揺れる決意、灯る光
「いやあ、食べた食べた。もうお腹がはち切れそうだよ。」
「見かけによらず大食いなんだな。」
「そんなことないさ!レオンが食べなさすぎなのと、ご飯が美味しいのが悪いね!」
「はいはい。」
苦笑するレオンと満足げなカイル。二人は寮に到着後、簡単な説明を受けたあと、そのまま食堂へ向かい晩御飯を済ませていた。食堂にはさまざまな種族が集まり、各々が自分たちに合った料理を楽しんでいる。二人もまた、この活気ある空間でひとときの休息を味わった。
「さて、これからどうする?」
「とりあえず簡単に荷ほどきして、その後は鍛錬でもしてくるよ。」
「え?今から鍛錬するのか?」
カイルは目を丸くして聞き返す。
「ああ。今日ゼフィスと戦って思い知ったよ。俺はこの世界の強者たちの足元にも及ばない。」
レオンの拳がぎゅっと握りしめられ、言葉には強い決意が込められていた。しかし、カイルにはそれだけではないものが伝わってきた。まるで、過去の何かがレオンの心に影を落としているような——。
「なあ、さっき俺が村を襲撃された話をしたのを覚えてるか?」
「あ、ああ。聞いたよ。」
カイルが踏み込んでいいのもか考えていると、荷ほどきをしながらレオンがぽつりと話し始めた。
「あのとき、両親は俺を逃がすために身代わりになった。いっしょに逃げていた友達は、疲れで足が遅くなったところを捕まえられたり、後ろから狙撃されたりして……結局、生き残ったのは俺一人だけだった。」
レオンの声には苦しみが滲み出ていた。カイルは手を止め、言葉を探しながら彼の表情を伺う。
「今でも夢に見るんだ。あの光景を。あのとき俺が剣を扱えれば、父さんと一緒にみんなを逃がせたかもしれない。魔法が使えれば、飛んできた矢や魔法を防げたかもしれないって……。」
沈黙が流れる。レオンは目を伏せ、悔しそうに唇を噛んでいた。
「その後、俺を拾ってくれたのがミレーナだったんだ。大切な人たちを失い、何もできなかった自分を責め続けていた俺を、あいつは優しく受け入れてくれた。そして、ある日こう言ってくれたんだ。」
レオンは目を閉じ、当時の言葉を思い出すように静かに語り始めた。
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「レオン、過去は変えられない。だけどな、君がここにいるのは、みんながそう願ったからだと思うんだ。君にずっと苦しいままでいてほしいと思った親や友達なんて、きっといない。いつかでいい、自分の中で答えを見つけてほしい。それが、彼らへの一番の恩返しになるんじゃないかな。」
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「あいつがこんなに真剣に心配してくれたのは、このときだけだった。でも、その言葉のおかげで俺は自分の進むべき道を見つけたんだ。」
レオンは静かに語り終えた。彼の目には深い覚悟が宿り、その姿にカイルは思わず息を呑む。同じ年の少年がこれほどまでに強い決意を抱けるのかと、自分との違いに圧倒された。レオンの目に宿る覚悟を見て、彼にはその深い決意が重くも輝かしいものに見えた。同時に、こんなにも強くあろうとする同年代の少年の姿が、自分の心に何かを問いかけてくるような気がした。
「もう俺は誰も失いたくない。俺の剣と力で、大切な人たちを守る。それが、生き延びた俺に課せられた責務だと思っている。」
その言葉は、決して揺るがない信念そのものだった。
「レオン、その…………」
カイルはなんと声をかけるべきかと悩んでいた。そんな様子を見てレオンが苦笑を浮かべる。
「急にこんな話してごめんな。最低限の荷解きは終わったしちょっと行ってくるな。」
運動ができる格好に着替えたレオンは言うが早いが外に出ていってしまった。
「レオン……」
レオンの背中が見えなくなると、カイルは一人、部屋の中に立ち尽くした。静まり返った空間の中で、彼の心には小さな焦りと羨望が渦巻いていた。
「僕も……何かできるのだろうか。力がなくても、大切な人を守れる方法があるのだろうか……。」
彼は小さく呟き、拳をぎゅっと握りしめた。その手には、まだ確かな力も形もない。それでも、どこかで感じている。自分の中にある微かな何かが、答えを探しているのだと。
「――僕も、変わらなきゃいけないのかもしれない。」
胸の奥で小さな火が灯るのを感じながら、カイルは窓の外を見つめた。広がる夜空には、星々が瞬いている。どんな暗闇にも、小さな光が道を照らしてくれる――そんな気がした。