ニート使いの女神さま
雲がかかることの知らない青空、その下に建てられた吹き抜けの食堂は白を基調としており、決して汚れることはない。
正確に言えば汚れた瞬間に汚れは消えてしまうのだ。霧のように。
そんな不可思議な現象が何故起こるのか。それはここが雲よりも上、天界と呼ばれる場所だからである。
天界に住む者は神と天使。そう呼ばれる者たちだ。
「あああああ! もう! ネフィの馬鹿!」
「落ち着いてください。お姉さま。弱い魔族を王都近くに配置したのがいけないのです。あれでは狩ってくれと言っているようなものです」
叫ぶ女性にそれを宥める女性。二人とも女神であり、この世界で信仰されている二大宗教の神でもある。
「だって……だってあいつ大きい街が近くにないと不便だって言って……」
「それで追いはぎに遭ったからと見回り中の兵士に泣きついた所、魔族だとばれて処刑ですか。アホですね」
「うわああああああああ!」
「あ、すみません。でもお姉さま、やはりお姉さまの選別する魔族は少し欲望に忠実というか怠惰すぎるというか……」
ニードヘルンと呼ばれるこの世界は他世界からの死者を受け入れ、新たな生を与える役目を与えられた世界だ。しかし他世界の死者すべてを転生させるわけにはいかず、ある程度は選別をしなくてはいけない。
「ぐす……。なによぉ……魔族なんだからそんなの当たり前でしょ!」
「質に問題があります。食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりしていて、せっかく頑強な魔族として生を受けたのに成人する頃には人間の一般市民より弱いなんてこともままあります。ありすぎます!」
「ぐっ……」
「このままでは魔族は衰退。滅亡してしまうでしょう。そうなればお姉さまは……」
お姉さまと呼ばれた魔族側の宗教の神であるヴィヴィットは、宗教がなくなり信仰されなくなれば忘れ去られる。それは神としての死と等しい。
「私はお姉さまと離れたくありません。何様だと思われるかもしれませんがあえて助言を致します。怠惰な魂を選ぶのはおやめ下さい。戦乱で命を落とした武将などをお選びいただくとよろしいかと思います」
「……あなたの言いたい事はわかったわ。そうね考えてみる」
ヴィヴィットは硬貨を置くとそそくさと家へと戻っていった。そんな後姿を見ながらネフィは思う。
――お昼代、足りません。
その事を言うつもりはないが、毎日つけてあるヴィヴィットへの貸金帳にしっかりと記入しておいた。
***
家に戻ったヴィヴィットは死者名簿をぱらぱらと読んでいた。名簿は世界ごとに製本され、ヴィヴィットが愛読名簿は地球と書かれたものだった。
「うーん。武将の魂ねぇ。……あ! この人! 武将に指示を与えてる! 武将の上ってことでしょ? 最強じゃない!」
ぴたっとヴィヴィットの手がとまる。名簿の経歴欄に書いてある一文に目が入ったのだ。
「よし! 早くしないと他にとられちゃうからね! さっそく転生よ!」
ぶつぶつと何やら呪文をつぶやき名簿に力を送る。そうすることで名簿からその者の名前は消え、ニードヘルンへと転生が行われる。いつもは転生の間で死者ひとりひとりと面談的なことをやって要望を聞いたりしていたが、現在信仰が少ないヴィヴィットにはそんな事をしている暇はなかった。
そして死者の名前は消えていく、最初は名前から、次に経歴。そうやって最後の一文である趣味まで。
最後の一文にはこう書かれていた。
趣味、戦国シミュレーションゲームと。