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第1話


 ——着信音が鳴り響き、あたしの体がビクンッ! と反応した。有無を言わず無意識に手がスマートフォンを掴み、無意識に口が動いた。


「はひ! 藤原ふじわられす!」

『あー、ふじっち、お疲れ様ー』

「おちゅかれさはれしゅ!」

『データ整理し終わったから、ギガでデータ送っとくから。あとよろしく』

「はひ!」

『11時には着くから。で、今、何の案件やってる?』

「……今……」


 あたしはパソコンを見て——タスクが書かれたメモにペンで横線を入れた。


「大丈夫です。もう終わります。あと一歩のところで睡魔がきて、もうその作業だけなので」

『お! じゃあ楽しみにしてますよ〜』

「はい、お待ちしてます。お疲れ様です」


 通話を切り、もう一度パソコンを見て状況を確認した。……うん。大丈夫。


(あとは演出の微調整だけだから、30分もあれば終わる。あー、今回も頑張ったー……)


 スペースキーを押せば、作成した動画が再生される。


(ここを少しズームして……徐々に……離していって……で、テロップを……あ、いいねぇ、おっけーおっけー、大丈夫そう)


 チャットアプリの通知が鳴り、あたしの指がそれをダブルクリックした。高橋先輩からのチャットが現れる。


 >さっき言い忘れてたけど、今日タレント達来るから、シャワー入って、服も着替えといてね。


「タレント……?」


 その単語から消え失せていた案件を思い出し、あたしははっと息を吸い込み、机を見回した。エナジードリンクと栄養ドリンクとコーヒーの缶だらけになっている。時計を見た。——10時15分。


「おっけー! まだ間に合う!」


 一気にタスクを片付けるため、あたしは両腕を広げた。



(*'ω'*)



 ショート動画制作またはコンサル会社。および、マーケティング会社、および、タレントプロダクションでもあるのが、うちの会社。最初は社長が一人で細々と広告画像を作っていたところから動画制作会社となり、マーケティングもやり始め、この春新たな試みとして、タレントプロダクションもやることになった。だが、タレントはまだいない。このプロジェクトは始まったばかりで、入ってくるタレント達もいわゆる、事故みたいなことが起きての、仮移籍、みたいな形だった。


「前の会社の社長が金持って逃亡したんだとさ。うちの社長とマネージャーが友達同士で、その関係で移籍って形でこっちで面倒見ることになったって」

「ふーん」


 あたしは急遽ユニクロで購入したシンプルな服とパンツに身を包みながら、先輩についていく。


「活動5年目。Youtubeアカウント登録者数80万人。顔出しはライブのみのバーチャル女性歌い手グループ。Re:connect(リ:コネクト)。知ってる?」

「あー……名前だけ?」

「メジャーデビュー決まったタイミングで社長飛ぶなんて、運がないな」

「まあ、でもそのお陰でこっちが受け持つことになりましたからね」

「まだ仮契約だけどな」

「本契約は数字を見てですか?」

「ああ。ま、ある意味ラッキーかもな。残り20万人増やすために、ショート動画で認知度上げていこうって言うんだから。うちはMVっていうよりは、そういうところが特化してる場所だし。本契約の条件はそんなに厳しくないはずだ」


 そう。高橋先輩もあたしも、別に歌い手グループにも、タレントにも興味があるわけではない。カメラマンも編集も人手不足で、余ってるのが高橋先輩とあたししかいなかったのだ。運営部は他に数人いるが、またやる仕事は別だ。高橋先輩は企画と撮影担当で、そのデータを編集するのがあたしという少人数制。どうかお願い。人手よ増えて。MVなんか作れる技術ねぇぞ。事務の社員が高橋先輩に声をかけた。


「あ、高橋さん。もうタレントさん方到着してます」

「よし」


 高橋先輩が消臭スプレーをあたしに噴射させた。ぬわ!


