~二章~ 「お嬢様ですが頑張ります!」
「……おかえりなさいませ。」
屋敷の入口、玄関に執事やメイドさんがずらっと並び、帰って来た主を出迎える。
「ああ……ただいま。皆ご苦労様」
帰って来た主は、ニッコリ微笑む。歩きながら執事に尋ねる。
「……イズミはいるかね?後で私の事務室に来るよう伝えてくれ」
「かしこまりました。」
執事が頭を下げながら、そう答えると。何故か後ろに並んでいるメイドさんの列からも、
「わかりました。」
と、声がした。
……!?
執事さんも「?」と、メイドの列を見る。それ以上に主は驚いて振り向く。
それと同時にメイド達が騒ぎ始めた。
「……え?いつから?」
メイド達は一斉に1人のメイド姿の少女を見ている。
「ま、全く気がつかなかったわ!」
そのメイド姿の少女は、特に気にせず。いや、よくわかってなさそうに首をかしげていた。
「な……何をしておるのかね?イズミよ」
───事務室に来る二人。イズミと主。
「いやぁ、なんか落ち着かなくて……。」
イズミは笑いながら答える。
「落ち着かないからと言っても、他にすることがあるだろうに……。」
やれやれ、といった表情で答える主。
……イズミは、この館の主である子爵に引き取られ養子になった。その後二年間の間は貴族の学校に通い、それから今までの約三年間は貴族社会の事を学んだり、他の貴族との交流等様々な事を学んでいた。
その一つが、上位の貴族家への奉公だった。イズミは約一年、王家と公爵家のメイドをしていたのである。……ちなみに公爵家のご令嬢は、同じ孤児院出身でお友達のセレナちゃん。……うん、ちゃんとお姫様してた。
その一方……私は。
「……なんか板に付いちゃって。」
どうも貴族とかお嬢様と、言うのはしっくりこず。メイドが異様にしっくりはまるイズミでした。
「……それで、お義父様。大事なお話とは?」
「ああ……すまないね、それじゃあ本題に入ろう。以前から話していた学校の件だよ。」
……以前から話していた学校のお話、そう。それが私が引き取られた理由。
それも「子爵」と、そこそこ位が高い貴族に引き取られた。まあ、選んだのは私なんだけどね。……後で聞いたら、あの場にはさらに位が高い貴族「伯爵」とかも居たそうです。
……それで私が引き取られた理由は、二つ。
一つめは、貴族と結婚する事。クラスや属性は遺伝する可能性が高いらしく、優秀なクラスや属性は貴族にお呼びがかかるわけです。
二つ目は、貴族としての責務を果たすこと。……要するに冒険者になって名誉を得たり、魔王軍と戦い貴族の務めを果たす事。当然上位クラスの方が強いので、お呼びがかかりやすい理由です。
……私は後者の選択を選ぼうと思いました。だって勇者ですよ?勇者!イズミは自分自身の秘められた能力や、その称号ゆえのポテンシャルにわくわく目を輝かせていた。
「……そうかね、少し残念な気もするが……。最高クラスの勇者だからな。当然か。」
「君にはうちの息子達と結婚してほしかったのだが……まあ、仕方がない。」
……お義父様には三人の子供がいる。三人共にまだ独身。
……うーん。もし結婚するなら、年の近いアルセスくんになるのかな?ちなみに年は私の一個下になる。アルセスくんいい子なのよね。
「では、入学の手続きをしておくよ。」
「はい!」
私の胸は新しい学園生活に高鳴りを覚えていた。
──そして、イズミの入学の時期を迎えた。その夜、イズミは馬車で学園に向かった。学園は全寮制で入学の前日には学園寮に入る事になっている。
……イズミは馬車に乗っている時、昔の事を思い出した。初めて馬車に乗った時の事を。……凄いはしゃいでたなぁ。凄ーい!とか目をキラキラさせて。しかし、もう私は15なのだ。馬車ではしゃぐ年ではない。
……イズミは、馬車から見える外の景色を眺めながらそう思った。
はい、嘘付きました。ごめんなさい。お馬さんもふもふして馬車の御者さんを困らせたり、ソファーばふばふしたりしてました。
あっ!そういえば、セレナちゃんも学園に通うらしいです。どうやらセレナちゃんも聖女の道を目指し、学園を選んだみたいですね。
あ……でも。もう15だし、「ちゃん」はやめた方がいいのかな?一応あちらは「公爵令嬢」なのだ。ほぼお姫様レベルである。
……でも仲いいし、まいっか。学園生活楽しみだなぁ……。
──イズミは夜の内に寮に入り、翌日の入学式を迎える。
今年の入学生徒は約300人、全員貴族です。まあ貴族の学校なので当たり前か。セレナちゃんいないかな?とキョロキョロ見回すが姿は見当たらない……と思ったけど。流石公爵令嬢。新入生代表の一人として、前で挨拶してました。会って話たかったけど、忙しそう。……仕方ないね。
……入学式が終わり、今後の説明が少しあった。イズミは寮に戻りその件を思い浮かべていた……。
「思ってたより、キレイな寮だなぁ!孤児院とは比べ物にならないやぁ……。」
当然である。貴族様の学校なのだから。
……イズミは部屋ではしゃいでいた。
……あ、はい。今後の説明ですね。
一つ目は、「能力鑑定」
二つ目は、「パーティー編成」
の、話だった。
イズミは10才の時に、「クラス鑑定」と「属性鑑定」を司祭様より受けた。それはこの国の人間なら全員受ける物である。
それとは別に15才になると、「能力鑑定」を受ける。これもまた、国民全てが受ける事になっている。
そして、次がパーティー編成。三年間一緒に冒険したり学園の試験を受けたりする、メンバーを決めるらしい。
イズミはまたも目を輝かせていた。
だって勇者ですよ?勇者。そりゃあもう!スキルも凄いに決まってます!なんたって「勇者!」なんですから!
……イズミは勇者になって大活躍するであろう、自分を想像しながらはしゃいでた。
「……凄いスキルだったらどうしよう?」「……困っちゃうなぁ……うふふ」
──はい、そう思っていた時期が私にもありました。
……まさか、あの様な「呪われた」スキルだとはこの時、誰も思わなかった……。