~十三章~ 「侯爵令嬢ユミリアの華麗なる事件簿~紅茶とケーキと推理編~」
イズミは一体、何を言っているのだろう?私は疑問に思った。人、一人誘拐されていると言うのに、イズミは事の重大さを理解していないのだろうか?
私は後で少しイズミに、お説教をして上げないといけないなと考えていた。
「とりあえず、最初から詳しく説明しますね。あ、ケーキと紅茶も用意しなくちゃ、長くなりそうだしね。テティスちゃん、手伝ってくれる?」
……こくこく。
「ほーい。」
えっ?人、一人誘拐されてるのよ?紅茶とケーキ?本当に大丈夫なの?この子。まあ、頂くけど……。
──カチャリ。
お紅茶とケーキを楽しむ二人。……いや三人。
「あら、このケーキ美味しいわね。何処のケーキかしら?」
「でしょー?ユミリアさん。」
……もぐもぐ。
「で、事件は?」
「……あっ。」
イズミは一瞬忘れてたーっ、みたいな顔をして事件の話を続けた。
「ユミリアさん。私は今、四回目なのはご存じですよね?」
「ええ、知っているわ。確か今迄三回、この学園生活を送り魔王軍に敗れ。そして呪いのスキルによって、再び過去に戻ってるのよね?……それは聞いたわ。」
──カチャリ。
イズミは、カチャリとティーカップを置く。
「そうなんです。この事件は勿論、過去三回とも起きました。一回目は、私達は全く何も出来ず事件は未解決に終わり。ルイーズさんは、そのまま帰らぬ人となってしまいました。」
「ええっ!?」
一回目は、事件を解決出来なかった!?なら、ルイーズは?まさか……殺されたとでも言うのだろうか……。私は紅茶を飲みながら、この事件の結末を固唾を飲んで見守った。いや、飲んでいるのは紅茶だけどね。……ふふ。
「一回目、事件を解決出来なかった為。ユミリアさんは、酷く落ち込んでました。……だから、二回目はこの必ず事件を解決しようと思い。私達は、ある手を打ったんです。」
「え?一体何をしたの?」
私は、フォークでケーキを刺して頬張った。
「誘拐されると分かっているなら、話は簡単です。私は、ユミリアさん、シオン君、リカルド君そしてテティスちゃんの五人で。誘拐されるその日の朝から、ルイーズさんの護衛をしたんです。きちんとルイーズさんに、貴女は今夜誘拐されますって伝えて。そしたら、ルイーズさんかなり驚いちゃって……。」
「それはそうよね、誰だって驚くわよ。誘拐だなんて怖いもの。」
……ちゃぽちゃぽ。
イズミは、本日二杯目の紅茶に砂糖を三つ入れる。……少し入れ過ぎじゃない?砂糖。
「その日は休日と言う事もあり、ルイーズさんは朝からお買い物に出掛けました。ので、私達も同じくお出掛けします。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。誘拐される恐れがあるのに、買い物に出掛けたの!?誰も止め無かったの?」
誘拐される危険性を考えれば、買い物等その行為は自殺行為に等しいと言える。……全く、誰か一人でもルイーズを止めなかったの?
……私は疑問に思った。
「えっ……。あ、あの……その。」
「何?誰か止めたの?」
イズミは困りながら、もじもじと話を続けた。
「……私は止めたんですけどぉ。その、本当に誘拐されるか分からないんだし、外出くらいいいじゃない?……って、ユミリアさんが。」
「えっ、私が言ったの?」
……こくん。
イズミは、少し申し訳無さそうにこくんと頷く。
……ああ。まさかの犯人が私だった何てと、申し訳ない気持ちになる私だったが。何だか少し気恥ずかしいので、私は心の中でイズミに謝る。……ごめんなさい、イズミ。
「そっ、それで?」
…………。
「現れ無かったんです、犯人。」
「えっ?」
「その日、犯人は現れず。誘拐事件が起きなかったんです。……そして、次の日も。また次の日も。」
──カチャリ。
イズミは、少し紅茶を口に含む。
「それじゃあ、事件は解決したのね?」
誘拐事件が起きなかったら。事件を未然に防ぐ事が出来たのなら、この事件は無事に解決したと言う事なのだろう。
私は紅茶を飲み干し、良かったと安心して少し肩の力が降りた。
しかし、イズミはふるふると首を振る。
「誘拐されたんです、ルイーズさん。……次の日の夜に。」
「えっ……どうして?」
「私達は、三日間。何も起きなかったので、何処か少し安心していたのかも知れません。それにずっと、ルイーズさんに張り付いているのも悪いと思っていました。」
「……眠る時も、一緒でしたから。」
「次の日の夜、つまり四日目の夜。私とユミリアさんが、ルイーズさんの元を離れた少しの間、ほんの一瞬の間に。ルイーズさんは消えてしまったんです。前回と同じく、手紙だけが残されていました。」
「そ、そんな……。」
私は、がっくりと肩を落とした。
「三回目は?次は、どうなったの?三回目も事件は起きたって、さっきイズミは言ったわよね!」
私は、ケーキを片手にガタッと立ち上がる。
「大丈夫ですよ、ユミリアさん。三回目はきちんと事件を解決しましたから。」
「そ、そうなの?……それなら良かったわ。」
…………。
「……でも。」
「…………。」
イズミはティーカップを置き、少し哀しい表情をする。
「……でも、私達は。この事件を解決して、後悔する事になったんです。」