表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケありイケメン探偵にこき使われてます「血液探偵事務所!」  作者: 宇地流ゆう
SOS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/38

28. 残る謎


読者の皆様、いつもありがとうございます!( ;∀;)

更新遅くなってしまいました!移植作業再開します〜!

最高度に不機嫌で苛ついた東城を、なんとか通常の無愛想な東城に戻すには、良質な人間の血が要ると言うのは後で知ったことだ。


 彼はキャッスル・ブランに到着するなり無言で奥の倉庫部屋に入り、何やら食料庫(ここにはカフェの備品やもちろん人間用の食品もストックされていた)を漁っていた。


 あたしは流石に少し不安になって、倉庫部屋の入り口から彼の様子を覗く。


「あのー、大丈夫?何か必要?」


 と極めて穏便に聞いてみたつもりだったが、ふと振り返った彼の口元に、今まで見たことのない鋭利な犬歯が突き出しているのを見て、あたしは思わず固まってしまった。


「今は話しかけるな」


 と低い声で忠告するように言った彼の目は、いつかサカヅキ達のバーで見た、吸血鬼たちのギラついた目を彷彿とさせる。


 無意識に防衛本能が働いたのか、それとも東城への気遣いか、自分でもわからなかったが、あたしはすっとカーテンを下ろして静かにその場を離れるほかなかった。


 そう、やっぱり善人である東城も、善人である前に吸血鬼なのだ。


 その時、全ての疲れが肩にのしかかってきたように感じて、あたしは重い身体を引きずるようにしてカフェのホールに出た。


 カフェは臨時休業をしたままだったが、今では四人の「臨時のお客」が一つのテーブルを囲んで、それぞれにドリンクを啜っていた。


 彼らには紅茶とジュース、それに余ったケーキもおまけでサービスした。何と言っても、甘いものは不安と緊張をいささか和らげてくれる————まあ、少なくとも人間にとっては。


「真田先輩、随分と心労していますね。やはり表向きは高校生をやりながら裏で血液探偵事務所の助手を掛け持ちするというのは無理があるんじゃないですか?まあ、どんな経緯でそうなったのか後で詳しく聞きたいところではありますが」


 近藤くんはストローでオレンジジュースを吸い上げながら、カフェの店内を見渡しては、しきりに携帯で写真を撮ったり、それをパソコンに記録しているみたいだった。


「それにしてもこのケーキ、なんでこんなに美味し……ま、まさか毒入りでは!?」


 と言いながらも東城の手作りケーキを頬張っている丸山さんに、


「ちょっと丸山先輩!高貴な王子であるレオン様が毒盛りなんてするはずないです。レオン様なら正々堂々月夜の下で相手の首を掻き切るはずですよ」


 と、ツッコミどころがおかしい桑田さんも、今では丸山さんと共に少し興奮した様子でアイスティーを啜っている。


「さ、さ、真田さん……何だかすみません。だ、大丈夫ですか?」


 と、唯一あたしを気遣って声をかけてくれたのは細谷会長だ。細谷会長が会長である理由が、最近になってようやくわかった気がする。


「うん…なんとか」


 あたしは苦笑いを浮かべながら、カウンター内からティーバッグを取り出し、自分用に紅茶を入れた。


「あ、あの、真田さん…。ほ、ほんとに吸血鬼なんていたんですね。そ、それに血液探偵事務所も…ぼ、僕びっくりしちゃいました」


 あたしは半ば驚いて細谷会長を見返した。


「え?信じてなかったんですか?」


 オカルト同好会会長がオカルトを信じていなかったなんて、驚きだ。てっきり、彼らのように吸血鬼がいるという前提で話していたと思ったのに。


「ぼ、僕は幽霊と怪奇現象が専門です。心霊現象は世界中で数多の目撃情報や記録があるため、ほぼ確定的な存在だと思っていますが、き、吸血鬼は……その、今までは信じきれませんでした」


