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完結[改訂版]貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第二章 学びを持ち寄る場にて
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情報共有③

 藤西(ふじにし) 安吾(あんご)

 葛西(かさい) 伸成(のぶしげ)


 晴臣が動かした紙は、その二つの名前が書かれたものだった。

 それを見た霞城が、悲し気な表情を見せる。だがそれは一瞬で、すぐに切り替えて発言する。


「では指揮経験のある、雄剛(ゆうご)大佐も参加しているでしょう。少将が参加していなければ、戦略パートでの参加だと思います」


「異能戦争に参加している少将は、私たち二人だけだよ。そして西部軍唯一の大佐は、戦闘パートでの参加者で間違いない。昨日あった食事会のとき、誤魔化せないほどの大きな怪我をしていたからね」


 驚いた表情を霞城が見せたのは、やはり一瞬だった。そして語る。

 弓弦は聞きたくないと思いながらも、目を伏せてそれを聞く。参加者についての重要な情報を聞き逃すわけにはいかない。だが想像してしまうのだ。

 虚像と想像の自身もこうして語られているのだ、と。死んでも一瞬の表情だけで済まされるのだ、と。


「西部軍はなぜか最近になって、無関心に近かった僕への態度を一変させました。様々な意味で、僕を排除しようと躍起になったんです。

 異能戦争の参加者は、僕が使者に選ばれなかった場合の保険だと思います。僕と関わりのある者を参加させることで、僕を追い詰める。そういった狙いがあっての人選でしょう。

 このことを言わなかったのは……僕のせいで、みんなが傷付いていると思いたくなかったからです」


 一呼吸置いて言われた最後の言葉は、震えていた。

 蓋をして無理に忘れようとしていたことが、霞城にもある。それはやはり忘れられず、腕を抱いて震える。


 和真(かずま)が普段見せる、優しい笑み。和真ら五人と過ごした、ふわりと優しさに包まれる時間。

 普段は淡泊な真白(ましろ)の、甘い声。

 すれ違うだけで嫌がられる霞城に、他の者と同じように挨拶をする雄剛。

 いつでも兄として接してくれる、心の強い(さく)


「その気持ちを、分からないとは言わないよ。だけどこの六人が参加しているか、他の二人に心当たりがないか、確認しには行ってもらうからね」


 その冷めた声音から、三人は悟る。

 一見この言葉は、慈悲深いように思える。だが決して、そういった理由の発言ではない。単に、今の霞城とこれ以上会話をするのが面倒なだけだ。


「じゃあ次は美波少尉、聞かせてもらおうか」


「その前に、二人がどちらの軍との戦闘で死亡したか、教えてもらえますか?」


「葛西伸成少尉が北部軍で、藤西安吾准尉が南部軍だよ」


 その質問の理由は聞かないまま、美波に話すよう促す。

 震える霞城を少し気にした美波だが結局、少将ら五人に話したときと同じように語っていく。だが今回は、続きがあった。

 逃走の際、荷物を奪取した相手が正雄の婚約者であるという事実。自身に宛てた手紙が挟まっていたことから、逃がしたのだろうと想定できること。

 そして正雄を頼らなかった理由。それでも逃亡先に東部軍を選んだ理由。


 弓弦は美波について、本名しか聞いていない。そのため初めて聞いた話だ。

 驚かない方が不思議なくらいの内容だが、そんな様子は少しもない。それよりも重要なことがあるのだ。

 美波が正雄を頼らなかったもうひとつの理由が、弓弦には分かる。凍えてしまうほど手の冷たい美波のことが、分かってしまう。

 その事実は、温かい正しさを己に求める弓弦を苦しめた。


「三年間最前線で戦い続けてきたことも合わせて考えれば、南部軍に肩入れする心配がないと判断した理由は理解できるよ。だけど何故、三年もの間隠していた素性を明かしたのかな?」


