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試練の始まり

 朝の光が差し込むキッチンで、レオンはミレーナと向かい合って朝食をとっていた。香ばしいパンと温かいスープの香りが部屋に漂う。

 

「今日は大事な一日だな。気を抜くなよ、レオン。」

 

 ミレーナが微笑みながら言う。彼女の声にはいつも通りの厳しさと暖かさが混ざっていた。


「わかってるよ。でも、ミレーナが推薦してくれたんだ。失望されるようなことはしないよ。」

 

 レオンは少し照れくさそうに答えた。


「推薦したのは、あくまでおまえに相応しいと判断したからだ。私は後押ししただけ。これからはおまえ自身の力で証明するんだ。」

 

 ミレーナの言葉には厳しさがありながらも、深い信頼が感じられる。


 彼女は、学園の運営にも関わる理事会の一員であり、学園内でも一目置かれる人物だった。その彼女からの推薦で学園に入学できたレオン。推薦があったとはいえ、これからの成果はすべて自身で築かなければならない。


 朝食を終えたレオンは、部屋に戻り学園の制服を手に取った。その制服は、オルデナ・フォルティス連邦学園の象徴でもある。彼はそっと制服を広げると、その作りに感心した。

 肩から胸にかけて配置された軽量の装甲パッドは動きを妨げず、耐久性に優れている。ダークブルーのジャケットには、織り込まれた魔法繊維がほんのりと光を反射していた。


「軽そうなのに頑丈そうだな……。さすが名門学園。」

 

 彼はジャケットを身にまとい、袖を通した。インナーの黒いシャツは肌触りが良く、襟元に刺繍された学園の紋章が彼の胸にぴったりと収まった。パンツは膝部分が強化されており、ブーツも安定感がある。鏡に映る自分の姿に、一瞬目を奪われる。


「似合ってるじゃないか。」

 

 背後からミレーナが声をかけた。


「行ってこい、レオン。おまえならきっとやれるさ。」

 

 彼女の言葉が、緊張を少しだけ和らげてくれた。


 レオンは家を出て、学園へと向かう道を歩く。朝の空気が冷たく心地よい。道の先にはオルデナ・フォルティス連邦学園の巨大な門がそびえ立っていた。高い塔がいくつも並び、その上には学園の旗が風にたなびいている。門を通る他の新入生たちも、どこか緊張した表情を浮かべていた。


「ここが……。俺が選んだ場所。」

 

 レオンは深呼吸をして、門をくぐった。


 学園の門をくぐると、そこには1つの国のような景色が広がっていた。中心にそびえる巨大な塔を取り囲むように広がる街並みは、国際的な雰囲気に溢れている。石畳の道沿いにはさまざまな店や施設が並び、そのほとんどが生徒によって運営されている。


 歩いていると、いくつかの店から声がかかる。


「新入生か?ようこそオルデナ・フォルティスへ!」

 

 声をかけてきたのは、道端に設けられた屋台の店主――いや、学生だった。白いエプロンをつけた青年が、焼き立てのパンを差し出してくる。


「どうだい?このパン、俺たちが手作りしたんだぜ。最初の一個はタダだからさ、ぜひ味見してってくれよ。」


「えっと、ありがとう。でも今は急いでて……。」

 

 戸惑いながら礼を言うレオンを見て、店主の学生は少し笑った。


「わかってるって。入学式だろ?入学式が終わったらぜひうちに寄って試してみてくれよな!」


 その隣の店では、学生たちがカラフルなマントや小物を並べていた。手作りの品々には魔法繊維が使われているらしく、売り子の女子学生が熱心にアピールしている。


「新入生の制服に合わせるなら、この刺繍入りの腰布がおすすめ!ちょっとした魔力増幅効果もあるのよ!」


 その先では、魔法研究部の生徒が即席の魔法ショーを披露している。周囲には観客として集まった学生や観光客が拍手喝采していた。さらに道を進むとそこには様々な剣を置いた店の店主から声を掛けられる。