 そうか。近藤くんが地球外生命体担当なら、細谷会長は心霊現象の専門家らしい。幽霊の存在は信じても、吸血鬼は信じ難いというのはあたしも納得の見解だ。


「その、さ、真田さん、怖くないんですか?き、吸血鬼の隣で、し、仕事するなんて……」


 細谷会長に改めて問われて、あたしは一瞬固まってしまった。そりゃあ彼の独裁政治は恐ろしいけど、普段の東城自体を怖いと思ったことはない。


「まあ……元々あたしが割っちゃった壺の弁償代を立て替えるためで、他に手立てはないというか」


 と、カウンター越しに細谷会長と話していたのに、やはり地獄耳のオカルト同好会会員である。


「それ見たことか!極悪なるヴラド4世、真田さんを脅し、人間を奴隷のように働かせるとは……許さん!」


 と丸山さんが手に持ったフォークを突き立てた。


 そういえば、オカルト同好会が東城に奇襲をけし掛けることができた(というか不機嫌な東城の前に躍り出てカオスを増幅させた)のは、丸山さんの地獄耳あってのことだったという。


 なぜあたしと東城のこと、そしてあそこにいることがバレてしまったのか———— その理由は、先の緊急会議で挙動不審だったあたしに目を光らせていた丸山さんが、廊下でのあたしと東城の通話を盗み聞きしていたからだった。 「本多夫人」という名前も出ていたため、今回の事件にも関わりがあると見て、丸山さんが後を尾けていこうと提案したらしい。


 案の定、本多家の屋敷から「要注意・危険人物」である東城聖とあたしが出てきたところで疑念が確信に変わり、あの襲撃に至ったわけだ。


 全く、その勘の良さと尾行の腕を、本当の事件の解決の方に使ってほしいものだ。


「だからね、丸山さん。東城は一度もあたしを襲ったことなんてないし、むしろ危険な時は守ってくれたりしてるの。無愛想で無理矢理で言葉足らずだけど、それは他の吸血鬼から人間を守るために彼なりに善処してるというか、想像しにくいかもだけど、根は優しいところもあるっていうか」


「さ、真田さん…」


 ため息を吐きながら東城を庇っていると、細谷会長が、あたしの隣を小さく指差した。


「え?」


 振り返ると、そこにはいつの間にか「根は優しい」吸血鬼、東城聖が音もなく隣に立っている。


「ほう。君がそんな風に思っていたとは、意外だな」


「い、いや、優しいっていうのは、本当にたまに……!っていうか、気分は落ち着いたの?」


 普段東城との言い合いに慣れているせいでなんとなく恥ずかしくなりながら、彼の様子を確認する。


「ああ。幸い、在庫に良質なものがあった」


 さっきのギラついていた目や牙は消えていて、いつもの無表情で冷静な彼に戻っているのを見ると、だいぶ落ち着いたらしい。


 それから東城はふうっと腕を組みながらこのややこしい臨時の客四人をカウンター越しに見下ろした。


「で?そちらの言い分を聞くぐらいはできるが、こちらも事件調査の真っ只中でね、手短に済ませたい。あとは一花と学校でやってくれ」


 先ほどは東城に凄まれて何も言えずにこのキャッスル・ブランまでついてきたオカルト同好会の面々は、皆それぞれに何か言いたげに彼を見つめており、この四人を帰らせるにはそうするしかないと東城は判断したのだろう。


 ……っていうか、あとは学校でやってくれって、あたしに全投げする気!?


「レ、レオン様。お目にかかれて光栄です。私、今日この日をずっと待っておりました。もうこの人生に悔いはありません。どうか私めの生き血を、あなたのその崇高で美しい牙に捧げさせてくだ……」


「献血ならたま爺に言ってくれ。隔週木曜日に駅前でやってるはずだ。次は?」


 一番に口を開いた桑田さんの熱狂的アピールをぶった斬りながらも、かなり事務的に対処する東城はやはり流石というべきか……。まあ、彼なら、あたしには手の打ちようのないこの状況も丸く収められそうだ。


