再び始まる2
金木犀高校の1号館校舎裏では、三人の男子学生が煙草をふかしながら、屯していた。
1号館の裏は小さな森のような林があり、林の入り口付近には誰のために作られたのか元の色が判別出来ないほどの古いベンチがあった。その金属製のベンチには、ライオンの飾りの付いたひじ掛けがあり、丁度彼ら三人座れるスペースがある。
三人はそこで三時間目の授業をサボり、ただ時間が過ぎるのを待っていたのだった。
「なぁ、お前ら四時間目出る? 俺、もうこのままサボろうかって思ってんだけど」
髪を茶色に染めた少年が、ダルそうに煙草を片手に宙を見ながら話し出した。
「……あーそうだな。俺も、サボろうかなー」
ベンチの背に腕を掛けている金髪の少年もまたダルそうに答えた。
「んじゃ、俺も」
もう一人の茶髪は後ろに一つに縛っていて、彼もまた紫煙を吐き出し、一人目の提案に同意した。
三人は共に煙草の煙りの中で、ボンヤリとして無気力だった。
そんな中、金髪の少年は短くなった煙草を地面に落として靴で踏み消し、声をわざと張り上げ言った。
「おい! 何かしようぜ。あ、そうだ! 卒業生のタイムカプセル探そうぜ」
迷惑そうに長髪の少年はジロリと目を向ける。
「あ、何で?」
「いや、何となく。でも、何かしてぇじゃん」
「別に俺はしたくない」
「あーそうかよ。じゃ、加藤は?」
加藤と呼ばれた茶髪の少年は、ゆっくりと煙草を消し、地面を見つめて答える。
「いいけど、何もやることねぇし」
「よし。加藤はあっち探せ。俺、あっち探すから」
金髪の彼は、満足そうに加藤に指図する。すると、すかさず加藤は不快感をあらわに非難した。
「なんで、お前が指図すんだよ。桐野こそあっち探せよ。あと、素手で掘る気かよ」
「あ、そうだな。スコップとかいるな。じゃ、体育館倉庫行って取ってくるか」
前半は全く無視した桐野少年は、突然そのことに気付いたように話した。
そして不満が残る加藤を伴って、二人は体育館倉庫から大きなスコップを持って来た。
それから暫く経っていつの間にか三人でタイムカプセルを探しだした少年らは、五時間目の始まりのチャイムの音を聞いていた。
「なぁ、見つかんないんだけど、ここにはねぇんじゃねぇ」
「いやあるって絶対。前この辺に、三年がタイムカプセル埋めてたから」
桐野は長髪の坂下にスコップで穴を掘りながら、彼を見ずに話す。
三人はまた小一時間ほど、ペチャクチャとくだらない話をしながら、だらだらと穴を掘った。
「なぁ、タイムカプセル見つけたらさぁ、結局どうすんの」
加藤は細い木の下で掘った穴を再び埋め直しながら言う。
「決まってんだろ。そのタイムカプセルを別の所に埋め直してやるんだよ」
桐野は嬉しそうだった。さも自分の案が名案だと言わんばかりに。
「あ、何だそれ。ただそんだけのためにやんのかよ。くだらねぇ」
すかさず、坂下が文句を言う。そうかと思うと、加藤も不満を表す。
「ひでぇ、それ。後で探しに来たとき卒業生見つけられねぇじゃねぇか」
「え、そこが面白いんだけど」
桐野は自分で思っていたような反応が返って来なかった上に、反論されるなんて全く考えていなかった。だから、この二人の言葉に非常にがっかりする。
しかし、そうは言った二人だがやることが何もないから桐野の提案に従ってやると、掘るのをやめないで桐野と共に掘り続けてくれる。彼はそんな二人を見て、先ほどの沈んだ気持ちもさっぱり消えてしまった。
そして再び穴をそこら中に作っては埋め直しの作業に取りかかった。
と三人が気持ちを取り直して再開した途端に、桐野が声をあげる。
「あ、なんだぁ、これ」
桐野は、カキンとスコップのぶつかったそれに掛かる土を素早くスコップと最後には両手を使い、すっかり綺麗に掘り出した。
それは、タイムカプセルの容器にしては、小さなものだった。
「ん、何これ。タイムカプセルじゃねぇじゃんよ」
坂下はその黒い漆を塗られた長方形の小さな箱を見て、がっかりしている様子だった。
加藤も後から二人の元にやって来てはやはり坂下同様、気落ちしていた。
「まぁ、タイムカプセルじゃなくても一応、開けて見ようぜ」
桐野はそんな二人よりタイムカプセルを見つかることに実は、期待をあまりしていなかった。その為か、そんなにがっかりした様子は見せなかった。
「ああ、開けてみろよ」
坂下はもうほとんどやる気を失っている。
桐野は彼の言葉に頷くとその黒い箱の蓋を持ち上げた。
ビリ。
すると、紙の破れる音がした。桐野は一瞬何処から鳴った音なのか分からず、呆けてしまったが、直ぐにその音が箱の横に小さく貼られたお札が破れたのだとわかった。
良く見ると箱はそのお札によって封をされていたようだった。
「なぁ、これ何かやばいやつなんじゃねぇ」
加藤はそのお札に書かれた意味を理解したわけではなかったが、何となくお札というものに不穏なものを感じていた。
「平気だってそんな気にすることねぇよ。お札とか誰かが俺らみたいなやつ、怖がらせる為に付けたんだってこんなの」
桐野はそう言って構わず蓋を開けた。加藤は少し不安を表したが、やはり彼も含め三人は一様に何かを期待しているようで、その蓋の中身に釘付けになっていた。
それはただの黒いカセットテープだった。録音されているものは何も分からない、何も記されていない小さなテープ。
「何だ、ただのカセットテープかよ。ちょっと期待しちゃったじゃねぇか」
「やめた。俺、こんなくだらねぇの、もう付き合ってられねぇよ」
加藤と坂下は同時にホッとため息をついて、緊張が溶けたように悪態をついた。
「何でカセットテープ何かが、こんなとこに埋まってるんだ」
桐野はそんな二人を余所に、不思議だと一人首を傾げた。
とそこへ、五時間目終了のチャイムが鳴った。
「終わりのチャイムだ。俺たちこんな時間まで、穴掘ってたんだな」
桐野はチャイムの音を聞いてポケットから携帯を取りだし、画面の時刻を確認した。午後二時二十分をデジタルで表示している。
「もう、帰ろうぜ」
加藤が二人の気持ちを代弁して言った。