 「そこの君、武器が無いようだけどどうしたの?もしかして忘れてきちゃった?」


 そこにはいかにも鍛冶師ですといった風貌の男子生徒がいた。


 「いや、そういうわけではないけど……」

 「そうかそうか、それは申し訳ない!」


 そういって男子生徒は豪快に笑って見せた。


「いやね、ここに来るやつらは何かしら自分の獲物を持っているものだけど君にはそれらしきものがなかったからさ」


 確かに周りを見渡せば皆何かしらの武器を持っている。片手剣や両手剣に大小さまざまな杖などその種類は多種多様であった。


「まあなんだ、もし何かあったらうちに来いよ!」


 そういって男子生徒は自分で作成したであろう武器を磨き始めた。

 そうだよな、普通はみんな己の武器を帯刀してるものだよな。とレオンは思いふけっていた。彼の身の回りには武器は確かにない。だが彼は紛れもなく剣を持っているのである。そしてまた、入学式の会場に向けて歩みを進める。


「すごいな……まるで1つの国みたいだ。」

 

 レオンは感嘆の声を漏らす。この学園はただの教育機関ではない。世界で唯一の学園国家であり、学内には商業、研究、芸術などあらゆる文化が息づいている。学園自治領のみで経済が成り立っており、ここで学ぶことは単に知識や技術を得るだけでなく、自分の進むべき道を見つける絶好の機会となる。


 そんなことを考えながら歩いていると、道の先で目立つ一団が見えた。生徒会役員たちが新入生を案内するために待機しているのだ。


「おう!新入生、こっちだ!」


 屈強な体格で腕を組んだ男が、やや威圧感を伴う声で呼びかけた。彼は生徒会副会長であるエゼル・ヴァンガード。見るからに強面で、鋭い目つきが初対面の人を萎縮させるが、内面には生徒を導こうとする熱い信念を秘めている。


「えっと、こちらでよろしいんでしょうか?」

 

 レオンが恐る恐る声をかけると、エゼルはじっと彼を見据えた後、にやりと笑った。


「お前、見込みありそうだな。名前は?」

「レオン・アースレスです。」

「ふーん、推薦枠か。しかもミレーナ先生の推薦だと?」


 その言葉に他の新入生たちの視線が集中する。エゼルは興味深そうに頷きながら言った。

 

「面白いじゃねえか。ま、俺が案内するからついてきな。」


 エゼルは威風堂々と歩き出し、新入生たちを引き連れて学園の主要施設を簡単に説明して回った。


「ここは訓練場だ。剣術でも魔法でも使い放題だが、ケガしたら自業自得と思えよ。」

「こっちは図書館。膨大な資料が揃ってるが、居眠りして追い出されても知らねえからな。」


 その口調はぶっきらぼうだが、案内は的確で無駄がない。時折、新入生たちが質問すると、適当そうに見えて丁寧に答える姿に、レオンは思わず尊敬の念を抱いた。


 そして講堂の前に到着すると、エゼルは立ち止まり振り返った。

 

「さて、この先で入学式だ。理事長と生徒会長からのありがたい話が聞けるぞ。気合入れていけよ。」


 その言葉に生徒たちが「はい!」と答えると、エゼルは満足げに頷いた。



 講堂に入ると、広大な空間に壮大な天井画が描かれており、学園の歴史を象徴するようなモチーフが新入生たちを迎えていた。中央には壇上が設けられ、理事長をはじめとする学園の幹部たちが整然と並んでいる。


 ざわざわと緊張感が漂う中、ついに入学式が始まった。まずは理事長が壇上に上がり、落ち着いた声で挨拶を始める。

 

「ようこそ、オルデナ・フォルティス連邦学園へ。この学園は、ただ知識や力を得るだけの場所ではありません。それぞれが自らの目標を見つけ、成長し、新しい時代を切り開く――そのための礎となる場です。」