「あなたが本当に『こちら側』の吸血鬼であるかどうか、まだ信じたわけではありませんよ、レオン・ドゥラクル。あなたがその邪悪な本性を表し、いつか人類の敵となった場合には、この丸山加奈子が制裁の雷を持ってあなたを裁き……」


「極悪吸血鬼を裁きたいのなら、僕が持っているブラックリストを渡す。それからあんな木の杭では並の吸血鬼も倒せない。吸血鬼狩りの手法を説いた本も貸すから今後僕の周りをうろつかないでくれるか。他には?」


「はい。改めて質問なのですが、なぜ人間の食べ物を食せないのにこのように巧みにケーキなど作ることができるのでしょうか?何か他の感覚器官が優れているということでしょうか?例えば嗅覚とか。また身体能力も人間より高いと聞きましたが、それはどれくらいでしょうか?やはり人間を狩るという食物連鎖の上位に立つ種族として進化したためでしょうか?吸血鬼は今までに人間によって解剖・研究された歴史はありますか?不死身の身体のメカニズムは ……」


「知り合いに真面目に吸血鬼の研究をしてる人間がいるからそいつを紹介すると言ったら黙るか?」


 東城は段々と苛立ったように言ったが、彼の対応によって、さっきまで騒然としていた皆はそれぞれ少し落ち着いたように、ふっと静かになった。


 が、東城が「では」と話を切り替えようとしたところ、細谷会長がおずおずと口を開く。


「あ、あの、ひ、一ついいですか。本多くんはあなたを危険視していましたけど、なぜあなたは本多くんの屋敷にいたんでしょうか?そ、その、オカルト同好会で起きた盗難事件は、あなたの今受け持っている事件とどう関係があるんでしょう……」


 細谷会長の、至って正当な疑問に、東城はほんの少し目を細める。


「それはこちらの管轄で、君たちに情報を共有する義理はない———と言いたいところだが、僕が学校での情報を一花から得ている限り、公平ではないだろうな」


 東城がそう言って思案げな表情を浮かべた時、あたしは今まで抑えていた、聞きたかったこととや言いたかったことを思い出して慌てて口を開いた。


「そうだ東城!夫人の指輪が見つかったってどういうこと!?」


 急に話に割って入ったあたしを見て、東城は「お前もか」といったように呆れ顔でこちらを見る。


「だってあたし、今日成田君が夫人の指輪らしきものを首に下げてるのを見て……」


 あたしがそう続けると、東城は微かに眉を寄せた。数少ない東城の表情レパートリーの中で、この顔は「?」といった疑問符を意味する。


「成田紫苑が指輪を?なぜわかった」


「えっと、今日の昼休みに、学校で成田君と勉強会をしてて、で、偶然彼がつけてたネックレスの先に金色の指輪を見かけたんだけど……やっぱりあれは夫人の指輪とは無関係だったってこと?」


「いや」

 と言って東城は首を振った。


「今日僕が “見つけた” のはこちらがでっちあげた偽物だ。紛失していたはずの夫人の指輪が発見されたと見せかければ、盗んだ犯人が疑問を抱いて捜索に来るだろう、いわば犯人を誘き寄せるための仕掛けを作っただけだ」


「なるほど」


 東城の作戦に感心していると、存在を忘れられていたように黙っていた細谷会長がまた「あのー…」と声をかけた。


「その、指輪って何なんですか?本多君とどう関係あるんでしょう」


 細谷会長の困惑したような問いに、あたしと東城はお互いに顔を見合わせた。


 今となっては、事件のことを隠しても無駄だろう。

 オカルト同好会に届いた「SOS」、成田君と本多君の関係性、それから失われた指輪……むしろ、皆が持っている情報と散らばったパズルピースを拾い集めていけば、真実に近づくかもしれない。


