断罪は迅速に…。(リリアーナとレオンフィード皇太子)
リリアーナ・クレール伯爵令嬢は、とても機嫌が良かった。
今日は、王立学園の卒業パーティである。
リリアーナは、この国の皇太子レオンフィードの婚約者であるのだが。
リリアーナは1年生であるが、皇太子レオンフィードは、3年生。卒業するのだ。
長かった…
そう、この卒業パーティが終われば、リリアーナの真に楽しい学園生活が始まるはずなのだが。
「リリアーナは兄上の婚約者にふさわしくない。私は、この男爵令嬢マリヤを兄上の婚約者に勧める。」
卒業パーティでいきなりそう叫びだしたのは、この国の第二皇子、ヘンリーである。
そして、その言葉に会場全体が凍り付いた。
機嫌よく、ドレス姿のリリアーナの肩を抱き寄せて、生徒達の保護者と話をしていたレオンフィード皇太子が、絶対零度の微笑みで、ヘンリー第二皇子を見た。
「何を根拠にそのような事を言い出すのかね?ヘンリー。」
ピンクのふわふわの髪のそれはもう、儚げに見えるマリヤは涙を浮かべて、
「私から申し上げます。リリアーナ様に教科書を隠されました。それから、私を階段から突き落とそうとしたり、それはもう怖い事を。そんな怖い方が皇太子殿下の婚約者でよろしいのでしょうか。」
レオンフィード皇太子は、お付きの者に、何やら指示をする。
そして、ヘンリーとマリヤに向かって。
「それはおかしい。リリアーナと君とはクラスが違って離れているはずだ。
教科書を隠すとは?いつ無くなったのかね?」
「一週間前です。」
「リリアーナがやったという証拠は?」
「廊下をすれ違った時に暴言を言われます。私のような元、平民が来るような所ではないと…。そのような方が未来のこの国の皇妃だなんて、私でしたら、皇太子殿下を優しく癒すことが出来ます。」
レオンフィード皇太子は、ギロリとマリヤを睨み、
「リリアーナは、毎朝、私と馬車で熱い抱擁をした後に、すぐに教室へ向かい、
授業の休み時間は、トイレに行き、姿形を整えた後、教室へ戻って、ミレーユ・カディア伯爵令嬢と談笑の毎日。昼休みは、俺と、食堂で食事をし、午後の授業が終わった後は、最近は皇妃教育の為、俺と一緒に皇宮へ馬車で直行しているが?
教室が離れている君とは、どこで接点があるというのだ?」
リリアーナがぼそりと。
「毎日、休み時間になると、レオンフィード様、トイレに行く私に声をかけて抱き締めてくるし、教室を覗いているんですから、
どこに…マリヤさんに暴言を言う時間があると…???」
「ええと、街で会った時ですっ。街であった時に暴言を、そして、階段から突き落とされそうになったんです。」
マリヤの言葉に、レオンフィード皇太子は、
「街で会った?リリアーナが街で買い物をするときには、必ず、俺が一緒のはずだが??後、ロマンティックな曲を奏でるバイオリン隊と、美しい花を撒く演出隊も同行している。君と会った覚えはないのだが。」
その時に、部屋に裁判官が飛び込んで来た。
レオンフィード皇太子は、皆に向かって。
「これから、裁判を行う。まずは、ヘンリー。いかに外国へ留学していたとしても、
この女の甘言により、リリアーナを貶めようとしたことは万死に当たる。」
「あ、兄上。マリヤは癒されるのです。上に立つ者は癒しが必要です。」
「ふふん…。影の者。マリヤという女の一週間の行動履歴をよこせ。」
「かしこまりました。」
書類を手にレオンフィード皇太子は、
「まずは月曜日、夕方17時11分29秒に、レイソン商会の長男ハデルと、公園の入り口で待ち合わせ。二人で草むらで消える。出てきたのは、18時23分22秒。
次は火曜日。ミゲル伯爵令息シオンと、午後15時23分36秒、映画館の前で待ち合わせ、
17時10分12秒。談笑しながら隣接する宿へ向かう。17時13分15秒…。」
ヘンリーが叫んだ。
「マリヤっ…君はっ…」
「違うわっーーー。でっちあげよ。」
レオンフィード皇太子はぎろりとヘンリーを見やり、
「これがお前の癒される女か???何だったら木曜日のこの女の行動を今、発表しようか。お前と何時に会って、どうしていたかをな。」
ヘンリーはガクリと膝をついた。
レオンフィード皇太子はヘンリーに言い渡す。
「第二皇子ヘンリー。我が弟ながら、悪女にたぶらかされるとは、辺境の国境警備隊に行って2年間、鍛えられてくるがいい。」
ヘンリーは手際よく、簀巻きにされ、騎士達に連行されていった。
そのまま、辺境へ連れて行かれるであろう。
レオンフィード皇太子はマリヤをギロリと睨み、
「マリヤ。マリヤ・キャリッド男爵令嬢だったな。」
その時、マリヤの両親が、すっ飛んできて、土下座する。
「どうかお許しをっーーー。」
「申し訳ありませんっーー。」
レオンフィード皇太子は、二人に向かって。
「リリアーナを陥れようとした罪は何よりも深い。男爵家は断絶とする。」
「ひえっーーーーー。」
そして、断罪を言い渡す。
「マリヤ・キャリッド。リリアーナに対する名誉棄損、心を傷つけた傷害罪、
弟を陥れ自ら、俺を篭絡しようとした皇家乗っ取りをたくらんだ罪。
許すわけにはいかない。裁判官。判決は?」
裁判官は慌てて、
「死刑でしょうな。」
レオンフィード皇太子の手に、騎士団長令息が刀を渡す。
マリヤは真っ青になり、
「いやよーーーっ。私は悪くないわっーーーーー。私の方がふさわしいのよっ。」
リリアーナは青くなって、
「卒業パーティを血で汚すのは、いけませんわっ。レオンフィード様。」
「確かにそうだな。」
騎士団員達が、マリヤの口に猿轡をし、簀巻きにして、手際よく、会場から連れ出す。
その後、速攻で死刑にされるであろう。
レオンフィード皇太子は、リリアーナを抱き締めて、
「このような物騒な学園に君を残しておいてはいけない。
これからの君の教育は、妃教育と合わせて、皇宮で行う事とする。いいな?」
「はい…。」
もう…なんなのよ。あの女は…やっとやっと、学生らしい自由な学園生活が送れると思ったのに、皇太子殿下の束縛がっ…さらにひどくなったような。
そう、このレオンフィード皇太子、リリアーナにとてもとても執着しているのだ。
ちなみにストーカーとも…。
我慢できずに懲らしめた事もあるのだが、結局、リリアーナにべったりするのは、おさまらなくて。
リリアーナは天に向かって叫ぶのであった。
私の学園生活を返してっーーーーーーー。