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フェルスタウン~降ってきた男~【★】

『“フレーム・ギア”だと!?』

 上空から突如落下してきたのは、まぎれもなく15mの機械の巨人。

 しかし、その姿は【ゲッシュ・ボンバード】とはまるで異なる。

 太い腕部と脚部。バランスのとれた装甲デザイン。完成度の高い、完璧な人型。外見的な特徴はなんと言っても、頭部にある2本の角と後頭のパーツから伸びる銀色の“髪の毛”であった。

 その佇まいは力強い“鬼”を彷彿とさせる。機体の色は、蒼。

 土煙がしだいに晴れ、ゆっくりと直立した蒼いフレーム・ギアは、背後にいるアンナに一言告げる。

『―――そこの女。そこの倒れてる奴と岩陰に隠れておけ』

 男の声だ。それも若い。そして、どこか淡々としていて感情がこもってないように聞こえた。

 アンナはとりあえず指示に従い、気を失ったアルを背負って、岩陰に身を隠す。

『な、なんだてめぇ!そいつらの仲間か!?どういうことだ?一体、どこからきやがった?!』

 レドは自分の優位性が消えた事に、浮足立っていた。

『―――空から来た・・・お前の敵だ』

『へ、そうかい・・・ならくたばれ!!』

 レドがトリガーを引く。砲弾が轟音とともに敵のフレーム・ギアめがけて発射。

 だが、蒼いフレーム・ギアは最小限の傾きだけでそれを避けた。

 はるか彼方の誰も居ない場所に榴弾が着弾する。

『う・・・』

『・・・・・』

 蒼いフレーム・ギアは無言のまま。一歩、ズンッと【ゲッシュ・ボンバード】に向けて踏み出した。

 フレーム・ギアに関しては素人のレドにも分かる。相手の技量が相当なものだと。

また一歩―――歩みが早まる。

『く・・・!』

 分が悪い―――いや悪すぎる!

 また一歩―――更に早まる。

『くそがぁぁぁぁ!!』

 【ゲッシュ・ボンバード】の砲身がランダムに砲撃を始めた。

 それを皮切りに、蒼いフレーム・ギアが一気に加速する。

 次々に襲いかかる榴弾を紙一重でよけつつ、相手の懐に潜り込んだ。

『ちぃ!!!』

 レドが近接防御用のマシンガンを浴びせる―――前に、銃身を青いフレーム・ギアが握り潰した。

 【ゲッシュ・ボンバード】の胴体に強力な蹴りが打ちこまれる。

 だが、転倒はしない。キャタピラで、しっかりと地に踏みとどまる。

 蒼いフレーム・ギアが、高く跳躍した。上空から勢いをつけ、攻撃の破壊力を上げるためだ。

 だが、それはレドにとって、願ってもないチャンスだった。

『はっはぁー!勝負を焦ったなぁ!!』

 【ゲッシュ・ボンバード】が背中に背負っていた大筒を展開する。そこには破格の破壊力を持つ特大ミサイルの弾頭が乗っていた。

 直撃すれば、小さな町を粉々に吹き飛ばせる代物だ。ましてや、蒼いフレーム・ギアは空中。避ける事は出来ない!

