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Ⅰ.≪風の精≫は相手が欲しい?

精霊。それは生物の信仰や認知から生まれ、歴史や過去からそのものによって力をつける存在。

生活に必要不可欠な火や水、当たり前のようにそこにある木や土、月。生き物の標となり続けてきた光、それに対極を成す闇。数々の歴史を経て精霊はその姿形や在り方を変えてきた。

数百年前は他の生き物との交流は無かったが、存在が確認され、当時の精霊を束ねている≪王≫と人族が親交を深めたことをきっかけに、精霊は表舞台に顔を出し始めた。そこからさらに認知が深まり、人型や獣に姿を変化させるものが現れていった。そして現代、それまでの歴史で力の特に高い者は、精霊としての特徴を失うことなく人型を成し、≪王≫の意向により国を作りあげた。精霊は基本的に寿命が無く、信仰、認知が無くなった時に力を失い、自然と消滅する。その心配が向こう数百年は無いと考えられ、それ故に能力の高い人型精霊が今も≪精霊王国アイリーン≫を治める一員として活躍している。

今日はその国の中心となっている『八大精霊』と呼ばれる8人と、≪精霊王≫による会議が行われる日である。


「おっ、≪風の精≫様!今日もいい風です!会議頑張ってくださいね!」


「いつもうちの店を贔屓にしてくれてありがとうねえ!会議が終わる時間に焼き立てが出来るようにしておくからね!」


「うん!いつもありがとう!今日は焼きプリンが食べたいな!」


私は≪風の精≫シルフィード。アイリーンが出来た約20年前に人型を成した。精霊としては200年ほど存在しているが、それでも精霊の中では若い方で、人型としては尚更だ。

若輩なりに努力しているつもりではいるが、それでもまだまだ他の大精霊には及ばない。今はこうしてこの国の住人と親交を深められるよう積極的に顔を出すようにしている。

そんなこんなで色々な店に顔を出しながら宮殿に到着した。控室には既に二つの影があった。


「あら、おはよう、シルフ。今日も元気ね」


彼女は光のグランツェーレ。身体中からまあそれはもう光のオーラが溢れ出ている。圧倒的お姉さん。実際に光っているわけではない…...が、眩しい。すごく眩しい。見ればわかる。


「おはようございます。シルフ。住民の方たちとは随分仲良くなれたようですね。」


隣の彼は闇のギリー・ドゥ。光とは対極の存在だが暗いオーラが出てる、なんてわけじゃない。とにかく怪しげではあるが、きっとバーのマスターのような身なりのせいで、実際は隣に並んでも引けを取らないほどの圧倒的お兄さんだ。イケメンだ。とにかく顔が良い。


「グレア姉!シャドウ兄!おはよう!今日も仲が良いんだねぇ…...?」


「ふふ、そうね。とっても仲良しよ?」


「ちょっと、グレア…...」


そう、とっても仲良しだ。この国でも一番のおしどり夫婦である。国を挙げてこの2人になるように推奨されるほどの良い男と良い女である。非常に羨ましい。いや羨ましくなんてないが。

良いもん。私だっていい人見つけるもん。グレア姉みたいにキラキラになって、シャドウ兄みたいな人と幸せになるんだ。今は大精霊として頑張ってるだけだし?そういう人がいないわけじゃないし!

二人が一足先に会議室へと向かい、すれ違いでまた二人が入ってきた。


「おう!おはようシルフ!元気そうだなあ!」


火のサラマンドラ。精霊は決してその属性の力を放出しているわけではない。が、火がどうとかは関係なく熱い。とにかく元気で、その辺の男よりも男らしいかっこいい女性だ。憧れと同時に、ここまでにはなりたくないな、という思いも少しだけある。絶対本人には言わないでね?


「おはよう、シルフ。パン屋の店主さんがシルフのお陰で卵の仕入れを増やすことになったって言っていたわよ。プリンの売り上げが増えているらしいわね。」


そして水のウンディーネ。火とは真逆で女性らしい女性。おしとやか、穏やか辺りの言葉が非常に似合うなと思う。が、たまに怖い顔をすることがある。怒らせちゃいけないって言うのはこういうことを言うんだと思う。怖がってなんかないよ。普段はすっごく優しいんだから。


「おはよう、サラ姉!ディーナ姉!私も卵の調達手伝ってるから、あのプリンがもっと広まると嬉しいなあ…...!」


「ガッハッハァ!確かにあのプリンは絶品だよなあ!シルフがきっかけだったんだな!」


後から入ってきたこの豪快な男は土のノーム。声がデカい。体もデカい。存在感もデカい。あと声がデカい。とにかくデカい。とてもまっすぐな男で、街の鍛冶などをしている男たちと良く酒を飲む姿が目撃されていて、酒にはとにかく強いらしい。あと声がデカい。