 東城も結局そう判断したらしく、オカルト同好会、あたし、そして東城それぞれが現時点で把握していることをお互いに共有しようということはすぐに決まった。




 夕闇が近づくにつれて密かな明かりを灯した臨時休業のキャッスル・ブランでは、かなり異様な光景が広がっていた。


 敵対心を忘れ去ったかのような丸山さんが、あたしよりもすっかり東城の助手のようになっていて、(探偵っぽい仕草を真似しているだけにも思えるが)、相変わらず憧憬の目で東城を見つめていて話がまるで入っていないような桑田さん、やはり記録と情報収集に徹する近藤君、そして状況に困惑しながらも話の筋を何とかそらさないでいる細谷会長に囲まれながらも、冷静に証拠と情報を分析している無表情の吸血鬼探偵、それから半ば瞼の重くなっている探偵助手のあたし————


 全く、東城に関わり始めてからというもの、毎日がジェットコースターのように先が読めない。まあ、退屈が嫌いなあたしにとってはいいことでもあるが、それにしてもこうも休みがないとは。


 窓の外が暗くなる頃、今までの話し合いはまとまりを見せ、一つの紙にわかりやすく整理されていた。東城の淹れたコーヒーで目を覚ましたあたしは、その紙を改めて読んでみる。


現時点で判っていること


1. 夫人の指輪は本多将良本人が盗み、成田に譲渡(東城による推理)


2. 盗まれた指輪は「本多家の家宝」であり、単なる指輪ではない。吸血鬼ハンターの家系の家宝ということなら、なおさら、何か付加価値のある特別なものである可能性が高い(東城の推理)


3. 夫人が血液探偵事務所をよく知らずにやって来たのは、本多将良自身が血液探偵事務所を調べ上げた時に残したメモを夫人が発見し、「探偵事務所」という文字を頼りに軽い気持ちで訪問したため(今日夫人から聞き出したことを元に東城が考察)


4. なぜ本多将良が嫌々ながらもオカルト同好会に入って血液探偵事務所を調べ上げていたのかについては、東城聖という吸血鬼を以前より危険視していたからではないか(あたしの証言、そして「SOS事件」を聴いた東城による推理)



残る謎


1. 本多将良が東城を危険視していること、家宝の指輪を自ら盗んだこと、そしてなぜそれを成田に託したのか。


2. 本多将良は、自身が吸血鬼ハンターの末裔であることを知っているのか


3. 本多将良と成田紫苑との関係性。本当に単なる仲のいい友人なのか?

 

 

 という具合に、まあほとんどの推理は東城によるものだが、オカルト同好会の証言を集めなければ成り立たないものだったので、皆んなの力を合わせた賜物だと言える。


 そして、それぞれの立場を生かしながら、この残っている謎を解くために明日から各々動いていくということも程なく決定された。


 あたしも大いに賛同したいところだったが、学生生活の両立という難題を抱えたあたしは素直に頷くことはできなかった。


 何と言ったって、来週には期末テストが始まるのだ。こんなにややこしい事件に頭を悩ませていては、期末テストに使う頭と心の余裕が残るわけがない。まして、毎回補修組であるか、ぎりぎりで免れているあたしにとっては。


 そんな憂いと心配を東城に打ち明けると、東城は「そんなに大変なのか?」とこちらの苦労をまるで想像できないように言った。


 まあ、東城ほど頭の回る者なら、何の障壁もなくどんな試験にだって合格できるだろう。それに人間の何倍も生きているのだ、蓄えた知識と経験値は人間の一生をはるかに超えている。


「世界史が苦手?……なら僕が実際に見た歴史を教えるというのはどうだ。全体像で把握すればどんな問いにも答えられるはずだ」


 東城が仕方なく譲歩したように言うので、あたしも思わず納得してしまった。そうか、成田君から教わらなくても、実際にその時代を経験した生き証人がここにいるのだ。東城から教われば、世界史も怖くない気がしてくる。


 事件を解明する傍ら、残る数日で東城があたしのテスト勉強の面倒を見るという交換条件を結んだことで、あたしは少し安心した。


 まったく、同好会のみんなときたら、この世にも奇妙な事件の謎解きに夢中になって、学生の身分やテストの存在を忘れてしまっているかのようだった。

次回、29. シミレーションと試合は別物


 期末テストはもうすぐそこ。一花はついに、本多君本人と話す機会を得て、事件の真相に迫ろうとするが————


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