『俺の勝ちだぁー!!くたばりやがれぇぇ!!』

 ミサイル発射。ジェットエンジンで加速し、一直線に敵に突進。

「ああ・・・」

 言われたとおり岩陰に隠れていたアンナは、その光景を見ていることしかできなかった。

 誰もが、ミサイルで木っ端微塵になる蒼いフレーム・ギアの姿を想像した。

 だが、そうはならなかった―――


『―――ふん。ライセント!』


 蒼いフレーム・ギアの腕の側面に付いているブレードが透きとおった光を帯びた。

 勢いをそのままに、向かって来るミサイルに正面から突進―――真っ向からたたき斬った。

『なんだとぉ!!?』

 真っ二つにされた弾頭が、遅れて爆発。その爆力を背に受け、銀色の髪を持つ巨人がさらに加速する。

 流星と見間違えるほどの速度で白く輝くブレードが一閃する。

 数秒の時間が過ぎたような錯覚―――だが、実際は1秒にも満たない一瞬。

頑丈な【ゲッシュ・ボンバード】の装甲は、縦一文字に切り裂かれていた。

『そ、そんな・・・うそだろ』

 切断面から火花が散り始める。

 勝敗は完全に決した。

 蒼いフレーム・ギアは、戦闘不能になった【ゲッシュ・ボンバード】に背を向ける。


『―――くたばるのは、お前だ』


 一言、静かな呟きがその場の時間を再び動かす。

 ブレードの輝きが消えると同時に、両断されたダルマ型の機体が火を噴きだして爆散。

 その爆炎は、蒼い装甲を一瞬だけオレンジ色に染め、銀色の髪を風になびかせた。

『くそぉー!おぼえてやがれぇぇぇー!』

 どうやら緊急脱出装置が搭載されていたようだ。レドの乗ったカプセル型のコックピットは、爆風に飛ばされ、はるか彼方へ消え、星になったのだった。


「す、すごいです・・・」

 目の前で起こった事が現実である事を未だに信じられないアンナは、目を丸くするばかりであった。

 すると、蒼い機体の胸部の装甲が、突然左右に展開した。

 その内側に隠されていたハッチが開き、中から1人の人物が出て来る。

 真紅のウェーブがかったショートカットで、なにやらゴツゴツした黒いジャケットを着た若い男。

 爆炎の逆光で、影になってよく見えないが、その両目が薄く金色の光を放っているのがとても印象的だった。


「―――目立つ外傷はないな・・・オレを呼び出したのはその女か」


 日の入り寸前の荒野に風が吹く。

 紅髪の青年の左耳に下がった金色のイヤリングを風が揺らし、チリン、と音をたてた。






 アルが目を開けて、初めに見たのは電球の下がった天井だった。

 ゆっくりと体を起こす。額に乗っていた濡れタオルが膝の上に落ちた。

 傍らを見ると、椅子に座ったアンナが、うつむいて居眠りをしていた。

 彼女は顔や腕に絆創膏や包帯を巻いている。

 ホッとすると同時に、あの後どうなったのか、という疑問がわいてきた。

 ベッドから降りる。ところどころ体が痛かったが、体調を崩す前よりはずっと楽になっていた。

 部屋の外の様子を簡単に見回してみる。

 小さな待合室が見え、施設全体が白くデザインされていた。

「あ、病院か」

 ここは、フェルスタウンの市街地エリアにある、総合病院の一室だった。

「―――あ・・・アルさん!」

 アルが振り返ると、アミーナが抱きついてきた。

 その目から涙がこぼれる。

「目が覚めたんですね・・・!よかった・・・」

「ごめん・・・心配かけたね」

 アルもそっとアミーナを抱きしめる。

 もうだめかと思った。でも生きていられた。その事を今はただ喜んでいた。


その後、特に体の異常も見当たらないとのことで、昼ごろには病院側から退院の許可が下りた。

ふと治療費の事について『ハッ!?』と不安になったが―――


「いえいえ、街を解放してくれた恩人からお金なんてとれませんよ~」


 と受付の女性に軽く言われ、なんのことだか全く身に覚えがないのだが、とりあえずお礼を言った。

 それから、街のどこを歩いても英雄のようにもてはやされ、アルは少しの間、混乱状態に陥っていた。

 食べ物の露店の人は、安い物ならタダで持って行けと言う。(もちろんもらった)

 カメラマンが写真を1枚撮らせてくれと言う。(かなりの枚数撮られた)

 酒屋の店主が一升瓶を受け取れと言う。(必死に断った)

