第2話
撮影が終われば、あとは動画編集者の仕事だ。しかも今回はVtuberのようにキャプチャスーツを使用した3Dイラストを動かしたものなので、かなりデータが重たい。
(重いぃぃいいい!!)
キーボードを動かせば良いという問題じゃない。パソコンが——重たいのだ!!
(うぉぉおお! 負けるものかーー!!)
撮影した本数5つ。および1日1.5の割合で作成、修正を計5つ。1週間後には投稿することができた。しかし、YouTubeチャンネル登録者が80万人いながら、目標数字には辿り着けない。
「伸びがあまり良くないな。最初だし、こんなもんか……」
「各自タレントのライブ配信の様子でも切り抜いてみます?」
「ふじっち、できるか?」
「今案件ゼロなのでやってみましょう」
「おい! 今誰もふじっちに案件振るんじゃねえぞ! 本気だからな!」
なんと、この提案が上手くいくとは誰が予想できたことだろうか。企画系のショート動画こそ伸びなかったものの、あたしがタレント達に連絡を取り、ライブ配信で切り抜き動画にあげて面白そうな箇所がないか聞いて回ったところ、全員がトークの内容と時間をチャットにまとめてくれたお陰で、あたしはそこを切り抜くことだけに専念できた。そしてその中での平均再生数が50万台。白龍月子の切り抜き動画は1日で100万再生を突破した。
(すげーーーー! 1日で100万再生いった!!)
「ふじっち、よくやった!!!!」
高橋先輩がセクハラで訴えられてもおかしくない熱いハグをあたしにした。
「今回のでタレントの移籍契約が確定した。本契約だ!」
「ふじっち、おめでとう!」
「すごいじゃーん」
「これお給料上がります?」
「ボーナスが出る。俺とお前、一人ずつ、給料2ヶ月分」
あたしは拳を固めて、ひたすらその場で喜びの腕の振りを披露した。
「しばらく俺とふじっちはこのプロジェクトに集中することになるから、そのつもりでな」
「達成感半端ないっす……」
「次の企画会議も兼ねて今夜タレント達も含めて飲みな。いいか。タレントには飲ませろ。お前は飲むな」
「……はーい」
「よっしゃあ!」
いやあ、景気がいいですなぁ。こんなにもあっさりと結果を出してしまう自分が恐ろしい恐ろしい。
(ただ、需要とはわからないものだな。このエピソードが100万再生ね)
あたしは100万再生の動画を改めて再生した。モニターに、白龍月子の一枚目イラストが映る。
『「彼女と疎遠になった話が聞きたい」? 嫌だよ。……だってどうせみんな聞いたところでまた俺をからかうんだろ!? わかってんだよそんなの! てか何度この話すればいいんだよ! もうみんなわかってんだろ! 知ってるだろ! この話!』
白龍月子がため息を出せば出すほど、嫌がれば嫌がるほど、リスナーが盛り上がる。
『だからぁ……高校の時にね、付き合ってたんですよ。後輩の女の子と。その時は自分がレズビアンだって自覚がなくて、普通に男とも付き合ったことあったんだけど、うん、1時間で終わったんだよ。男は。だから、ね、仲良くなった、後輩の女の子がいたから、付き合ったんですよ。成り行きで。で、歌を勧めてくれたのもその彼女で、いつもカラオケで俺の歌を聴くことをね、すごい楽しみにしてくれてたの。で、本当に大好きだったんですよ。俺にも、手を繋げたらもう幸せーみたいなね、ピュアな時代が、あったわけですよ。でもさ、やっぱ地方だったから、歌やるならやっぱ東京? 行かなきゃいけないよなぁと思って、上京したわけですよ。一応その時からありがたいことに生活費が大丈夫なくらいには配信でやれていたので、ボイトレ通いながら生活をしていたわけですね。で、そろそろ相手も卒業でね、一緒に住もうと思って連絡したんですよ。そしたらもう、ね、連絡、が、ね? できなくなってたんです。いや、できなくなってたというか、もう、既読もつかない? っていう、うん、だから、ね、その子のご実家も知ってたから、連絡したんですよ。ただ、まぁ、時間が合わなくて、彼女の、お母様が出たの。で、お母様には、連絡してくださいって伝えてくださいって言ったの。そしたら、もう……それっきり。全く、未だに、連絡がありません』
>なんか……ごめん……。
>ほら、俺らのパンツで涙拭けよ。
『いや、ちょっと待てよ……。なんでパンツ渡してくるんだよ。いらねーよ。お前らのパンツなんか。こういう時普通は「私が彼女になりますー」とかって声がかかるんじゃないの? なぁ、男性陣、俺は一応女だよ? パンツを渡して、「これで涙拭けよ」ねぇ、どうなってんの。この枠』
>無言の覇気で別れたんだね。どんまい。
「別れてないから!! だって別れるって言われてないもん! 言われてないから無効です! まだ付き合ってます! 絶対見つけて結婚するから!! 見てろよ、お前ら!」
(……これが、100万再生か……)
——……きこ、リンちゃんから連絡あったよ。
——……え、西川……先輩から?
——あんた、スマホ水没してLINEのデータ消えたこと、言ってないんでしょ。連絡したいことあるって言ってたよ。
——……あー、うん。わかった。友達、誰か知ってると思うし、聞いて連絡しておくよ。
(……結局連絡、できなかったな……)
「ふじっち」
あたしは高橋先輩に振り返った。
「佐藤さんに連絡しておいたから、店の予約頼むわ」
「いつものところでいいですか?」
「ああ、経費で落とすから予約だけ」
「了解です」
あたしは動画を閉じ、店のホームページをクリックした。