表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

最終話:静かな旋律(芹沢)



閉館間際の図書館の前で、俺は立っていた。


今日は、ちゃんと二人きりで言う。

あの日、来客で途切れたままになった言葉を。


扉の鍵がかかり、灯りが落ちる。

しばらくして、結芽さんが出てきた。


俺を見つけて、目を丸くする。


「……え?」


驚いた顔が可愛らしくて、胸が苦しくなる。

そのまま、俺は一歩前へ出た。


「あなたの音楽が、僕の静かな日々に色をつけてくれた」


声が震えないように、ゆっくり言う。


「だから——これからも、僕のそばで、あなたの音を聞かせてくれませんか」


結芽さんは何度も瞬きをして、言葉を探しているみたいだった。

そして、ふわっと微笑んだ。

初めて会った日よりも、ずっと柔らかい笑顔で。


「あなたの言葉が、私の音楽をほどいてくれました」


彼女は鞄から封筒を出す。

中には、整った五線譜に書き直された新しい楽譜。


タイトルは——『静かな旋律』。


「この曲、いつ聴かせてくれる?」


俺がそう言うと、彼女は小さく笑った。

鈴みたいに、軽くて澄んだ声。


「いつでも。……二人だけの時に」


その返事は、恋人になります、よりも深い約束に聞こえた。


図書館を離れると、街は雨上がりの匂いがした。

空のどこかに、光が残っている。


俺たちは手を繋いで歩く。

言葉は少なくても、歩幅が合うだけで、旋律みたいに心が整う。


音は、最後まで鳴らなかった。


でも、確かにここにある。

二人の間だけに流れる——静かな旋律が。


(読み終えたあと、あなたの中に残ったのは「音」でしたか。「言葉」でしたか。それとも、名前のつかない温度でしたか。)


後書き(最終話のみ)


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

この物語は「音がないからこそ、届くものがある」という想いから生まれました。


もし、どこか一行でも心に残る言葉があったなら、

それがこの物語にとって、いちばんの救いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
静寂の中で育まれた二人の絆が、最後に穏やかに結実する描写が美しいです。「音がないからこそ届くものがある」というテーマが、言葉や触れ合い、歩幅の揃い方までに広がっていて、読後に心に柔らかく温かい余韻が残…
大きな言葉ではなく、歩幅と沈黙で描かれる結末。 「恋人になります」より深い約束、という表現がとても印象的。 音が最後まで鳴らなかったからこそ、余韻が長く残る。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