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初めての授業

 レオンとカイルが教室に入ると、黒板には「魔法理論基礎」の文字が大きく書かれていた。クラスメイトたちは席についており、教壇の前には初老の男性教師が立っていた。彼の鋭い目つきと堂々とした立ち居振る舞いから、ただ者ではない雰囲気が漂っていた。


「諸君、初めまして。このクラスを担当するセドリックだ。今日は魔法の基礎理論について学び、最後に簡単な実習を行う。」


 彼は一度手を叩き、教室を静寂で包むと、講義を始めた。


「さて、魔法と言うと派手な火の玉とか、空を飛ぶとか、いろいろ思い浮かぶだろうが……基本的なところから話そうか。」


 セドリックは少し微笑みながら、生徒たちを見渡した。彼の視線を受けて、ざわついていた教室が次第に静かになる。


「魔法の本質は、『自然と調和して力を借りること』にある。例えば、風に向かって手をかざしてみるんだ。」


 生徒たちが戸惑いながらも指示に従うと、窓から吹き込む微かな風が手のひらに触れる。セドリックは少し身を乗り出して続けた。


「風の流れを感じるだろう? 普段は気にもしない自然の動きだが、魔力を通じてそれに干渉すると、ただの風が刃になったり、盾になったりする。魔法はそうやって、自分と自然の『共鳴』から生まれるんだ。」


 彼は自分の手をかざし、手のひらに小さな炎を灯す。その赤々とした光が、生徒たちの顔を柔らかく照らした。


「そして、この力をさらに引き出すのが精霊だ。魔法を扱う者の多くは、精霊の助けを借りる。例えば私の場合――」


 セドリックが視線を後ろに向けると、彼の肩越しに揺らめく炎の影が姿を現した。その神秘的な様子に、生徒たちから驚きの声が漏れる。


「この子は炎の中位精霊、フレイムだ。自然の一部であり、意思を持つ存在でもある。だけど、覚えておいてほしい。精霊は心無い命令には応じないし、いい加減な態度で接すれば、力を貸してくれないどころか――逆に手痛い目に遭うこともある。」


 生徒たちは言葉の重みを感じたのか、真剣な顔でセドリックを見つめている。


「次に魔法を使うための基礎となる魔力について詳しく話そう。この世界で魔力とは、いわば自然エネルギーのようなものだ。君たち一人一人が、このエネルギーを自分の体内に取り込み、蓄えて使うことができる。」


 セドリックは教壇に置かれた青い魔石を持ち上げ、それを生徒たちに見せた。

 

「しかし、魔力には個人ごとに『保有上限』がある。この上限が変化することはなく、生まれつき決まっている。無限に力を使い続けられるわけではないことを、しっかり理解しておくように。」


 カイルが低い声でレオンに話しかけた。

 

「つまり、どれだけ努力しても魔力の限界は超えられないってことか。」

 

 レオンは少し考え込みながら答えた。

 

「でも、それがわかっていれば無駄に魔力を浪費しないように工夫できるな。」


 セドリックはさらに話を続けた。

 

「魔力は自然のエネルギーを取り込むことで徐々に回復していく。そのため、自然の豊かな場所では回復速度が上がる、いわゆるバフ効果を得ることができる。ただし――」

 

 セドリックは声のトーンを落とし、全員を見回した。

 

「魔力が極端に少ない、または完全に枯渇した状態では、『魔力欠乏症』という深刻な状態に陥る危険がある。この状態では、魔力が通常の速度で回復しなくなり、最悪の場合、命を失うこともあるだろう。」

 

 教室がざわめく中、セドリックは落ち着いた声で説明を続けた。

 

「魔力欠乏症の兆候として、軽度では疲労感や無気力、中度では視界のぼやけや肌の青白さ、重度では幻覚や魔力の乱流が挙げられる。軽度であれば自然回復で治癒していくが、重度の場合は聖なる泉や特定の回復魔法といった特別な治療が必要になってくる。」


 レオンは眉をひそめた。

 

「そんな症状になるほど魔力を使い切るなんて、無茶がすぎるだろ。」

 

 カイルは冷静な声で応じた。

 

「そうとも限らないよ。例えば、強力な魔法を使うときには『代償』が伴う場合がある。寿命を削ったり、体力や魔力が一時的に大幅に減少したりすることもあるからね。」


 セドリックもその話題に触れるように続けた。

 

「そこの少年、よく勉強しているな。特に強大な魔法――例えば、失われた古代魔法『ロストマジック』のようなものには、大きな代償が必要になる。これらの魔法を扱うには、深い覚悟が求められるだろう。」


 レオンが眉を上げた。

 

「ロストマジック?それってどんな魔法だ?」

 

 セドリックは少しだけ笑みを浮かべた。

 

「それについては、また別の機会に話そう。今は基礎を理解することが大切だ。」


 教室の空気が少し和らぎ、セドリックは黒板に魔法の属性を示す図を描いた。

 

「最後に、魔法の属性について簡単に説明しておこう。この世界では、火・水・風・土の四大属性が基本だ。しかし、氷や雷といった派生属性も存在している。そして、光と闇――これらは特殊な属性で、天使や悪魔といった存在にのみ使うことができるとされている。」


