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プレゼント

「ねえ、兄さん。クリスマスに何か欲しい物、無い?」

 

 

クリスマスの1週間前の12月17日。それは3年ぶりに声を聞いた従妹、雅の電話であった。

宮野雅みやのみやび。この僕、宮野匠みやのたくみの従妹の高校3年生。

僕より1つ年下の少女で、親戚の中で歳が近い事もあって結構懐かれていた……と思う。

 

 

まあ、3年位前に僕が高校入学と共に、上京+一人暮らしを始めてからあってないが。最後に姿を見たのは、僕が上京する事を親戚に言いに行った時だろうか?

……あれ? あの時、雅は部屋に篭って姿を見せていなかったから、姿は4年くらい見ていないのかな?

 

 

「兄さん、聞いていますか?」

 

 

「……ああ、悪い。ちょっと考え事をしててな。

 で、なんで今頃電話をかけたんだ?」

 

 

今年の春ならば分かる。僕は大学に入学して、その連絡だったら納得できる。

しかし、今は12月。しかもクリスマスの1週間前。こんな時期にいったい何の用だろう?

そう思っていると、雅は溜め息を吐きながらもきちんと解説してくれた。

 

 

「私、大学は兄さんと同じ大学を受験する事になったんです。で、両親がそれだったら、『匠君の家に下宿しなさい』って」

 

 

「……ああ、そう言う事」

 

 

要するに、雅の両親は上京する娘が心配だ。けど、上京している親戚の下ならば安心出来る。だから、僕に娘を託す事にした。

そう言った所だろう。

 

 

「それで、1回兄さんの住居を見てみたくて。それでクリスマス・イブにそちらに向かいます」

 

 

「ああ、了解。了解」

 

 

まあ、何はともあれ嬉しい。

僕には彼女が居ないから、今年のクリスマスも1人人恋しさを噛み締めることになるだろうと思っていた。だから、従妹とは言えありがたい。

 

 

「場所、分かるか?」

 

 

「はい、問題ありません。兄さんは部屋で私が来るのを、部屋を暖かくして待ってくれるだけで十分です」

 

 

「そ、そうか」

 

 

昔からこの雅はそうだった。

要点のみを簡潔に話すその性格。僕に対しても、同い年に対しても、男でも、女でも、子供でも、大人でも。

まるで事務作業のように言うその語り方は、お兄ちゃん役を自認する僕としては心配で仕方ない。

 

 

「で、クリスマス・イブに行くのですから、何かプレゼントの1つや2つ、あげようかと。あっ、私の手に入る範囲でお願いします」

 

 

「……いやいや。お前が来てくれるだけで十分だよ。

クリスマスだと言うのに、恋人が居ない僕は、女性が来てくれるだけで十分だ」

 

 

「……そうですか。では、また後日」

 

 

「あ、ああ」

 

 

そう言って、電話は切れてしまった。

まあ、来週になったら会えるのだから期待して待ってよう。

僕はそう思いながら、来週ークリスマス・イブを待っていた。









12月24日、土曜日。天候は曇り、しかし夜は雪が降るらしく、いまどき珍しいホワイトクリスマスとなりそうだ。

 

 

「珍しいな……」

 

 

僕はそう天気予報を見て、口にした。

漫画などの創作物では、『クリスマス=ホワイトクリスマス』などと言う通説が出来上がりつつあるが、実際の今の日本は地球温暖化の影響なのかあまりそう言う現象は減少しつつある。

 この前、ホワイトクリスマスがいつ来たか。そう言われると、戸惑ってしまうくらい経験がない。

 

 

 そんな事を思いつつ、僕はジャケットとマフラーを着込んで外へと出た。

 何故、外に出たか。それは何故かと言うと、クリスマスパーティーの準備である。

 上京と共にクリスマスやクリスマスパーティーとは縁遠い存在になっていたが、今日は雅が来る。準備くらいはしといた方が良いだろう。

 外に出た僕は、ケーキ屋さんでクリスマスケーキを注文して、プレゼントとして安いペンダントを購入した。

 






 


「兄さん。今、駅に着きました。今から向かいます」

 

 

夜7時。僕の電話が鳴り、雅から電話がかかってきた。

まあ、遅いと思うかも知れないけれども、田舎からの電車だとこの時間でもありえない話ではない。少し遅い気もするが。

 

 

「じゃあ、準備を始めるか」

 

 

今から準備をすれば、十分な時間になるでしょう。

そう思いながら、僕はナフキンを水につけてテーブルを拭く。

冷蔵庫からケーキを取り出してテーブルに置く。そして皿とフォークを2つずつ置く。

 

 

10分後、扉を叩く音がする。

 

 

『兄さん、雅です。開けてもらえますか?』

 

 

「ああ、悪い」

 

 

僕は鍵を開けて、扉を開けて、

 

 

ボヨン。

 

 

「ひゃぁ!」

 

 

柔らかい感触と、おどけた声がした。

……ん? 今の声、雅の声……だよな?

