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空への憧憬  作者: 奈美
2/11

一瞬の夢

私は屋上まで踊るようにして非常階段を登っていた。手すりをコーナーに差し掛かったらうまく利用して、くるりと向きを変え、一段一段を弾ませて上がる。


マンションは八階建て。屋上はきっとあの鳥たちと同じ高さになるだろう。非常階段から見える景色は徐々に高くなり、もう時期私の学校が見えてくる。綺麗に並べられた花壇の花も、いまや小さい点にしか見えない。下を歩く人々の頭頂だけが黒い点として見え、私には人が歩いていることに可笑しさが込み上げる。


私に関わる人々はどうにも酷い奴らで、何度となく私の世界は壊されていったものだ。だからだろうか、私にとって他人は皆自分をさらにさらにと陥れる者にしか見えないのだ。今この時間に私が学校にいないことで、きっと明日にはまた何かあの人々の恐ろしいことが待っているに違いないのだから、私は学校へ今日以来行ってはならない。いつもだ。陥れるのはあの人々であって、私ではない。私に抵抗する意志がないと見てとると、人々は次々と私の心に土足で踏み入れ、罵倒し嘲笑し最後には暴力を加え、私でもって存分に楽しもうとする。人々の私に対する苛虐性は、私をおのずと卑屈にさせる。


私は屋上への非常扉に手をかけると、鼻歌を歌いながら開ける。


鍵のかかっていなかった非常扉を開けると私の目に青空が広がって見えた。雲一つなく、美しい。ここから飛び降りたら下を歩く人には、きっと一瞬空を飛んでいるようにはっきりと私が見えるだろう。


私は眩しい空の青さに目を細めて、一つ深呼吸した。今日は心が軽い。あの現実への苦しみから、私は解放されるのだ。


走った。私は屋上のフェンスまで軽やかに走った。


鳥が空高く飛ぶ。私はそれを目の端で捕らえ、灰色のコンクリートを靴底のゴムがタタンタタンとリズム良く叩くのを聞いた。


屋上はマンションの水道水となる大きなクリーム色のタンク、貯水槽が自分の背丈より倍は高いところに乗っていた。私はそのタンクを走りながら後ろをチラリと振り返ったときに見る。とても大きくて白い卵に見えた。


タタン、タタン。


私はステップを踏むようにフェンスへと向かう。


タン!


私はフェンスの手すりに勢いよく掴まり、両手の間に片足を手すりに乗せ、力強く両手と足でそれぞれフェンスとコンクリートを蹴った。


そして私は屋上から、現実から、苦しみから逃げて空を飛んだ。


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