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ワケありイケメン探偵にこき使われてます「血液探偵事務所!」  作者: 宇地流ゆう
オカルト同好会の危機

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14. 絡み合う魔の網を潜り抜けて貴方に辿り着いた奇跡の布陣

 その日は明るい晴天だった。


 あたしの頭の中もこれくらい綺麗に晴れ渡っていたら、きっと大好きな数学の授業にも集中できただろうに。でもあたしはさっきから鼻の下にシャーペンをはさみながらその晴天をぼーっと見つめることしかできなかった。


 なぜ、どうして孝さんは“不死身”なんだろう?

 何で東城は未だにあの集団の正体をあたしにだけ明かしてくれないのか?

 サカヅキや孝さんは最終的にあたしに何をするつもりだったんだろう?


 彼らは今警察ではなくて、たま爺の管理下で厳重に取り締まられているらしい。たま爺のところに行って直接正体を聞ければ手っ取り早いが、なんせそのたま爺自体も神出鬼没で居場所も連絡先もわからない。


 そんなことを考えているうちに数学の授業が終わってしまっていた。モヤモヤした頭を抱えながらも、トイレに行こうとふらりと教室を出た時だった。


 突然後ろから誰かに腕を掴まれたので、あたしは徹也だと思ってパッと笑顔を作って振り向いたのに、そこにあたしの親友はいなかった。


 代わりに、日本人形のようにきれいにカットされた黒いおかっぱと光を反射する眼鏡のせいで顔もあまりわからない女の子?が立っている。


「真田一花さんですよね?」


 彼女は分厚い眼鏡を光らせて低い声で言った。モサッとした小さなこけしのような風貌。なんだか見覚えがある。どこで見たんだっけ……。


「ああ!同じクラスの丸川さん!」


「丸山です」


「あれ?そうだっけ、ごめん」

 

 同じクラスなのに名前も顔もうろ覚えで失礼だとは思う。が、彼女はいわゆる教室の端っこキャラだった。いつも俯いて独り言をぶつぶつと喋ったり、数人のオタク仲間の友だちと興奮したように何か主張していたり、ノートに呪文のようなものをつらつら書いているせいで、クラスのみんなから気味悪がられている。


 普段からオタク仲間以外にはあまり自分から声をかけないその丸山さんが、一体あたしに何の用だろう?————と思っていると、いつの間にか彼女はあたしの腕を引っ張って廊下をずんずん進んでいた。


「って、いやいやちょっと待って、どこ行く気?」


 慌てて言うと、丸山さんのモサっとした頭がこちらを向いた。


「真田さん、黙ってついて来てください」


「そんなこと言われても、あたしトイレに……」


「トイレより何より、こっちの方が重大なんです」


 丸山さんが凄みのある声でそう言ったので、あたしは気迫に押されて黙ってしまった。でも、重大なことって何だろう。授業はもう終わりだったけれど、トイレにも行かせてくれないなんて。


「真田さん……、オカルト同好会は今危機に瀕しています」


 前を行く丸山さんがあたしの手を引っ張りながら辛辣な口調で言った。まるで、数秒後に世界が終わるかのような響きさえある。


「え?オカルト同好会?」

 そんな同好会あったっけ、と思いながら聞き返す。


「まさか知らないとは言わせませんよ……。この学園に通いし選ばれた能力者達が己の信仰を胸に集い、神聖なる運命と啓示によってこの世に顕現されたし、世の均衡を司る秘密結社!」


 彼女は言いながらも、何か高まってきたように声のトーンを上げた。


「その名も、オカルト同好会!」


 廊下に響く声だったけれど、あたしはその時周りに人がいないのに気付いた。教室から遠ざかり、こっちには今は使われていない部室や、倉庫があるだけなのでこの廊下を通る生徒はそうそういない。


 普段よりぼーっとしていたからか、丸山さんのあまりの真剣さと謎の気迫に押されたのか、はたまたどちらもか。あたしは「ああ、うん...?」と曖昧な相槌を打ちつつも、彼女に手を引かれるままに、ある部屋の前までたどり着いてしまった。


