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フェルスタウン~2人の旅人~【★】

フェルスタウン編完結

―――『半機械人間』

その名称は今では全く聞くことができない。

『彼』が造られたとされる時代、それは俗に黄金紀と呼ばれる時代であった。

しかしそれほどに栄えた人類の文明は突如として終わりを告げた。

原因が何であったのかもわからず、世界は消えてしまった。

長き戦争が続いた故の滅び―――

そう解釈されるしかなかったのだ。

国家のほぼ全てが壊滅状態。

秩序すら消え去った地上は、数十年の間混乱が続いたとされている。






とはいっても、アルとアンナが生まれるはるか昔の出来事なので、もはや伝説のレベルであり、男の言った単語などさっぱりわからず―――

『????????』

 2人揃って首を傾げるしかなかった。

「あの、『ナノマシン』ってなに?」

 その言葉に、男はバカを憐れむような表情になった。

「なによ!あんたの言ってることさっぱりなのよ!こちとら科学とやらに関しては素人なんだから、分かりやすく、懇切丁寧かつ、手短に説明しなさい!」

「・・・どうも、お前はオレの存在を知っていて契約したわけではないらしいな」

「だからそう言ってるでしょ!」

「では、初心者にも分かるよう説明する」

男がどこからかヒョイッとプラカードを出す。

ペンを使い、一糸乱れぬ動きで、正確に人間のシルエットなどを描いて行く。

なんか正確すぎて不気味だが・・・

「『半機械人間』というのは厳密にいえば人間ではない。人間の姿や形をしているのはあくまで地上で活動しやすくするためであり、身体能力をはじめとした様々な点が全く異なる」

「具体的に」

「力、ボディの強度―――俺は特に再生機能も備えている」

「うーん・・・見た目からじゃよくわかりません」

「―――足元の工具を何か貸してみろ」

「え?じゃあ、これで―――」

 指示され、アンナが渡したのは分厚い六角レンチ。男はその両端を軽く掴むと―――無言で折り曲げた(・・・・・)

「はい・・・?」「え・・・?」

 折り曲げられたレンチが静かにテーブルの上に置かれる。

 アルがおそるおそる持ち上げると、強固な金属でできた工具は、ものの見事に変形していた。

 筋力を鍛えればどうとかいう問題ではない。あきらかに人間の業ではない。

 目の前でおこった非常識な事態に、唖然とするしかなかった。まるで魔法でも見せられているような気分だった。

「―――俺がどういう存在なのか、少しは理解できたか?」

「ええ・・・まあ。なんか夢でもみてるのかな?」

「ほっぺをつねるか?」

「ちょ!やめてよ!今の力でつねったらほっぺたがとれるわよ!?」

「心配ない。今は僅かに出力を上げただけだ。本来は成人男性を上回る程度でセーブしている」

「・・・・・」

 アルはまず気持ちを落ち着かせた。その上で大きく深呼吸し、改めて尋ねる。

「私と契約したって言った?」

「『父親と母親に生きて合わせる』、それがお前との契約だ」

「協力してくれるってこと?」

「そのとおりだ」

 迷い無い男の目はまっすぐにアルを見据えている。

 決して逸らす事も、泳ぐこともない。

 『人の眼は真実を映す鏡』―――かつて師に言われた言葉を思い出す。

 手がかりに辿り着き、再び歩み出そうとした時、目の前の男は自分の力になると言った。

 不安だらけの旅に希望が見えてきたように思えた。

「わかった・・・よろしくね。とりあえず握手―――ん?」

 アルが、ふと男の手の甲の文字に気づく。

「その手に書いてあるのなに?」

 男はスッとアルに文字を見せる。

「『Re』、『I』、『Vu』、『N』―――レイヴン?」

「システムとしての俺の総称だ」

「なんだ、名前あるんじゃない」

「システム名だ。俺自身を指すものじゃない」

「じゃあ、私が決めた。あんたはこれから『レイヴン』。私の武器だって言うんなら拒否しないはずよね?」

 意地悪に上目づかいで言うアルに、『レイヴン』と名付けられた男は諦めたように呟いた

「―――了解した」






 誰も起きない早朝、アルは自分のバイクにまたがって、エンジンをふかしていた。

「―――アルさん!」

 トタトタと走って来るアンナにビクッとなるアル。

「ア、アンナ・・・ごめんね。起しちゃった?」

「もう行っちゃうんですか・・・?もっと、いろいろお話したかったのに・・・」

「う~ん。なんか私のおかげだと思いこんじゃってる人達に悪いしね・・・」

 苦笑いを浮かべるアルに対し、アンナの表情は硬い。

 あれほどの窮地を一緒に乗り越えたのだ。

 2人の間には、すでに知り合いと言うだけでは片づけられないほどの親密さができていて当然だった。

 親友とは別れたくない・・・それは互いの気持ちの中に確かにあった。

 アルが僅かな沈黙の時間を破る。

「―――私が旅立てるのはね・・・アンナのおかげだよ」

「え・・・?」

 アルは自分の胸にペンダント型にして下げられた【ディーナ・カウンター】を見せる。

「アンナがあの時、これをくれたから、私は両親を探す旅を続けられる。レイヴンにも会えた。ありがとう、私に希望をくれて・・・」

 そうだ。アルの旅はまだ終わっていない。両親を見つけるまで続くのだ。

 例え、どのような結末を迎えようとも、進むと決めた親友。

 その思いを自分が妨げてはいけない、とアンナは自覚した。

「アルさん・・・また、会えますよね?」

 寂しさを抑え、そう呟いたアンナの声に、アルは迷うことなく答えた。

「うん。今度は家族で会いにくるよ!」

「はい!また、会いましょう!―――――ところで・・・やけに荷物多いですね?」

 アンナがふと見つめたバイクの荷台には、山の様な、なにかが風呂敷に包まれ、くくりつけられていた。

「え!?あ、これは―――」

「―――街の住人から『サービス』で受け取ったものだ」

 バイクの側面に増設され、荷物が満載のサイドカーから声がした。

「ちょっと、レイヴン!あっさり言わないでよ!」

 比較的小さめな小包の山に埋まっていたレイヴンは、その内の1つをヒョイっと持ち上げ、顔をのぞかせる。

「約束の補給のみではあきたらず、街に出向いて世間話をしながら無償提供の物資を大量に集めていたようだ」

「そこまで、詳しく言わんでいい!ていうかなんで知ってるのよ!?」

「アルさん、て・・・意外と『ケチ』なんですね」

「ぐはっ!!・・・そ、そうかな?」

「何をしてる?早く出発しないと、他の住民が起きてくるぞ」

「そ、そうね・・・」

 アルが、長い髪をまとめ、風で暴れないよう服の中に入れ込む。

「あ、レイヴンさん・・・?」

「・・・・・なんだ」

「あの・・・あなたは私の命の恩人です。本当に感謝します」

「・・・・・気にするな。お前の運がよかった―――それだけだ」

「―――よし、出発!!」

 アルがアクセルをひねる。

 エンジンも新調し、馬力の上がった車体は、徐々に加速していく。

 アンナは、あえてさよならのために手を振らなかった。

 だってまた会えるのだから・・・。


両親を探し求める女―――アルカイン=フィアレス。

空から降ってきた男―――レイヴン。

2人の物語はこれから始まっていく。


挿絵(By みてみん)


高速更新はこの話で終了。今度は1週間後を目安に投稿したいと思います。

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