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従属の首輪

 ───ユシャが閉じ込められている部屋、トレソンという乱入者により若干気まずい空気が流れるも魔王は気を取り直したかのように、俺に色々と話を聞いてくる。


 「いや、しかし本当に楽しいな汝との話は。聞けば聞くほど真新しい話ばかりだ。」


 機嫌が直ったのか魔王はまたいつもの様子で優雅にティーカップに口をつける。


 「そうだ、汝に話させてばかりでは悪いな。私からも話をしよう。そうだな……これはとある国の王の話だ。その王には恋焦がれた女性がいてな。ついに自分の国に無理やり攫い、妻としてしまったのだ。当然、その女性は故郷を想い毎日涙を流し枕を濡らす日々……食事すら断り、日に日にやつれていく。それに耐えきれなくなった王は故郷へと帰すことにしたのだ。だが女性は故郷へ帰った後も定期的に、頻繁にその王の元に行くようになった。何故だろうな?」

 「それは……なんだかんだでその王様が好きになってしまったとか?」


 俺の答えに魔王は笑う。なるほどロマンチックな答えだと。確かに無理やり攫ってきたという乱暴なきっかけではあるが、そこから愛が生まれたのなら、それもまた一つの愛物語だろうと。だが事実は違うようで魔王は言葉を続けた。


 「簡単なことだ。王様はね、女性を故郷に送り返すとき、お願いをしたんだ。せめて最後だけは笑顔でいてくれと。国を挙げて送別式を行うので、偽物でもいい。笑顔を自分に見せてほしいと。」


 含みを持たせた言い方だった。魔王は言葉を続ける。


 「女性はそんな王様の熱意に負けてね、送別会に参加したんだ。それは豪勢な式だったらしい。豪華爛漫な食事に彼女の為だけに用意した建物、音楽家……だけどね。王様はその食事に毒を盛ったんだ。それは中毒性の高い劇薬。一度口にすると、定期的に口にしなくては満足のいかなくなるもの。つまりだ、女性が王様の元に行くようになったのは、薬を盛られて、禁断症状に苦しみ、もうその王様が出す食事なしでは生きられない身体にされたからなんだよ。」


 それは歪んだ愛物語。王様からすれば意中の女性を手に入れたのだからハッピーエンドだが、女性からするとたまったものではない。本人の意思が何一つないのだから。意味ありげな小悪魔的な笑みを魔王は浮かべる。食事に毒を……中毒性の……。

 俺は手に持ったフォークを落とす。俺はここに来て、どれだけ食事を摂った?


 「お、お、おま……おま……え……ま、まさか……。」


 吐かなくては。今摂ったものだけでも。俺は立ち上がりトイレへと向かう。どれだけ自分の身体に入っている?焦りが俺の頭の中を支配する中、スフレが俺の前に立つ。


 「王様、少々悪趣味が過ぎます。本気で怯えていますよ。」


 スフレの指摘に魔王は目を丸くするが、俺の様子にようやく察しがついたのか慌てた様子で立ち上がり俺に駆け寄ってくる。


 「え、あ、いや、そ、そういうつもりじゃなくて!つ、つまりだ聞いてくれよ救世主様!私は!そういうこともできるのにしてないなんてえらいだろう?と言いたいんだよ!薬なんて盛ってないから!体調に変化なんて出てないでしょ!?」


 言われてみるとそうなんだが、そもそもそういうのは自覚症状がなかったりするのではないかと心配になる。ただ、ここで嘘をつく理由もないはず。恐らく魔王はやろうと思えば薬を盛れたのに、それをしない自分は信用に値するとアピールするつもりだったんだろう。目論見が外れて慌てふためいている様子から察しがつく。


 「魔王様が食事に毒を盛るなんて卑劣な真似をしない高潔な方だというのはよく分かったよ。」


 俺の言葉に魔王は困惑した表情から一転し目を輝かせ「そうだろ、そうだろ!」と上機嫌な笑顔を浮かべる。わかりやすい性格をしてくれて助かる。


 「まぁこれで救世主様からの多大な信頼も得たというわけでだ。私に完全降伏したという映像も撮ってくれるというわけだな。」

 「それは駄目。」

 「なんでだよ!くそ……やはり仲間の命は大事か。あのエルフとメイド程度なら取り計らってもいいが……黒髪の女だけは絶対に駄目だ。そこは譲れない。」


 そこはお互いに譲れない平行線。魔王の考えも分かる。トウコの力は絶大なもので放置することなど出来ないのは立場上、当然のことだ。……まぁそもそもあんなビデオレターを撮影したら怒り狂って話にもならないと思うが。