「さあ、着きました。ここが我らの城、オカルト同好会専用の部室です!」


 え、オカルト同好会に部室なんてあったの?この学校、けっこう部屋が余ってるんだなあ。いかにも怪しげな会だけど、こんなところで一体どんな活動をしているのやら。


 丸山さんは、まるでお城の門を開けるようにして仰々しくその部屋のドアを開けたので、あたしは思わず笑いそうになった。が、彼女はいたって真剣で、促されるままにその部屋へと連れ込まれる。


 全ての窓に黒いカーテンがかかっているせいで日光は遮断され、代わりに中央の机に一本の蝋燭が怪しげに灯っている。そしてそれを囲むように会員と思しき生徒が三人座っており、じっとこちらを伺っている。


 ……やばい、相当怪しい雰囲気だ。


 あたしがたじろいでいると、それぞれにザ・オタクな風貌をした3人は、何かを察したようにそろそろと立ちあがった。


「あ、どどどうも、さ真田一花さん。かい、会長の細谷です」


 名前通りひょろっと細い顔をした男子生徒がどもりながらも、ペコペコとぎこちなく会釈した。


「……どうも」

 なぜあたしの名前を把握しているのか疑問に思いながらも、とりあえず会釈を返す。


「私は一年の桑田です、今は黒魔術を勉強してます」


 綺麗にまとめられた三つ編みを下げた女の子が、にやりとあたしに笑いかけたので、あたしは苦笑いを返す。と、次に左端にいた男の子が何かを喋る。


「……の近藤です、……当です」

 かなり小さな声でぼそりと言ったので、思わず「え?」と聞き返すと、


「一年の近藤です。情報収集担当です」


 と、さっきよりわずかに声を上げて彼が繰り返したので、ようやくその早口な紹介を聞き取る。近藤君は長い前髪で目を覆い隠していたけど、手もとには最新型のノートパソコンが乗っていた。


「そして私、丸山加奈子です。日々身近にはびこる悪を調査しています」


 丸山さんは誇らしげに言いながらも、どうやら自分専用らしい椅子に座る。そしてあたしにも空いた席に座るように促したが、そこに座れば、こっくりさん的な怪しげな儀式が始まりそうな予感がして、とても座る気にはなれず、首を振った。


「あのう、それであたしに何の用でしょうか?」


 早くここから出たい思いで、愛想笑いをしながらも単刀直入に聞く。チラリと時間を見ると、ちょうど四時だった。五時までに喫茶店に着かないとまた東城に怒られる。


「さ、さ、真田一花さん。この同好会が今、き、危機に、お、陥っているのは知ってますか?」


 細谷会長がどもりながらもあたしに言った。


「はあ、さっき丸山さんからちらっと聞きましたけど。危機ってどんな危機なんですか?」


 まあオカルト同好会がどうなろうとあたしには関係のない話なんだけど。


「同好会というのは、五人の会員が集まって初めて成り立つものなのです」


 そこに桑田さんが読んでいた本からぱっと顔を上げて口をはさんだ。ちらりとその本の題を見る。『十六世紀の魔女狩りと黒魔女たちの聖戦』。


「ですが、い、今会員はご覧の通り四名です。先月まではもう一人、会員がいたんですが、あの、と、突然退会してしまって……」


「私としては」と丸山さんがそれを引き継ぐように口を開く。


「生き残った勇者四人でもって今まで通り部活を運営すればいいと思ってるのですが、なんせ悪の生徒会がそれを許さないんです。あと一カ月以内に会員を一人増やさねば、この同好会を解散させるとまで言いまして」


 丸山さんがはあ、と鋭くため息をつくと、桑田さんが「呪ってやる」と低く呟いた。その言葉も彼女の口から聞くと何だか本当に呪われそうで恐ろしい。ああ神様、どうか罪のない生徒会の方々をお守りください。


