~十五章~ 「侯爵令嬢ユミリアの華麗なる事件簿~祈る事しか出来ない名探偵、そして事件は闇の中編~」
一通の手紙だけを残し、再び起きる誘拐事件。
「そ、そんな。こんな事って……。また、守れなかった。三回目も……だから、だから言ったんです。一人にしたら駄目だって……。」
イズミは泣いていた。事件を未然に防げずに、また誘拐されたルーイズの為に。……イズミは涙を流し、泣いていた。
…………。
「……バカね。」
こんなイズミだからこそ、私は友達に。いや、親友になれたのだと改めて思った。そんなイズミの頭を優しく撫でながら、私はふふっと笑う。
「大丈夫よ安心して、イズミ。今頃……。」
「……え?」
イズミは、きょとんとした顔で私の顔を見上げる。
「さあ、行くわよイズミ。」
私はイズミの手を引き、寮の庭へと向かう。
「ご苦労様、二人共。いえ、三人共。」
「…………。」
「ええっ!?」
酷く驚き戸惑うイズミ。その視線の先には、シオンとリカルド、それにテティス。……そしてルーイズと見知らね男性の姿があった。
「ルーイズさん!?良かったー。あー、この人が犯人さんですねっ!よくもルーイズさんをっ。」
「待ってくれ、話を聞いてくれ。」
怯える卑劣な誘拐犯。
「いいえ、絶対に許しません。卑劣な誘拐犯はきちんとお仕置きして、警備の人に連れて行って貰いますからねっ。」
テティスとドッペリーヌの三人?で、誘拐犯に詰め寄るイズミ。
「ふふふ、覚悟して下さい。」
「しなさーい。」
「うにょうにょ……。」
「やめてっ!」
「……えっ!?」
突如犯人を庇う様に、ルーイズが叫びながらイズミ達の前に出る。
「やめて、彼は悪く無いの……。これは私が、彼に頼んだ事なの。」
「えっ?一体どういう事なんですか?」
「ふふっ、やっぱりね。大方、そんな事だろうと思っていたわ。」
「……えっ?」
この状況をよく分かっていないイズミは、私の言葉にも驚いていた。
「えっ、駆け落ちですか?」
私はイズミの話から状況を推理し、ルーイズは自らの意思で消えたものだと、予想していた。
……でも、まさか駆け落ちとはね。
「分かっていたなら、私にも教えて下さいよー。ユミリアさーん。私だけ仲間外れだなんて、酷いですぅ。」
頬を膨らませて、ぷくーっと怒るイズミ。
「ふふっ。ごめんなさい、イズミ。ほら、貴女って顔に出やすいから……。」
…………。
「私は、この学園を卒業したら。親が決めた相手と結婚しないといけないの……。でもそんなの嫌っ!私は彼の事が好きなの、愛しているの……。お願い、このまま彼と一緒に行かせて……。お願い。」
「…………。」
……ん?
何かイズミとシオンとリカルドとテティスとドッペリーヌが私の方をじっと見てくる。
……え?
いや、私だって鬼じゃないわよ?え?
イズミなんて、目を潤ませながら私を……。
え?私ってそんなに怖い?……あれ?
「べっ、別に止める気なんて無いわよ?行きたければどうぞご自由に、お幸せに。」
「……ユミリアさん。」
イズミの顔が、ぱあっと明るくなる。
……えっイズミ?私を何だと思っているの?後でちょっと、お話をしましょうか。
「ありがとう、ユミリア。私、絶対に幸せになるわ。」
幸せに向かって、駆け出して行く二人。
「……一件落着ね。」
ほっと一息付くが、何だか少し納得がいかない。
……私って、そんなに怖いのかしら?
…………。
「まあいいわ戻りましょ、イズミ。三人もお疲れ様。」
部屋に戻ろうとする私達に、いきなり眩しい光が浴びせられる。
「誰だっ、そこに居るのは!?」
「……えっ?」
────────。
──カチャリ。
イズミは事件の全容を話終え、少し哀しそうな表情を見せる。
「そっそれで、どうなったの?」
私のティーカップの中の紅茶は既に冷めきっていた。私は飲みかけの紅茶を忘れる程、イズミの話を夢中になって聞いていた。
「私達は、警備の人に見つかってしまったんです。……ルーイズさん達も。」
「そんな……。」
「別に、逮捕される様な事にはなりませんでした。でも部外者の一般人が、それも貴族の学園に無断で侵入したのは事実なので。二人は警備員さんに話を聞く為に連れられ、その日の駆け落ちは中止になってしまったんです。」
……イズミは話を続ける。
「でも、その話がルーイズさんのお父さんの耳に入ってしまい。ルーイズさんは、この学園を辞めさせられてしまったんです。」
「そっ、そんな……。」
「その後、風の噂では。ルーイズさんは婚約者のミハイルさんと結婚したそうです。」
「そんな事って……。」
…………。
「ユミリアさん。私達は、どうするべきなんでしょうか?」
…………。
「婚約者のミハイルさんは、伯爵家の長男なんです。ので次期伯爵様です。そんなミハイルさんと結婚すれば、ルーイズさんには何不自由の無い生活が待っている事でしょう。」
「それに対し、ルーイズさんが選んだ彼氏さんは。平民であり、まだ見習いの商人さんになります。駆け落ちをして見ず知らずの街へ行き、行く当ても住む家も無いその日暮らしの生活が待っているんです。貴族のルーイズさんに、その様な生活が耐えられるのでょうか?」
…………。
「私達の選択が、ルーイズさんの運命を大きく変えてしまうんです。そう思うと私。……怖くて。」
「……イズミ。」
私は何も言えなかった。
「でも私、思うんです。ルーイズさんは、それを覚悟した上で彼と行く道を選んだんです。きっと、どんな場所だって愛する人と一緒なら。きっと……。きっと幸せなんじゃないでしょうか?私は、そう信じたいんです。」
…………。
「きっと……。」
「…………。」
「まあ、恋愛経験無しの私が言うのも何なんですけどね。あははははははは……。」
私も釣られて笑いだす。
「ふふ……。今回は、何もしない方が良さそうね。」
その日の夜、私は一人窓の外を眺めていた。
…………。
私とルーイズが重なって見えたのだ。
親の決めた相手を選ばずに、駆け落ちを選んだルーイズ。私はそれを、少し羨ましく思っていた。
私もルーイズ同様、学園を卒業すると親の選んだ相手との結婚が待っているからだ。
…………。
しかし、私はもう恋はしないと決めていた。エミュール王子から婚約を破棄された、あの日から。
…………。
ルーイズは、今頃どうしているのだろうか?私はカーテンを閉めベッドに入り、ルーイズの幸せを願いながら眠りに付いた。