 

 

柔らかい物(名残惜しい)から顔を離して、顔を向ける。

今まで見たことの無い大きすぎる胸。僕の顔が丁度彼女の胸の辺りに来ている。僕は男性としては少し低いくらいだが、これは女性にしては高すぎる。

そして僕はその胸よりさらに上にある顔を見つめた。

 

 

そこには想像したよりも、顔を赤らめる彼女の顔があった。

 

 

「久しぶりだな、雅」

 

 

「いきなり変態行為しないでよ、兄さん」

 

 

それが僕と妹との5年ぶりの挨拶だった。







寒空の下、女性をいつまでも外に放り出す趣味は無い僕は、雅を中に入れる。

 

 

雅は中に入ると、コートと帽子を脱ぐ。

その瞬間、綺麗な黒髪がさららと流れ、大きすぎる胸がボヨンと揺れた。

しかし、でかい。何、食ったらここまででかくなるのだろう。

J、いやKか?

 

 

「変態兄さん」

 

 

胸を見ている事を気付かれ、雅は不機嫌そうに眉を潜めて、僕にそう言う。

胸を両手で押さえているから、さらに胸が強調されているのに気付かないのだろうか?

 

 

「……うっ、すまん」

 

 

けれども、僕は普通の大学生。従妹の胸を見て、堂々としていられる人間ではない。よって、素直に謝る。

 

 

「まぁ、良いですけど」

 

 

素っ気無く言って、帽子をハンガーにかけてカーテンに吊るし、帽子をキッチンに置いた。

くるりと周りを見渡す雅。

 

 

「……手狭ですね」

 

 

「悪かったな」

 

 

男学生の1人暮らし。住居の大きさは必然的に手狭になってくる。

1人ならまだしも2人となると、少し狭さを感じるのは常だろう。

ちなみに友達を2人同時で泊めた事があるから、3人までなら寝る事も可能だ。

 

 

「……まぁ、これはこれで」

 

 

何かを小さく確認した後、雅の視線はテーブルの上の箱に行く。

 

 

「むっ、ケーキですか?」

 

 

「……ん? ああ、ああ。満腹堂って言うケーキ屋さんで買ってきたクリスマスケーキだ。

……ケーキ、嫌いだったか?」

 

 

親戚の集まりでは、大抵お寿司や中華を食べていたからケーキはあまり食べている姿を見てない。けど、おかしでケーキが出されても嫌な顔をしてなかったと思うのだが……。

 

 

「い、いえ。滅相も無いです。好きですよ、大好きですよ、ケーキ」

 

 

「そ、そうか」

 

 

そこまで好きだったか、ケーキ。

まあ、女性は甘い物を良く好むから可笑しな話でも無いか。

 

 

そこまで好きならば、僕が次に取る行動も自然とあれになるか。

僕はケーキを彼女の方が大きくなるように、2つに切る。比率で言えば僕が②で彼女が③だろうか。

そして、大きな方を彼女の皿にのせる。

 

 

「えっ……? こんなに、貰って良いんですか?」

 

 

「あ、ああ。僕は甘い物をそんなに多く食べたい訳じゃないからな。

 どちらかと言うと、雅の方が好きそうな気がしたからあげたんだが……。迷惑、だったか?」

 

 

「いえ……ありがとうございます。兄さん」

 

 

 そう言って、フォークを持ってケーキを突き刺す雅。そしてケーキを食べる雅。

 

 

「~~~っ!」

 

 

 頬を赤く染めて、目を閉じておいしそうにする雅は、とても可愛かった。

 

 

====

 ケーキを食べ終わった僕は、皿を洗って座布団に座る。

 目の前には雅が居て、2人は向かい合った体勢になる。

 

 

「「……」」

 

 