「そこで!私達は闇の引力より選ばれし救世主を探し当てたのです!」


 丸山さんが突然ガタっと席を立って真っ直ぐにあたしを指差した。


「二年B組真田一花、あなたを今からこのオカルト同好会会員に正式に認定する!」


「はい?」


 あたしは思いもよらない展開に驚いて後ずさりする。


「いや、あたしこの会に入りたいなんて一言も言ってませんし!」


 慌てて首を振るが、丸山さんはそんなあたしを意にも介さず、神妙な顔をしてゆっくり首を振った。


「真田さん、あなたの意志はこの際関係ありません。あなたは選ばれたんですから」


「何その勝手な判断!」


 あたしは精一杯ツッコんだのに、彼らはぴくりとも表情を変えなかった。いやいや、オカルト同好会を存続させるためにこんな妙な集まりに入会させられるなんて冗談じゃない。


「あの、何でよりによってあたしなんですか?学校中探せばハリーポッターマニアとかホラー映画好きとか、もっとオカルト同好会に適任の生徒がいると思うんですけど」


「真田さんに反論の余地はありません!見てください、この絡み合う魔の網を潜り抜けて貴方に辿り着いた奇跡の布陣を!」


 丸山さんはどこから取り出したのか、白い大きめの紙一枚を大きく振りかぶって机の上に叩きだした。


 え?魔の網をくぐりぬけた奇跡の布陣って一体————?


「ってこれただの網だくじじゃない!」


 そこにはB組のみんなの名前が書かれていて、確かに丸のついている選んだ線をたどって行けばあたしの名前に当たっていた。


 でもそんなオカルト同好会の勝手なくじによって救世主なんて呼ばれて、このオタクの会に引きずり込まれるなんて理不尽にも程がある。こんな茶番に構う余裕なんか、あたしにはまったくないんだから。


「あの、思ったんですけどこの同好会に解散命令が出たとしても、また四人で集まって集会開けばいいじゃないですか。別に同好会として認められなくても」


「それでは駄目です!」

 丸山さんがぶんぶんと首を振った。


「代々受け継がれたこの我々の聖なる城が使えなくなるんですよ!」


「そうです、本を買うお金も生徒会から出ないんですよ」


 桑田さんが横から付け足す。生徒会ってすごく懐が深いらしい、こんな同好会の本の出費も負担してくれるなんて。


「さ、真田さん、どうかお願いです。この同好会に、は、入っていただけませんか?」


 細谷会長が震える声で言った。でもあたしはこんなところにいる場合じゃない。時計を見るともう四時を過ぎている。


「とにかくあたし、同好会とか入るつもりないですから。他を当たってください」


 あたしはくるりと背を向けて部屋から出ようとした。まったく馬鹿々しい。


「待ってください真田さん、入会すればもれなくこの本差し上げますよ!」


 後ろから必死に引きとめるような桑田さんの声がして、あたしはため息をついて振り返る。


「だからねー、あたしは黒魔術なんてこれっぽちも興味な……」


 去り際に念を押そうと思ったのに、視界に飛び込んで来た表紙の文字に思わず言葉を失ってしまった。


 ……え?


 目を凝らしてもう一度見てみるが、間違いじゃない。どこかで聞いたことのある名前だった。


 桑田さんの掲げた怪しい深緑の本の表紙には、豪華な金の文字が綴られている。


———————『ヴラド三世と吸血鬼伝説について』。



15. 心霊写真は合成写真


 テレビの心霊番組を見て、怖くて大泣きしていた私の横で、お兄ちゃんは呆れたように言った。

「何泣いてんだよ、馬鹿。この写真、みるからに合成だっての」


 そう、私はサンタさんも幽霊も信じない。もちろん、吸血鬼だって......

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― 新着の感想 ―
『オカルト同好会』編!! またまたクセの強いキャラクターたちが出てきましたねェ…! しかも、そのあみだくじ…"オカルト"に片足を突っ込んでいる…いや、実はもはや首まで浸かっている?一花ちゃんにたどり…
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