 理事長の言葉は、新入生たちにこの学園の役割と期待を明確に伝えるものであり、その重みを感じたレオンは、思わず背筋を伸ばした。

 彼は続けてこう語った。

 

「ここにはあらゆる文化、技術、知識が揃っている。自分の進むべき道を模索し、発見し、そして極めること。君たちの中には戦士としての道を選ぶ者もいれば、魔法、学術、経済、政治といった道を選ぶ者もいるだろう。だが1つだけ約束しよう――卒業する頃には、君たち全員が自らの進むべき道を見つけているはずだ。」


 そして次に壇上に立ったのは、生徒会長のユナ・ストレイテドだった。


「はじめまして、新入生の皆さん。」


 その一言で、講堂全体の空気が一変した。ユナの声は透き通るように澄んでおり、堂々とした立ち振る舞いに誰もが目を奪われた。


「私は生徒会長のユナ・ストレイテド。この学園での日々が皆さんにとってかけがえのないものになることを願っています。」


 彼女は微笑みながら、ゆっくりと新入生たちを見渡した。

 

「この学園では、努力した分だけ未来が開けます。そして、その未来はあなたたち次第です。今日ここに立っている私は、ただの努力家に過ぎません。でも、私がこの学園で学んできたことが、今の私を作り上げました。」


 その言葉には力強さと共に、真摯な説得力が込められていた。


「最後に、この学園には厳しい試練が待ち受けています。でも、それを乗り越えた先には、きっと大きな成長があります。一緒に頑張りましょう。」


 ユナの挨拶が終わると、新入生たちから自然と拍手が湧き起こった。レオンもその中に混じりながら、彼女の圧倒的な存在感に引き込まれている自分に気づく。レオンは心のどかで自分自身を強者の1人であると思っていた。だが、この2人の挨拶、いや、この学園の門をくぐった時からひしひしと感じている。この学園では自分なんかはまだまだだと。世界には今の自分では到底追いつけそうもない強者たちがあふれていることに。

 


 入学式が終わり、新入生たちは教室へと案内された。そこには担任となる教師が待っていた。若めの男性で、乱れた黒髪に軽く開けた襟元。どこかだらしない印象を受けるが、その目には鋭い光が宿っている。


「よう、諸君。」

 

 教師は教壇に腰を掛けるようにして片手を挙げた。


「ボクが君たちの担任、ダリル・ラズフォードだ。ま、ダリルって呼んでくれていい。正直、こういうのは苦手なんだけどさ。とりあえずよろしく。」

 

 その気の抜けた挨拶に、教室内が微妙な空気に包まれる。


「それじゃあ、まずは自己紹介……と言いたいところだがそんなまどろっこしいものは各自適当にやっておけ。まず君たちにやってもらうのは模擬戦闘訓練だ!」

 

 次に放たれた言葉が、教室内の雰囲気を一変させた。


「おいおい、自己紹介すらまともに終わってないぞ?」


 と誰かが小声でぼやくが、ダリルは耳を貸さずに続けた。


「面倒なものより、手っ取り早く互いの力を見た方がいいだろ?言っとくけど、ボクは甘くないぞ。」

 

 その目がわずかに光った。彼の本気の一面が垣間見えた瞬間だった。


 そうして組み合わせを決めるためにカインが名簿を読み上げられる中、レオンの名前が呼ばれる。そして次に呼ばれた名前――それはゼフィスだった。


「ゼフィス……?」

 

 レオンは思わず声に出した。


 剣聖王国の名家を背負う若き天才。その名が教室に響いた瞬間、ざわめきが広がる。


「よろしく頼むよ。」

 

 短くそう言ったゼフィスは静かに立ち上がった。その鋭い目と冷静な佇まいが、ただ者ではないことを物語っていた。


 ダリルはそれを見て満足そうに笑う。


「いいな、どちらが優れているか、見せてくれよ。」


 レオンは拳を握りしめ、ゼフィスを見つめ返した。自分にかかる期待と決意――それが静かに胸の中で燃え上がっていた。

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