「私も、あれ好き…...仕入れに問題ありそうだったら私も手伝うから…...言ってね…...」


ノームの隣に立つことでより小さく見える小柄な子が木のドリアード。性格も控えめで、ノームの隣に立っていなくても基本的には静かだが、怖い一面もあると噂されている。可愛いって言ってるところもよく聞くし噂はただの噂なんだろう。


「ジェノ兄、リア姉、おはよう。ありがとう!もっといい街になるように私も頑張るからね!」


「ハッハッハ、そうだな、今日はそのための会議だ。俺たちもそろそろ行こうぜ。」


私たちは皆で控室を出て会議室へと入った。それぞれの席に着席し、30日に一度大精霊と王によって行われる定例会議、≪アイリーン会議≫が始まった。


「皆さん、集まっていただいてありがとうございます。今回も会議の進行をします。よろしくお願いします。」


王のすぐ隣に座っているドリアードよりも少し小さめの女の子が月のルナマリア。小っちゃい。可愛い。彼女はいつも会議の進行をしていて、見た目からは想像できないほどテキパキと仕事をこなす。あと小っちゃくてかわいい。私とは精霊としても人型としての歴もそれほど差は無く、唯一の同期といってもいいくらいだ。


「今回は特筆すべき問題は無い。それぞれの管轄の報告を頼む。ここから先はルナに任せよう。」


そしてこの人が王、エーテルだ。私は父さんと呼んでいる。精霊族にとって≪王≫とは、精霊の中でも信頼に厚く、何かの属性に長けているというわけではないが、他の精霊の力を引き出すような器を持ったものが選ばれる。現代の王は、精霊族の歴史の中でも初めての『人族』から王になった人で…...まあ紆余曲折あったのだ。色々あって契約して、色々あって認められて。王になった。そういうことだ。まあ4話か5話くらいでそういう話も出るんじゃないか?とアイコンタクトが父さんから送られてきた気がした。何のことだ?


「ではグランツェーレから報告を始めます。人族領からの取引の件ですが…...」


議会は何事もなく進んだ。八大精霊にはそれぞれ性格や能力に合わせた仕事が割り振られている。グレア姉にはその人当たりの良さから外交、シャドウ兄には能力を活かした偵察や潜入など…...まあこんな感じである。

私の担当は王国内の治安の維持だ。私は主に冒険者ギルドを担当し、商業ギルドを担当するジェノ兄と連携しながら平和を保っている。バックアップには、私にディーナ姉が、ジェノ兄にリア姉がそれぞれついている。ディーナ姉もリア姉も精霊として先輩だが、それ故に他の仕事もしているので、主に担当するのが私とジェノ兄ということになっていた。


「じゃあシルフィードより冒険者ギルドの報告をするね!」


かつてこの世界には戦争があった。様々な種族が力を求め、邪な存在に手を出した結果、≪邪神≫が復活したという歴史がある。それを人族、魔族、精霊族、亜人族が協力し討ち取ったのが15年前の話だ。

その影響で善なる者を襲う危険な魔物が増えたことをきっかけに、『冒険者ギルド』を作り、それぞれに明確な強さの基準を設け、適材適所で人員を配置する、という試みが成された。

邪神の影響を受けた危険な魔物はあらかた討伐されたが、それでも危険な魔物が完全にいなくなったわけではないし、冒険者が死ぬことだって当然ある。魔物は近隣の村々などの食糧や、自身より下級の魔物、返り討ちにした冒険者などを餌としてその数を増やしている。我々はそれを狩って生活に役立てる。冒険者を死なせないよう全力を尽くしてはいるが、全てを守れるわけではない。こんな形でも共存共栄なのだ。


「直近30日で、死者は1名、重傷者2名、そのうち1名は冒険者への復帰は難しいとされてる。この3人はいずれもAランククエスト、ブラッドウルフの群れの討伐で出たものだね。クエスト中にSランクの魔物、ブラックボアの乱入によって起こった惨劇だと報告されてるよ。」


死者が1人出ているが、実際は上手く抑えられている方なのだ。今回の件は、事前の偵察でも乱入の気配はなかったとされていた。申し訳ないが仕方ない事なのだ。


「父さん、私からは以上だよ。」


適当にやってるように見られるが私は意外と真面目。仕事頑張ってるんだ。私偉い。


「ではこれにて会議を終了とする。話は変わるが...…少しみんな時間あるか?」


全員が頭の上にハテナを浮かべ目を合わせる。まあ…...プリンくらいしか用事は無いけど…...


「あー…...その、なんだ。ちょっと私からは言いにくいな…...ルナ、頼めるか?」


「あの…...シルフ姉さん......」


え?私?