「集団自殺が関係していますので、解決の経緯と併せて報告させていただきます」


 ちらりと晴臣の視線が、正雄に向けられる。それを弓弦は意外に感じた。二人の関係は、あまり良好ではないと思っていたからだ。

 正雄が頷き返すと、発言を促された美波が再び語っていく。

 報告を受けた少将らの反応と質問。そこまで全て聞いた晴臣は、ため息交じりに言った。


「特に理由がなくとも、主が言うのなら死ぬ……ね。納得したよ。それはそれで彼の好みだろうね」


 少し悲し気な表情を、それで、という言葉で切り替える。その表情は一応、笑みではある。ただ、ひどく不気味なものだった。

 それを正雄に向けると、肩をビクリとさせ視線を逸らされる。不気味な笑みのためではない。これからされる質問が分かっているからだ。

 ならば満足のできる答えではない。晴臣は当然それを理解したが、聞いておかないわけにはいかなかった。


「どうして四人で来たのかな? できれば恭一少将にしてやられたうえに理由は不明、という説明以外で頼みたいな」


 その通りのため、正雄はなにも言えないでいる。

 予想ができていたため、晴臣はただ頷いた。


 理由を語るには絶対に、美波という存在を外すことはできない。そう考えた晴臣は、美波へ視線を移す。

 そして、ふと疑問に思ったことを口にした。


「聞いた限りでは南部軍にいい印象を持っていないよね。何故、美波という南部軍を連想させる名前にしたのかな?」


「恭一少将に与えられた名ですので、詳細は分かりません。ただ、私が南部軍の出であると察していたようです。そのメッセージかもしれません」


 頷きながら、晴臣は思う。

 いかにも彼がやりそうな、回りくどいやり方だね。美波少尉は、彼のことをよく分かっているらしい。

 もっと早くに、遅くとも四年前に、彼の理解者が現れていれば。(しおり)さんがそうであってくれたなら。彼は今とは違う在り方ができていたのに。

 この子でも彼を救うことは、きっとできる。でもその救いの名は、破滅だ。私はそれを望まない。


「戦闘パートが四人だけの理由に、心当たりはあるかな?」


 黙り込んでしまっていることに気付いた晴臣は、心の中で頭を振る。そうして無理に思考を振り払ってから、三人にこう問いかけた。

 全員が否定すると、微笑んで見せる。やっと不気味ではなくなったものの、やはりいくらか不自然な笑みだ。


「途中参加はできないルールだからね、まあいいよ。分かればそれに越したことはないと思ったけれど、分からないなら仕方ない。気に病む必要はないからね」


 この言葉にもあまり本心が含まれていないことは、明らかだった。

 これは、誰も正解を知らない問いだ。考え続けたところで時間の無駄。そのため話しを切り上げようとしているのだ。


「最後に弓弦准尉、これだけは確認させてほしいんだ。信用して、いいんだね?」


「はい。東部軍勝利の知らせを持って、我が主の元へ戻る。その誓いに、嘘偽りはありません」


「分かった、信じよう。ところで料理はできるかな?」


「一応、人並みにはできます。どうし……いいえ、やります。買い出しすら頼めなさそうな者ばかりですからね」


 困ったような笑みで、晴臣は小さく頷く。

 霞城も含め、三人は本家。美波は軟禁から逃れた後は防衛線に。料理などできるはずがない。そう思っての、このやり取りだ。


「僕はできます。いつ捨てられるか分からないのに、基本的な生活能力を身に付けていないと思うんですか?」


 この少年の理解者は、果たして存在するのだろうか。姿を現したとして、本当の意味で救ってやれるのだろうか。

 少しムッとして言う霞城を見た晴臣は、そう考えた。だがその思考はすぐ、紙屑のように丸めて捨てる。

 考えても意味のないことだからだ。

 救われるか否か。その選択をするのは結局、本人ではない。


「やりたいと言うなら止めないよ。だけど今日は弓弦准尉に任せなさい。霞城中尉は西部軍の参加者を、確認しに行かなくてはいけないからね。

 美波少尉も念のため、南部軍を見て来てくれるかな。見たら思い出す者があるかもしれないからね。

 三人とも、まずはゆっくり休んで。それからでいいからね」


 自身が動かなければ、みなも動きにくい。それを分かっている晴臣、そして次に正雄、美波と食堂を出ていく。

 霞城が動く様子を見せないため先に出て行こうと、弓弦が少し椅子を引く。そのタイミングで、霞城が小さく息を吸った。

 読んでいただきありがとうございます。

 美波が出自等について詳細に語ったのは、第十三話です。

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