~十四章~ 「侯爵令嬢ユミリアの華麗なる事件簿~華麗なる一手編~」
「…………。」
「……え?」
……後悔?事件を解決したのに?
「一体、何があったの?」
…………。
「私は死んでループしていますから、犯人が何時現れるかさえ分かってしまえば、話は簡単です。でもこの事件には、不可解か点が沢山あったんです。」
そう、この事件の不可解な点。それは……。
犯人が何故、ルイーズの部屋に手紙を残したのか?と、言う事である。これははっきり言って極めて危険性が高い行為だろう。
もし犯行がこの部屋で無いとするならば、ここまで危険な行動をする必要がはたしてあるのか?と、言う疑問が残る。学校や寮の外に張り付けたり、手紙を送る等。他にも幾らでもその手段はあるからだ。
では犯行は、やはりルイーズの部屋なのだろうか?しかし、その場合でもどうやって部屋の中に侵入したのかが疑問になってくる。窓は破られていないし、扉には鍵がかかっている。合鍵等を使用したとしても、中に入るとするなら、わざわざ玄関から入った事になる。夜中とは言え、やはり人目に付く可能性が高く危険が伴う行為と言えるだろう。
そしてもう一つ、ルイーズの叫び声を誰一人として聞いていない事。たまたま偶然なのか、それともかなりの手練れの者が、音を立てる事無くルイーズを連れ去ったのかである。
それに加え、二回目の事件もそうだ。こちらも不可解な点が多い。
犯人は四日もの間、ルイーズに張り付いていた事になる。そして私達がふと目を離した一瞬の間に、ルイーズを連れ去った事になるのだ。
果たして、その様な事が可能なのだろうか?
…………。
イズミは話を続ける。
「三回目は……。」
────────。
その日は、休日という事もあり。私達四人は……。いや五人は、朝から何時もの様に冒険に出掛ける予定だった。しかし、イズミはこの日。寮に住む三年生のルイーズが誘拐される事件が発生する為、私達に協力をして欲しいと言うのだ。
私はイズミの突拍子も無い話に、最初は半信半疑だったのだが。あまりにも真剣に話すイズミのその姿に、いつの間にか私はその話を真剣に聞いていた。
…………。
一回目の事件の事、そして二回目の事件。
私はその事件の内容を詳しく聞き、状況を一度頭の中で整理してみる。
「……そうね、何時誘拐されるか分かっているなら話は早いわ。そこで犯人を捕まえるだけよね。」
「そうなんですか?じゃ、じゃあ。四日目の夜にルイーズさんの部屋の窓の外を、全員で見張ってたらいいんですね。」
私の言葉に、顔がぱあっと明るくなるイズミ。……しかし。
「そうね。その通りなんだけどねぇ……。それじゃ、一芝居打ってみましょうか。」
「……はい?」
私のその言葉に、きょとんとした顔をするイズミ。
私とイズミは、ルイーズの部屋に行き彼女に事情を説明する。私達の話に、酷く驚き戸惑うルイーズだが。
「……でも。護衛だなんで、幾らなんでも大袈裟よ。しばらく寮から出ない様にするから、大丈夫よ?」
この様な突拍子も無い話を信じていないのか、ルイーズはあまり乗り気では無く私達の同行を断った。
……しかし、だからと言って諦める私達では無い。
「大丈夫ですっ!今回は私達が必ずルイーズさんを守りますから、安心して下さい。ねっ、ユミリアさん。」
当然の如く、引く気など全く無いイズミ。……ふふっ。イズミのそういう所、私好きよ。
「ルイーズさん。今日から私達二人が一週間、寝る間も見張っていますので安心して下さいね。」
……にっこり。
「えっ?ユミリアさん、一週間?……あれ?四日では……もがっ。」
私はイズミの口を、そっと手で蓋をする。
「今は……ね?」
「もがもがー?」
「あ、あのー。私は別に、護衛だなんて……。」
まだ折れないルイーズに、私はイズミの両脇を掴んでイズミをルイーズの前に置く。
……よいしょ。
「あら遠慮なさらないで、ルイーズさん。……そうよね?イズミ。」
「はいっ、私達に任せて下さい!」
「そ、それならお願いしよう……かなー?」
とりあえず、無事押し切る事に成功した私達。昼は買い物に同行し、そして夜になるが。今の所、特に変わった所は無い。
…………。
夜も更け、そろそろ休もうと言う話になり。私はちらりと時計を確認する。
「それじゃ、一度部屋に戻って毛布を取りに行きましょうか。……行くわよ、イズミ。」
「えっ!?一緒にですか?危ないですよっ、どちらか一人は残らないと。」
「すぐ戻るから、それくらい平気よ。でもきちんと鍵は掛けて下さいね?ルイーズさん。」
私はイズミの手を強引に引き、廊下へと出た。
「ちょ、ちょっとユミリアさん。危険過ぎますよ、一人にしたら。また……。」
──がさっ。
……その時、ルイーズの部屋の窓の外に動く人影の姿があった。
────────。
私とイズミがルイーズの部屋に戻ると、すぐにその違和感に気付く。
──!?
……鍵が空いている。
きちんと鍵を掛ける様に言った筈にも関わらず、ルイーズの部屋には鍵が掛かっていなかったのである。
私は急いで扉を開け、部屋の中へと入った。
が、やはりルイーズの姿は見当たらず。ルイーズは煙の様に消えていた。