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僕たちの未来

作者: 雪河馬

東京の夜の空に満天の星が輝いていた。

僕たちは美しさに立ち止まって星空を眺める。

「寒いね」

香奈がそう言ったので、僕は彼女を抱き寄せた。


「・・・・行こうか。」

「うん。」

僕たちは歩き出す。


ある日、突然ミサイルが飛んできて僕らの国は破壊されてしまった。

どこの国が何のためにやったことなのか、はっきりとしたことは分からない。

それを伝えるメディアもないし、インターネットも繋がらない。

はっきりとわかっていることは、日本は世界から見捨てられたと言うことだけ。


あれからもう何ヶ月経ったのだろうか。

僕は香奈と一緒に、ただ生き延びるために生きていた。

極限に追い込まれたとき、そこにはなんの主義主張もない。

あるのは生存本能だけで、僕たちは一日一日を必死で生きてきた。

僕が人間らしさを留めていられるのは、それは香奈の存在。

もし、彼女を失ったら・・・・、僕は一匹の獣と変わらなくなるだろう。


香奈は立ち止まり目を閉じて、右の方を指差した。

「あの場所の地下に食べるものがある。」

指差した方角をみると崩壊したビルの前に地下鉄の入り口を示す標識が傾きながらも残っている。

僕たちは瓦礫の隙間から階段に辿り着き、地下に降りていった。


電気の途絶えた地下街は暗く、非常灯はもう点灯していない。

僕たちは懐中電灯の灯りを頼りに広い地下街を進む。

所々瓦礫は散乱しているが思ったより被害は受けていないようだ。

焦点も荒らされた様子がないし、スーパーマーケットを見つければ食料や水の確保もできそうだ。


それより、誰か生き残りがいるのではないだろうか。

「誰かいませんか。」

僕は三回声をはりあげて呼んでみたが、虚しく反響するだけで返事はなかった。


諦めて立ち去ろうとしたとき、香奈がなにかを感じたようで、僕の服の袖をひいた。

「あっちに誰かいる。」


シャッターの降りた店舗から微かに光が漏れている。


僕たちは光の方向に進んだ。

右側の非常扉にたどり着く。

僕は足音を立てないように近づき、シャッターに耳を当ててみる。

人の気配を感じる。

非常扉に手をかけて扉を思いきりよく開けた。


最初に僕の目に飛び込んできたのは、積み上げられたおびただしい量の缶詰とペットボトルの水だった。

見渡すと酒や本や菓子もそこらじゅうに散乱している。

缶詰の山の向こうから男の声がした。


「おや、お客人かね。」


声のした場所を覗き込むと、白髪頭の中年の男が缶詰に埋もれ、寝転がって本を読んでいた。

男はそのままの体勢で言った。


「ここには分けてやれる食料はないぞ。私があと5年、生活できるだけの食料と水、そして本を備蓄してるんだ。食糧が欲しければ、ここから東へ30m行ったコンビニに行きたまえ。略奪されてなければまだまだ残っているはずだ。」


男の拒絶するような態度に少し腹が立ったが、言葉ほど攻撃的には見えない。

あの日以降、生きている人に会うのは初めてだ。

この人なら何か知っているかも。


「ありがとう、あとで行ってみます。ところで、今回の戦争のこと何かご存知ですか。」

男は本から目を離さずそのままの姿勢で答えた。

「これは戦争じゃない。大虐殺(ジェノサイド)だ。」

男は身を起こし、奥へと向かった。

「気が変わった。コーヒーくらいは飲ませてやろう。こいつは余分に確保しているからな。」


久しぶりに飲む温かい飲み物は美味しかった。

「これどうやってお湯を沸かしてるんですか。それにライトも。」

「お湯はカセットボンベだ。そこら中にあるぞ。発電機の方は見つけるのに少し苦労したな。」

「美味しいです。このコーヒー。」

僕は香奈の方を見た。

熱い物が苦手な彼女は湯気を吸い込むようにマグカップを抱え込んでいた。

「この先にうまい喫茶店があってね。そこのコーヒーを少々な。」

「あの日、他に生き残った人はいなかったんですか。」

「この地下街での生存者は176名。一次攻撃が終わって3日後に130名が外に出ていき、そのまま帰らなかった。残りの46名のうち私を除く45名は軍隊に拉致された。私はこの店の戸棚に身を隠してたから助かったけど、君たちはどうやって助かったんだね。」


「大学の地下の実験室で泊まり込んでたんです。出てきたらこんな状況になっていて。」

「外には軍隊はいたかね。」

「いえ、一度も会ってません。」

「そうか、運がよかったんだな。もう、めぼしいものは残ってないとやつらも判断したんだろう。」

僕は男に尋ねた。

「やつらって誰かわかってるんですか。」

「はっきりとはわからんが、やつらの目的はわかる。ミュージェネだ。」

僕の額に冷や汗が流れる。香奈が僕の手を握ってきた。


僕たちの様子を気にすることなく男は話を続けた。

「日本でのミュージェネの出生率は30%と他国に比べて高い。やつらは恐れたんだよ。ミュージェネの存在によってミリタリーバランスが崩れるのをね。だから、古き友人はそれを大義名分にして先制攻撃をしたんだろうな。」

