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林田藩  作者: 林田力
建部寿徳
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九州征伐

四国を平定した秀吉の次の目標は島津四兄弟が席巻する九州であった。九州征伐の先陣は四国の大名が担当した。仙石秀久が天正一四年(一五八七年)、九州征伐の先陣の軍監になった。

「出陣の準備をするがよい」

「かしこまりました」

秀久は一礼して下がっていった。


秀吉は持久戦を命じたが、秀久は攻撃に出た。同じ先陣の長宗我部元親・信親父子は危険性を忠告して反対したが、秀久が強行した。その結果、戸次川の戦いで島津家久に大敗する。家久の強さは神がかっていた。時間が経つごとに自分が強くなっていくのを感じた。視覚が研ぎ澄まされ、聴覚が鋭くなっていった。


「あれこそが本物の武人だ」

秀久は感嘆したが、その感覚は長く続かなかった。島津軍が撤退を始めた。秀久はその隙を突いて追撃をかけた。ところが、島津軍は反転し、再び襲い掛かってきた。秀久はまたしても敗北した。

「何故、勝てぬのか?何が足りなんだ?」

秀久は自問した。秀久には分からなかった。ただ、自分が弱くなっていることだけは分かった。


「追撃をかけるぞ!」

「追撃だぁああ!!追撃せよ!!!」

家久は追撃を命じた。羽柴勢は潰走した。その勢いのまま、九州から追い出すつもりであった。


秀久は軍監として撤退の取りまとめをせず、自己の家臣団だけで領国に引き上げてしまった。「仙石は四国を指して逃げにけり 三国一の臆病の者」と詠まれた。秀久は真夜中に悲鳴を上げ、冷や汗でべとべとになって悪夢から目を覚ました。


「この馬鹿者が!余計なことをしやがって」

勝手に攻撃して勝手に敗北した秀久に秀吉は激怒した。秀吉の側近達も秀久を罰する必要性を認めた。

「軍令違反を犯したことは事実です」

「関白殿下の御命令に従うよう厳命致しました。にもかかわらず、このたびの失態……」

「殿下のお言葉に逆らうなど臣下としてあるまじきこと」

「この卑怯者め! おぬしは、それでも武士か」

「いやあ、面目ない」

秀久は改易となった。


元親は引田の戦いで秀久を叩きのめした。しかし、その秀久のせいで島津攻めでは痛恨の被害を出してしまう。嫡男の死で元親は何を食べても美味しく感じなかった。野菜は金属臭く、米は無味であった。槍働きばかりが頭にある秀久が原因で長宗我部が没落してしまうことは忍びない。江戸時代に残ったのは仙石家だった。歴史の不合理を感じる。


どんな悲惨な状況に陥っても前向きに頑張る姿勢が明暗を分けたならば、頑張ることを強要する特殊日本的ガンバリズムの世界になってしまう。最早、焼け野原から経済大国にしたような前に進むことしかできない姿勢を自慢する時代ではない。


「勝った……勝ったぞぉおお!!」

「お見事でございました!」

戸次川の戦いの勝利が伝達されると、島津の家臣達は喜びを隠せない様子だった。

「うむ……」

だが、島津義弘の表情は晴れない。島津軍の被害状況を確認した。

「これほどの被害を出すとはな……」

義弘の顔色は優れなかった。

「兄者よ。如何なされた?」

「いや、何でも無い」

義弘は首を振った。頭を切り替えることにした。今はまだ戦いの最中なのだから。


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