」
やり場のない怒りを拳に込めて地面にぶつける。
何度も何度もぶつける。手の甲に落ちる雫。
「うああああああああああああ!」