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第6話:触れてしまった静寂(芹沢)
触れたのは、ほんの一瞬だった。
図書館という場所のルールが、俺たちを急に現実に引き戻す。
別の利用者が来て、俺は手を離した。
彼女も何も言わず、ただ頬だけが少し赤かった。
帰り道、街はいつも通りうるさかった。
車の音、店の音、話し声。
でも不思議と、俺の中は静かだった。
静けさって、こんなにも満たされるものなんだな。
その夜、封筒の中の『静かな旋律』を机に広げた。
音符は相変わらず読めない。
けれど、結芽さんの気配は、紙の上に残っている。
彼女が書いて、消して、また書いた時間。
怖さと、勇気と、期待。
——俺はもう、誤魔化せない。
この関係を「優しい偶然」で終わらせたくない。
次に会ったら、言うべき言葉がある。
でも、言葉にするのは怖かった。
音楽みたいに、間違えたら壊れてしまいそうで。
(触れてしまったから、もう戻れない。それでも、この静けさを失いたくない。あなたなら、その気持ちを言葉にしますか。)