 ……気まずい。さすがに5年も会わずに居ると、親戚と言うよりは数年来ぶりにあった友達に近い。

 それに……とても女らしい身体つきになった雅に、少し赤面していると言う点もあるが。

 

 

「この身体……嫌いだったんですよ」

 

 

 突然、話し出す雅。ただならぬ雰囲気を感じた僕は、黙って聞くことにした。

 

 

「中学2年生くらいから、ぐんぐん伸びる背と共に……お、おっぱいも大きくなっていきました。

 服もブラもきつくて着れなくなったりして……。それよりも、嫌だったのが同級生の、いえ他の人の視線でした。

 

 

 男子はいやらしい眼つきで、女子は嫉妬と羨望の眼差しで。

 皆、そんな目で見てくるんです。

 休日の街や、登校中の電車や、通っていた学校で。

 それで、だんだん外に出るのが、人に会うのが怖くなって、部屋から出なくなっていきました。で、4年前もちゃんとお別れ出来なくて……後ですっごく悲しみました」

 

 

「……そりゃあ、すまん」

 

 

「兄さんは知らなかったんだから、気にしなくて良いですよ。

 ……で、今くらいの身長になると、人と言うよりは化物を見る目つきになるんですよね。

 

 

 花で例えると、高嶺の花から品種改良された花を見る眼に変わった、と言うべきでしょうか。

 『ありえない美しさ』から『驚愕の美しさ』みたいな。

 

 

 で、私はその視線に耐えながら、いつしか慣れてしまったんですよ。

 中学生の頃はアプローチとかされて困ったんですけど、人じゃなくて化物にちょっかいをする人は居ませんから」

 

 

「……」

 

 

 ……それは慣れじゃない。慣れざるを得なかったんだ。

 自身を守るため、他人の視線を我慢したんだ。それはとても可愛そうだ。

 本人も望んで、そんな姿になりたかった訳じゃないだろう。

 化物と言われたかった訳じゃないだろう。

 

 

 そんな彼女の事を思うと、自然と涙が出て来る。

 そんな僕の涙を、雅は自分の胸に僕の顔を押し付ける事で、自分の視線から隠した。

 

 

 とても暖かい気持ちが、彼女の胸から伝わってくる。

 

 

「……で、クリスマスプレゼントなのですが。

 私、『私』をあげたいと思います」

 

 

 ……はい?ちょっと待て。

 なんでいきなりそんな展開になるんだ?

 

 

「私、男の視線を感じながら思ったんです。

 ーこの身体は、凄く男の人に好まれるって。

 私、女の視線を感じながら思ったんです。

 ーこの私より美しい人は、あまりいないって。

 私、家で閉じこもりながら思ったんです。

 ー兄さんだけ。私が欲しいのは兄さんだけって」

 

 

「ちょ、ちょっと待て! 僕達は従妹なんだぞ!」

 

 

 僕は彼女の胸から、顔を出して雅にそう言う。

 

 

「知っています。しかし、従妹と結婚しても法律上何の問題もありません」

 

 

「け、けどさ!」

 

 

「それに……。兄さん、私の身体で興奮したでしょ?」

 

 

 ぎくり!

 

 

「胸を当てながら、兄さんの物が私に当たるのも確認済みです」

 

 

 確信犯かよ!

 

 

「で、でも!」

 

 

「それとも……」

 

 

 そう言って、雅は悲しそうに瞳に涙を溜めながら僕を見る。

 

 

「……こんな化物みたいな身体じゃ、怖い、ですか?」

 

 

 うるうると涙を溜める少女の姿は、幼い頃に見た1人の妹となんら変わっていなかった。

 

 

 ー身体は大きくても、心はまだまだ子供って事か。

 

 

「はぁ……」

 

 

「兄さん? 溜め息なんか吐いてどう……むぐっ!」

 

 

 言い終わる前に僕は彼女の唇を奪っていた。キスだ。

 すぐに雅は口を遠ざける。

 

 

「な、な、な、何を!」

 

 

「お前の事は好きだよ、雅」

 

 

 言語がふらふらしている雅に、僕はそう優しく言葉をかける。

 

 

「……兄さんのえっち」

 

 

 そう言いながら、顔を横に向ける従妹の頬は赤く染まっていた。

 

 

 クリスマス、僕には可愛くて大きい『彼女』が出来た。

 

 A Happy Christmas.

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