 話し終わるとセドリックは片手を上げた。その瞬間空気が一変し、軽い風が彼の周りを渦巻き始め、その中に微細な炎の粒が現れた。それは彼の手のひらに集まり、小さな星のように輝き出す。

 

「これが初級魔法のファイアーボールだ。」

 

 彼がつぶやくと同時に、炎の星が勢いよく膨張し、拳ほどの大きさになった。それでもなお、彼の手元で静かに浮かび続けている。セドリックはその球体を軽く放るように窓の外へ投げた。

 炎の球が窓を通り抜け、校庭に到達すると、突如として爆ぜるような光を放ち、鮮やかな炎の輪を描いた。それが地面に消えると、わずかに焦げた土の香りが漂った。

 

「魔法は、ただ力を発揮するだけではない。正確に、効率的に操る。それが熟練者の技だ。」

 

 セドリックの言葉に、教室全体が呆然と静まり返った。


「す、すごい……あんなのが初級魔法だなんて、信じられない!」「これが……熟練者の力か。」「俺たち、本当にあんなことができるようになるのか……?」

 

 生徒たちのざわめきが収まらない中、セドリックは手を軽く振り、一瞬で場を静める。

 

「驚くのも無理はない。だが、これはあくまで基礎を極めた結果に過ぎない。君たちも、この基礎がどれほど大事かを理解することだ。」

 

 教室内が徐々に静まり返り、セドリックの言葉に耳を傾ける。彼の後ろには再び静かに炎の影が消え、いつもの穏やかな空気が戻ってきた。そして彼は鋭い目つきで生徒たちを見渡し、こう続ける。

 

「さあ、次は君たちの番だ。自分の魔力と向き合う準備はいいか?」


 そう言いながら、セドリックは机の上に並べられた透明な水晶を指さした。

 

「これは魔力測定用の水晶だ。この水晶は、触れた人の魔力を吸収して適性を判別する。グループに1つずつ渡すから、君たちは近くの人と4人になるようにグループを作ってくれ。」


 教室内が一斉にざわつき、生徒たちはお互いに顔を見合わせながらグループを作り始めた。レオンとカイルは自然と一緒になり、周囲を見渡す。そこへ、柔らかな声が聞こえた。


「あの……私たちも一緒にいいですか?」


 振り返ると、柔らかな表情を浮かべたエルフの少女が立っていた。明るいキャラメルブラウンのショートボブが揺れ、明るいヘーゼルグリーンの瞳が輝いている。その親しみやすい雰囲気に、カイルとレオンは思わず和んだ。


「初めまして。ティア・エルウィンと言います。よろしくお願いします。」

 

 ティアが丁寧に頭を下げると、レオンとカイルも軽く頭を下げた。


「よろしく。俺はレオン。」

「カイルだ。よろしく頼むよ。」


 ティアが微笑みながら話そうとしたその時、後ろから少し低めの声が響いた。

 

「ちょっとティア!勝手に決めないでよ!」


 振り返ると、そこには鮮やかな銀髪の少女が立っていた。すらりとした体格に、戦士然とした佇まい。竜人族の特徴である額の小さな角がわずかに輝き、その冷たいエメラルドグリーンの瞳が鋭く2人を見据える。


「リリス・アルファードよ。あんたたち、さっきの模擬戦での戦い方、随分と雑だったわね。」

 

 挑発的な口調に、ティアが驚いて振り返る。


「リリス、そんな言い方しなくてもいいじゃない。」

「事実でしょ?」


 リリスは肩をすくめた。

 

「私ならあんな無様な戦い方はしないけど。」


 カイルは苦笑しながら冷静に応じた。

 

「まあ、負けたのは確かだね。でも、君の模擬戦も見てたけど、最後は自滅してたよね。」


 その一言にリリスが表情を険しくする前に、ティアが軽やかな声で続けた。

 

「そうそう、リリス。あなた、自分の魔力を暴走させちゃってたじゃない。あの爆発、すごく派手だったわよ。」


「そ、それは……少し計算をミスっただけで!」

 

 リリスは顔を赤くしながら言い返そうとするが、言葉が詰まる。ティアは苦笑しつつも楽しそうに肩をすくめた。

 

「まあ、そういうことにしておきましょう。でも、他人を笑うなら、自分のミスもちゃんと認めなきゃね。」


 リリスは口をへの字に曲げてそっぽを向いたが、それ以上何も言わなかった。その様子を見てレオンは小さく笑い、リリスに声をかけた。


「まあ、これからお互い頑張ろうぜ。模擬戦じゃ負けたけど、次はきっと違う。」


 リリスはしばらく考えた後、ふいにレオンを見てつぶやいた。

 

「……負けっぱなしじゃ面白くないもんね。次はちゃんとやるわ。」


 その言葉にティアが満足そうに頷き、カイルは静かに微笑んだ。やがてセドリックが各グループに水晶を配りながら声をかける。

 

「さあ、準備ができたグループから測定を開始しろ。水晶に手をかざし、自分の魔力と適性を確認するんだ。」


 ティア、リリス、レオン、カイルの4人は、それぞれ順番に水晶に手をかざした。

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