もうもみくちゃに近くて、鉱山エリアに戻るまで、数時間かかった。

「な、なんなのこの騒ぎ・・・?」

 やっと静かな酒屋に戻ってきて、椅子に座り、フニャっ、とくたびれる。

「すいません。なんか街のみんなは『アルさんがティーンズファミリーを街から追いだした』って思ってるんです」

「追いだしたって・・・あいつらいなくなったの?」

 あの気絶した後からの記憶などさっぱりないアルは、その情報に目を丸くした。

「あの後、何があったのか教えてくれる?空から何かが降って来たあたりから覚えてなくて・・・」

「はい。長く話すのと短く話すの―――どっちがいいですか?」

「・・・短いとどれくらい?」

「謎の男は金色の目をしてました―――終わり。わかりました?」

「いや!わからないから!」

「じゃー長々と説明しますね。あの後―――」

 細かい説明が続いたが、要点をまとめるとこうなる。


・蒼い機体は『ゲッシュ・ボンバード』を破壊し、その後、地面に沈んで消えた。

・パイロットらしき『金色の目』の男はアルを抱え、病院まで運ぶと、ついてきたアンナにまかせ、医者が来る前に姿を消した。

・アルが戻ると同時にティーンズファミリーが街から引きあげたため、街の人々は『アルの活躍により街が救われた』と勘違いしている。


「その『金色の目』の男には、あれから会ってない?」

「そうなんです。本当に街を救ったのはあの人なんですが・・・」

「うーん」

 首をかしげるばかりのアル。

 その時、外から叫び声が聞こえた。


「おい!そこの屋根の上で寝てる奴は誰だッ!?」


「ん?」「え?」

 その声が気になり、2人そろってトコトコ店の外に出る。

「―――どうしたんですか?」

「おお!アルさん!目が覚めたのか!ライリーに知らせないとな!あ、いやそれよりも屋根の上にいる奴だよ!」

 炭鉱から休憩で帰ってきた男が指さす先を2人で見上げる。

 すると―――

「ああーーーーーッ!!この人ですアルさん!この人!『金色の目』の男です!」

 アンナが手をばたつかせ、思わぬ再会に慌てる。

「え?」

 アルが再び見上げると、男は空を仰いで寝転がっていた。そこから微動だにしない。

「うーんと・・・」

 そんなに高くない屋根だが、梯子なしで登るには無理がある。

アルは周囲を見回し、建物に隣接する岩の壁に目をつけると、そっちに向かって勢いよく駆けだす。

岩を蹴り、壁キックの要領で軽々と屋根に上った。

 ゆっくり近づき、男の顔を覗き込む。

 『金色の目』かどうかはわからなかったが、肩と胸部に大小の装甲板がついた黒いジャケットには所々ベルトが巻かれていた。その下にハイネックのインナーを着ている。動きやすさを追求したとされる長いズボンやブーツにも各所に装甲の様なプレートがついていた。

 赤い髪をなびかせる『金色の目』の男は―――寝ていた。

 まぶたを閉じ、仰向けになった姿のまま全く動かない。

「・・・・・もしもし」

「なんだ?」

「のッ!!?」

 呼びかけた瞬間、男の目が即座に開いた。

 驚いたアルは、思わず数歩後ずさる。

「・・・・・もう動けるようだな」

「あ、え?まぁ・・・はい」

 ゆっくりと立ち上がった男の目は確かに金色だった。

「起きたなら先に済ませておくことがある」

「あの、いろいろ説め―――」

 アルが言いかけたところでその言葉を止めた。いや、話せなくなった。

 なぜなら―――その口が、男の口でふさがれたからだ。


挿絵(By みてみん)