何だかルナからの視線が痛い気がする。え、私何かした?クビ?八大精霊追放?私これからパーティ探して世界最強にならなきゃいけない流れかな?そうなると優秀なタンク役が必要だな......ギルドで最近活躍してるあの人とか......


「シルフ姉さん、グレア姉さんとシャドウ兄さんの事は羨ましいって言ってたよね......?」


「え、うん......いつかこうなりたいとは、思ってるし、恋人も欲しいなとは......」


「えっと......もう相手がいないの、私たちの中でシルフ姉さんだけになっちゃった…...よ…...」


…...ん?なんて?


「…...ん?なんて?」


思わず心の声と口から出た声が一致した。周りを見渡す。そしてすぐ気付く。あ、これ知らないの私だけだ。


「あの、さ。アタシから報告するよ。」


サラ姉が緊張した様子で口を開いた。噓でしょ?えっサラ姉が?普通に私のほうが先だと思ってたんだけど?サラ姉そんな感じなかったじゃん?


「その…...人族の国の≪騎士の国シュヴァリエ≫の、騎士団副団長さんと結婚することになったんだ。」


シュヴァリエは≪騎士王≫と呼ばれる人類最強の剣士とされている人族を王に据えた国で、剣術に長けた国だ。戦争の時に最も繋がりの強かった国である。


「ちょ、ちょっと待って、てことは私を除いたらサラ姉が最後ってこと…...?みんな相手いたの?じゃなくて、えっと、サラ姉、おめでとう…...?」


何言ってんだ私?てかちゃんと喋れてた?というか私この世に存在してる?あまりの動揺に心臓が麻痺して成仏とかしてない?


「落ち着いてくれシルフ…...もちろん二人は思いあっているが、この結婚は両国にとって更に強固な絆を生むことになる結婚だろう。僕も生まれはシュヴァリエだ。それも含めて今日報告をと思ったのだけど…...」


「…...正直、シルフ姉さんより先にサラ姉さんが結婚するとは思ってませんでした。」


「実は、アタシもシルフのほうが先だとは思ってたんだ......グレア姉さんたちに憧れてるのは知ってたしな。」


「シルフ、憧れてくれるのは嬉しいですけど、焦っちゃダメよ?」


皆からのフォローがふかーく突き刺さってとっても痛い。私、逃げてもいいかな?


「あ、あははー、やだな!焦ってなんかないよ!大丈夫アテあるし!」


いいやそんなものはない。自分でもフォローして傷を負った。傷は深い。3日は寝込むとしよう。


「まあしょうがねえじゃねえか!今この場はサラを祝うべきだと思うぜ!お相手さんは連れてきてねぇのか?」


「ああ、今日は来てないんだ。結婚するにあたって、アイリーンに越してきて、こっちの防衛隊に配属されるらしいんだよ。その準備があるって言っててな。」


「それでは、こちらに越してきてから歓迎会でも開きましょう。私がセッティングさせていただきますよ。」


「そうだな、シャドウはそれを進めてくれ。≪騎士王≫の話では10日後にこちらに来るそうだ。そのタイミングで頼む。サラはその日から3日間休みを与えるからそのつもりでな。」


私が傷口を必死に消毒している時にお祝いの話は進んでいく。いや、分かっている。羨むのは後だ。今は自慢の姉の門出を祝福するべきだ。


「そう、そんなこんなで色々あって。シルフさんや。相手がいないのはお前さんだけになったということだ。」


「はぁ!?今はお祝いのムードじゃないんですかぁ?セクハラで父さん訴えますよ!」


「僕はこの国のトップだからそうなったらもみ消しでもしようかな?」


「はー職権乱用だ!父さんサイテーだ!」


「お、落ち着いてくださいシルフ姉さん。アドバイスならいつでも…...」


そうだ忘れてた私可愛いとか妹みたいとか思ってたルナちゃんにも先越されて…...待って相手どんな人?


「ね、ねぇルナちゃん?相手の人に騙されてたりしない?人は分かんないからね!怖い人じゃない?なんかされたらすぐ言ってね?私がボッコボコに…...」


「僕だけど?」


父さんが小さく手を挙げ…...いやキレてる。ん?


「ルナがお母さんに?」


多分目がグルグルしてたんだろうと思う。なんか視界も思考もぐるぐるだ。ルナちゃんは笑って今まで通りで、なんて言ってくれる。なんてかわいいお母さ......じゃなかった。妹だ。


「…...後で皆の話ちゃんと聞かせてもらうからね!絶対、私だけ遅れたりしないんだからー!」


その日、会議が終わった辺りの時間にアイリーン国内に突風が吹いたというが、≪風の精≫はそれを知る由も無かった。余裕もなかった。相手も、もちろん居なかった。


「…...うるさーい!」

別に悔しくなんかないんだからね、なんて言葉は本当に悔しい時は出ないものなんだよね。ソースは私シルフ自身。

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