 「まぁ映像はいずれということでだ、仕方ない。この首輪をつけてもらおうか。」


 魔王に首輪を渡される。奴隷のように扱うということだろうか。多大な信頼とは言い過ぎだが、魔王が俺に対し悪意が無いのは分かったことだし、特に警戒をせず首輪を装着する。……何もない。本当にただの首輪だ。


 「苦しくないか?一応宮廷仕立師に王族が使用する最上位のものを、仕立てるように指示したのだが、やはり首輪という性質上どうしても難しいところはあると思うのだが……。」


 心配そうに魔王は俺の首元を見るが特に問題はない。派手な装飾はあるが、重さを感じず息苦しさもない。首元には何も感じさせないほど自然にフィットする。


 「問題ないようだな、では翌日それを着けて港町ルフトラまで行こうではないか。」


 それはつまり……救世主が魔王の手に落ちたことを民衆にアピールするつもりなのか。利用されるのは癪だが、拒否権はないだろう。だがチャンスでもある。ここにいる限り、俺は詰みだが、ルフトラならみんながいるはずだ。何とかして魔王の目を逃れて、みんなと合流すれば……まだチャンスはある。


 「分かった。何時ごろに出るの?」


 魔王の策略に敢えて乗ろうではないか。辱めを受けることにはなるが、今のままでは打開策がないのだから。



 ───港町ルフトラから少し離れた洞窟。そこに一人のエルダーエルフがいた。トレソンである。転送座標を記録しておいて正解だった。一瞬にして転送石を使用して転移に成功したのだ。転送石は高価希少なもの。そう易しくは使えないが、今という機会ほど使う時はないだろう。


 「……魔王様……見ていてください。私の忠誠心を。私の魂の輝きを。クク……クククク!!」


 古代遺跡の前でトレソンは笑う。自分は断じて無価値ではない。これは証明である。あのような下等生物よりも、私のことを見てくれるはずだと。魔王様の寵愛を受けるのに相応しいのは私だと、きっと理解してくださる。そう信じて。



 港町ルフトラへは一瞬で到着した。魔王が使用する転移術。ゲートのようなものを通れば一瞬なのだ。周囲の視線が気になる。首輪を見られているような気がしてならない。


 「さぁ救世主様。見ろあの人だかり。あそこに用事があったのだ。さぁ行くぞ。」


 魔王が指さした先は市場。街の中では最も賑わう場所といえる。なるほど、見せつけるのであれば、たくさんの人々がいる場所の方がいい。

 そんな俺の気持ちとは裏腹に魔王は商店のアクセサリーなどを眺めている。


 「どうだ救世主様、これ似合うかな?」

 「え、いや……どうだろう……?魔王様が普段どんな格好してるのか分からないしなぁ……。」

 「なるほど、救世主様はこのアクセサリー単品ではなく全身のコーデで判断すると?中々手厳しい意見ではないか。まぁそれなら仕方ない。いずれ分かっていけば良いのだからな。店主、これを一つ。」


 店主は唖然とした顔で魔王からお金を受け取り「毎度……」と信じられないようなものを見たような表情で応対した。今、目の前に魔王と、救世主と呼んでいる者が買い物に来てるんだから当たり前の反応である。

 その後も魔王と一緒に買い物は続く。よく分からない食べ物を一緒に食べたりした。魔王は相変わらず目を輝かせ「あれはなんなんだ!?」と俺に聞くが俺もこの世界のことは詳しくないので知らない。


 「これは美味しいな!こっちは……うーむ微妙だ……。」

 「ジャンクな感じがするなぁ。あ、でもこっちはいけるぞ魔王様。食べてみる?」

 「おぉ、これは……中々いいな!グロテスク故、忌避していたが味は悪くないぞ。」


 お互い知らないことばかりなので、食べ物については試行錯誤だった。やはりこの世界と元いた世界の常識は通じない。俺たち二人は、そんな新鮮な経験を分かち合い、市場を巡った。


 「いやぁ、人の街で遊ぶのはやはり楽しいな。次はどこに……おや、救世主様?」


 楽しくて夢中になっていたのか、救世主様の姿が消えていた。どこかではぐれてしまったのだろう。この人混みだ、迷子になるのも肯ける。使い魔を放ち探索することも可能ではあるが……。


 「それは無粋だな、ふふ、こういう隠れっこを楽しむのもまた一興よ。」

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