「何するんですか!」

「念には念をだ! お前は少し女を取り戻せ!」

「朝まで残業してた結果ですよ! 大丈夫ですよ! シャワー入ったんだから!」

「タレント前にしても同じことが言えるのかよ。これから俺もお前も、運営部の一人になるんだぞ!」

(知らないし……あたし動画編集者だし……)


 高橋先輩がドアをノックした。


「すいません、失礼いたします〜」


 さっきとは打って変わった猫撫で声でドアを開け、中へ入っていく。歌い手メンバー五人はマネージャーと共に席に座っていて、ケータリングのお菓子をつまんでいた。


「企画と撮影担当の高橋たかはしです。で、こっちが」

「動画編集担当の藤原ふじわらです。初めまして」

「初めまして、マネージャーの佐藤さとうです」


 佐藤さんの名刺を両手で受け取る。


「タレントのご紹介なんですけども、左から」

(おー。意外と年齢近そう)

「黒色担当の黒糖こくとうミツカ、紫色担当のむらさきゆかり、青色担当の水城みずしろスイ、緑色担当の木陰こかげエメ、で」


 佐藤さんが手で差した。


「リーダーの、白色担当、白龍月子はくりゅうつきこです」


 ——顔を隠している意味がわからないほどの中性的な顔つきの美女だった。髪の毛を白色に染めていて、そのままコスプレができるほどの顔面偏差値と綺麗な肌の持ち主。もしかするとハーフなのかもしれない。


(足長。普通にモデルやってそ……)


 バチッ! と白龍さんと目が合った。なので、あたしは最大限の笑顔を浮かべた。


「初めまして! 藤原です!」

「……あー」


 白龍さんが頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「月子、今日元気なくない?」


 ミツカさんが白龍さんの頬を指で突いた。


「いつもはもっと愛想いいんですよ? この子。黒糖ミツカです! よろしくお願いします!」

「紫ゆかりです! ゆかりんって呼ばれてます!」

「スイです……あの……よろしくお願いします……」

「エメです〜」


 こうやって実際会ってみて思うが、確かに顔出ししてなくてもしていても、結局中身は人間で、Vtuberも人間にイラストをつけただけの配信者には変わりない。つまり、この人たちもイラストをつけただけのアイドルグループと変わりないのだ。


 あたしは動画編集を勉強した時に習ったことがある。この技術は、人のため、クライアントのために魂を捧げるつもりで使えと。


(動画編集、頑張るぞ!)

「それでは、早速撮影を始めたいのですが……」


 会社のスタジオを使用し、先輩がカメラを準備して、キャプチャスーツを着たタレント達にピンマイクをつけていく。一度テストで喋ってもらい、音の確認をする。


「(うん。大丈夫そう)先輩、マイクおっけーです」

「カメラも大丈夫そう」

「あ、すいません、一瞬待ってください」


 あたしは白龍さんの側へ行き、跪いた。


「すいません、ちょっと触りますね」

「あ……」


 少しずれていたマイクを正す。白龍さんがあたしに軽い笑みを浮かべた。


「……ありがとうございます」

「準備おっけーです!」

「では、いきまーす!」


 最初の企画はアキネータークイズ。これなーんだ? の声に続いて物を当てていく。次の企画はお題にそって四つ文字の言葉を考えてもらうクイズ。例えば「歌うのが好きな人と言えば?」「う」「た」「い」「て」みたいなことを答えてもらうというものだ。白龍さんがお題を言う。


「失恋と言えば? せーの」

「か」

「つ」

「ぼ」

「ん」

「かつぼんって何!?」

「あははは!」

「失恋って言われたから悲しいって言おうとしたの!」

「白龍は失恋してばかりの人生だもんね!」

「失恋してないから! ファンのみんながいるから!」


 よしよし、盛り上がってる。リーダーの白龍さんが先陣切って大きな声で盛り上げてくれるから非常に助かる。これは変に演出しなくても良い動画が作れそうだ。


「月子あれだもんね。彼女と付き合っててなんかそのうち音信不通になったって」

「言うなってそういうことー!!」

(……ん?)


 あたしはタレントの資料を確認した。


(……あ、なるほど)


 リーダー、シルバー担当、白龍月子はくりゅうつきこ

 声が低めなのと、レズビアンであることを売ってるので女性ファンが多いです。本人も公にしており、そのネタを楽しみにしている人が大半なので、どんどん使ってください。


(レズビアン、へー。確かに顔つきは男性みたいだもんなぁ)


 レズビアンまで需要があるなんて、SNSは自由だなぁ。


(あたしが高校の頃なんか……)


 ——ツゥ。


「……」

「次の撮影の準備するので、休憩してくださーい。ふじっち!」

「はーい!」


 高橋先輩に呼ばれ、あたしが高橋先輩のいる方向へ走り——白龍さんとすれ違った。少しだけ、視線を感じたような気がした。


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