僕の心にどす黒い怒りがこみ上げる。だめだ、心を平静にしないと。

香奈の僕の手を握る力が強くなり、暖かい感情が伝わってきて僕は落ち着きを取り戻した。


「どのみち、日本はもうダメだろう。私は元々ひとりだからね。この部屋で生きれるだけ生きていこうと思う。君たちはどうするんだ?」

「僕たちは、他に生き残っている人がいないか探してみようと思っています。」

「そうか、気をつけていくんだな。」


コンビニまでいき、リュックに詰めれるだけ詰め込むと僕たちは外に出た。


あの男は5年間分の食糧を溜め込んでいると言った。

そのあと、彼はどうするのだろうか。


香奈の目にうっすら涙が浮かんだ。

「彼には読みたい本がある。それを全巻読み終わるまで彼は生きているつもり。」

僕は香奈の頭を軽く撫でた。


僕はやつらのことを甘く見ていたらしい。

もしやつらが僕らを捉えようとしても香奈が気づくと思っていた。


でも、彼らはミュージェネを巧妙に騙す手口を知っていて、気がついた時には軍服を着た男たちに囲まれていた。

「動かないで・・・、あなたたちを捕獲します。」


僕の中の抑えていた怒りが爆発した。

「なんなんだよ、お前たちは。いったいなんなんだよ。俺たちの国を無茶苦茶にして。俺たちの家族を殺して。いったいなにがしたいんだよ。」


兵士たちが一斉に銃口を僕に向ける。


リーダーの男がそれを手で制し、僕たちに向かって言った。

「それはトップの決めたことなので私たちにはなんとも言えません。ただ、あなたたちはひとつの国家が独占するには危険な兵器なのです。」

「僕たちは人間だ。兵器じゃない。」

男はやれやれと言った表情で両手を広げた。

「あなたたちはそう思っているかもしれませんが、私たち持たないものにとってはそうじゃないのですよ。あなたは、”暗黒のハロウィン”をご存知ですね。」


”暗黒のハロウィン”・・・・。

それはミュージェネが初めて社会に認知された事件だ。

ハロウィーンの日、渋谷で15歳の少年の能力が突然暴発し、死者こそ出なかったが負傷者者130人を出した事件。

テレビや動画サイトで宙に舞う自動車や看板の映像がセンセーショナルに流された。

この事件がマスコミに報道されると同時に、パンデミックのように各地に超能力を持った少年少女、ミュージェネが現れはじめた。

その年をミュージェネ元年と呼ぶ。


「でも、僕たちは日本政府によって能力をコントロールされていたんだ。あれから大きな事件は起きていない。」

「そう、まさにそれなんですよ。全世界のミュージェネの半数以上が日本政府のコントロール下にあることが問題なのです。あなたたちは核融合を止めることすらできます。その逆もですね。」


リーダーが合図を送るとともに、兵士の中から白い服を着た男女3名が表に出てきた。

彼らは日本人のようだが、目がうつろでまるで意識というものを感じない。

香奈がメッセージを伝えてくる。

「彼らからまったく意思を感じない。心が閉ざされている。」


リーダーの男はマイクを取り出す。

「この人たちを拘束しなさい。フォーメーションAです。」

その指示と同時に強烈な重さで体が押し潰されそうになる。

念動力(サイコキネシス)だ。

まるで頭を巨人に押さえつけられているようだ。

隣の香奈も僕と同じように苦しんでいる。


「この人たちに何をした・・・。」

僕は喘ぐような声で言った。

「レベル5の超能力者です。意思疎通しようとしても無駄ですよ。」

リーダーの男は右端の女性の髪を掻き上げる。

そこには数センチの手術痕があった。

「ちょっとした手術を受けてもらいましたので。」


もう、いいだろう。知りたいことは全てわかった。

「香奈、ロックを解除してくれないか。」

香奈は頷き、僕の頭から出て行った。


僕はサイコキネシスを軽々と跳ね返す。

その反動で周りの兵士たちも同時に3メートル以上弾き飛ばされた。


リーダーの男は蒼白になり、口から泡を吹きながら喋った。

「そ、そんなはずがない。お前たちはレベル5以上だというのか・・・。」


僕はゆっくりと彼らを見回す。

「僕のサイキックレベルは計測不能らしいよ。だから今までずっと大学の実験室に隔離されてたんだ。ミサイル攻撃がなかったら僕は一生外に出られなかった。そういう点では君たちに感謝しないとダメなんだろうね。でも・・・・・・。」

僕の怒りを彼らも理解したのだろう。もはや銃を構えることすらできず、彼らは這いつくばっていた。


そして僕は能力を解き放つ。

強大なエネルギーが身体を駆け巡り放出され、地鳴りが起きる。


「君たちの本国の軍事施設は全て破壊した。嘘だと思うなら本国に連絡してごらん。」

リーダーの男が青ざめた表情で無線で連絡をとろうとするが、繋がらない。

男は僕に銃口を向けて睨みつけた。

「貴様、なんてことをしたんだ。我が国の軍事力が消滅したら、第三次世界大戦が起きるぞ。」

「じゃあ、君たちは日本に何をしたんだよ。」

ぼくは香奈に合図を送り、彼女はサイキックを含む兵士たちの心を縛った。

兵士たちは脱力し、完全に倒れ伏した。


「君たちの体は24時間は動けない。僕たちはいかせてもらう。」

リーダーの男が苦しそうな表情で僕たちの方に手を伸ばそうとした。

「待て、お前たちはどこへいくんだ。」

「さあ、今はわからない。でも、僕たちの未来は、君たちオールドジェネには絶対に渡さない。」


香奈はすでに僕の心にロックをかけた。

彼女がいないと僕は自分の能力を制御できないのだ。

”暗黒のハロウィン”事件の犯人は僕だ。

そして香奈は僕の能力を封印するため日本政府から派遣されたテレパス。

でも、今は彼女の存在自体が僕のブレーキとなっている。


僕たちは東京の満点の星空の下を二人で歩いて行く。

僕たちの明るい未来はまだ見えない。


とりあえずサイキック系のお話でまとめてみました。

ホラー要素は5%くらいしかない気もしますが・・・・。


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