~十二章~ 「侯爵令嬢ユミリアの華麗なる事件簿~二人の探偵編~」
△月◯日
この平穏な学園に、突如恐ろしい事件が発生した。
──男爵令嬢、誘拐事件。
誘拐されたのは、この学園寮に住む三年生、男爵令嬢ルイーズ。昨日深夜、彼女の友人が部屋に訪れた際、部屋の鍵が空いており開けて中に入ってみると。そこにはルイーズの姿は無く、テーブルの上には一通の手紙が残されていた。
手紙の内容は以下の通り。
「男爵令嬢ルイーズは預かった。彼女を無事返して欲しくば明後日、五千Gを用意し港の三番倉庫迄来られたし。」
と。
……これは事件である。
私は、他に何か手掛かりを探す為。誘拐されたルイーズの部屋に向かい、部屋の中をあれこれと物色した。
……謎は幾つもある。
ルイーズは何時、誘拐されたのか?この部屋の中?それとも別の場所?もし、犯行がこの部屋なら、どうしてルイーズは声を上げなかったのだろうか?
そう考えると、犯行は別の場所である可能性が高い。
……しかし、一つ言える事がある。
それは、犯人はこの部屋に来たのは間違い無いと言う事である。事実、犯人の書いた手紙が残されているのだから。
では、犯人は一体何処から入ったのか?まあ、犯行がこの部屋以外なら、部屋の鍵を持っているルイーズを誘拐して、その鍵で部屋に入るのは容易だろう。
……しかし。
それには、この学園寮に入らなければならないのだ。夜中とは言え、犯人は何故わざわざそんな真似をしたのだろう。
…………。
──!?
空いている。……部屋の窓の鍵が空いている。
犯人はどうやら、この窓から部屋に侵入し、ここから出た可能性が高い。
すると犯行は、やはりこの部屋なのだろうか?……いや。
犯行は別の所で、扉から部屋に入り。そしてこの窓から逃走した可能性も残されている。
だが、この窓から逃走した事は恐らく間違い無いだろう……。
他にも何か手掛かりになる物は無いかと探したが、特に何もこれと言って手掛かりになる様な物は見付ける事は出来なかった。
私はとりあえず、皆が集まっているロビーに戻る。
私が戻ると、一人の男子生徒が取り乱し大声を発していた。
「これが落ち着いていられるものか!……ああ、ルイーズ。」
……彼の名前は、ミハイル。
ルイーズの婚約者で、伯爵家の長男。来年、この学園を卒業と共に、婚約者であるルイーズと結婚式を挙げる約束をしているとの事だ。
…………。
……愛する二人の仲を引き裂く、卑劣な誘拐事件。この様な悪行を、卑劣な犯人を。私は断じて許す訳にいかない。
────────。
「愛する二人の仲を引き裂く、卑劣な誘拐犯。この事件は、私侯爵令嬢ユミリアが必ず華麗に解決してみせる!」
『男爵令嬢ルイーズ誘拐事件』
私は走った。事件を解決する為に、一番必要な物は何よりも情報である。その為には人手が必要不可欠である。私はとりあえずイズミの部屋に向かった。
「イズミ!起きなさい、大変よ!」
「ふわぁ……。あ、ユミリアさん。おはようございます。」
「…………。」
「…………。」
私は少し、思考を巡らせる。
……よく考えてみれば、イズミは未来の事を知っているのだ。ならば、この事件の事もある程度把握している可能性が高い。そして、その結末も……。
「えーと、事件なのだけど。……イズミ、一体何の事件か分かる?」
一応念の為、イズミに確認してみる私。
「あっ、もうそんな季節なんですね。んんー。」
んんーっと背伸びをするイズミ。本当に分かっているのかしら?……この子。
「よいしょ。」
イズミはベッドから降り、もそもそ着替えながら話を始める。
「この学園の三年生の、ルイーズさんが誘拐された事件ですよね。」
……もそもそ。
やはりイズミは、この事件の事を知っていた。しかし私は特に驚きもせず、ゆっくりともそもそ着替えるイズミの姿に驚いていた。
……え?人、一人誘拐されてるのよ?何をそんなに悠長な……。もしかして、イズミには犯人が誰なのかもう分かっているのだろうか?そしてイズミにはこの事件が、無事に解決すると確信があるのかも知れない。
「えっと、イズミはこの事件の事を何処まで把握しているの?ルイーズは大丈夫なの?この事件は無事、解決するの?」
私の問いに、イズミは少し困った顔をする。
「……解決。」
イズミは何か哀しい表情で、窓の外の景色を見ていた。
「……ユミリアさん。ユミリアさんは、この事件。解決した方がいいと思いますか?」
……?
私には、イズミのその言葉の意味が理解出来なかった。