「~~~~ッ!?~~~~~~ッ!!?」

 あまりに突然の出来事に、我に返るまで一瞬遅れた。必死に男を離そうとするが、信じられないような力で抑えられており、全く離せない。

 数秒かかって、ようやく男がアルを解放した。

 顔が真っ赤のアルは、半ば放心状態でフラフラとその場にへたりこんだ。

「どうした?早く降りるぞ」

 何事も無かったかのように言う男。

「―――あ、あはは・・・そうね。その前に私もひとついい?」

「なんだ?」

 ユラリと立ち上がったアル。次の瞬間、強力な右フックが男の右頬にクリーンヒットした。

「・・・なにをする」

「やかましいッ!!なにをする、はこっちのセリフよッ!!いきなりなんなのよッ!!」

「なんのことだ?」

「今!あんた何したかわかってるのッ!?」

「―――『DNA登録』だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「『DNA登録』だと言っただろ。唾液からが一番とりやすい」

 男の言っている事がいまいち良く分からないアルは、その場で止まってしまった。

「『DNA』ってなに?」

「知らないのか?人体の遺伝子情報の事だ。俺の所有者になる以上は必要になる」

「だから一体なんの話をしているのよ!?私はいきなりキ・・・・・」

「・・・キ?」

「キ・・・キ・・・・とにかく今されたことが許せないのよ!謝りなさい!」

「よくわからんがすまん。これでいいか?」

「く・・・納得できないぃー!!」

「?」

 自分は顔一面が朱色に染まって地団駄踏んでいるのに、顔色一つ変えない男に腹がたった。

「アルさーん。どうしたんですかー?」

 下からアンナの声が聞こえ、アルは我に返る。

 とりあえず、さっきの件は保留にして、目の前で首をかしげる男から話を聞かなければ・・・






ほぼ無人の酒場に入った3人(さっきの鉱山の男は仕事に戻った)は、さっそく金色の目の男から話を聞くことにした。

「―――で、あなた誰なの?」

 アルが率直に正体を尋ねる。

「オレは『対戦争抑止兵器』と言う生体兵器の一種だ」

「生体兵器ってなんですか?」

「生きている武器、と考えるといい」

「はぁ」

「で、名前は?」

「オレか?」

「そうよ」

「・・・名前は無い。好きに呼べ。お前の『武器』だ」

 男の金色の目がアルを見据える。

「・・・・・あの、『お前の武器』、ってどういう意味?」

「お前がオレを所有している、という意味だ」

「所有って・・・」

「オレはそういう存在だ。知らなかったのか?」

「いましがた会ったばかりの人間に使えって言われれば抵抗があって当然でしょうが」

「所有者がいなければ、オレは大きな活動が許されない。そうプログラムされている以上、使ってもらわなければ困る」

「使うって、例えばどんな風に?」

「指示を出せばいい。お前の命令は最優先で実行する」

「うーん。じゃあ・・・お水持ってきて」

「断る」

 男が即答で拒否。矛盾がないか?

「・・・最優先で実行するんじゃなかったの?」

「お前は、自分の銃に『水を持って来い』というのか?少しおかしいんじゃないか?」

「このやろう・・・」

 アルの頭に怒りのマークが出る。だが、グッとこらえる。

「ま、私達を助けてくれたのは本当みたいだし。・・・で、どうして私の『武器』なの?私よりアンナとかの方がふさわしいと思うけど?」

 アルは自分より、戦う術を知らないアンナにこそ『武器』は必要だと感じた。この男がボディガード的な仕事をしているなら、なおさら自分にはふさわしくない。

「―――これを握って『契約』しただろう」

 男が懐から取り出したのは、あの紅い宝石の組み込まれたプレートだった。

「これと『契約』って?」

「これは【ディーナ・カウンター】だ。オレが射出される座標を認識するためのもの。同時に契約者の証でもある」

「うーん。契約した覚えないんだけど・・・?」

「『生きて父親と母親に会わせる』がお前との契約だ。オレが完全に破壊されるか、お前が死亡するかのどちらかで契約は終了になる」

「ちょっと、自分を物みたいに―――」

「当然だ」

 アルの言葉を男は遮った。

「俺は『半機械人間』―――身体をナノマシンで構築した戦闘兵器だ」


はじまりの物語は次でラストです。

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