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あれから……
一通のメール。差出人は乙武健。内容は、簡単に言えば飯の誘い。
あれから、僕のことを気にかけてくれた健とは仲良くやっている。他にも、僕が積極的に話しかけるようにしたら、友達と言えるような人間もそこそこできた。
来年は大学を卒業する。今でも写真家になりたいという夢は変わらない。父親との仲も良好。
僕がこうやって変わることができたのも、全部彼女のおかげだ。隣に立っている墓石を見ながら、そんなことを思う。
あの時手術が成功していたら、どうなっていただろうか……?
もしかしたら、付き合ったりしていたのかな?
そんなもしものことを考えるが、とっさにかぶりを振る。もしもの時を考えたって、なんの意味もない。
もう彼女はいないんだ……。また泣きそうになる目を抑える。僕は立派になれたかな?
今の僕を見たら彼女はなんていうかな?
ちゃんと「立派になったね」って言ってくれるかな?
目頭に浮かぶ涙を必死に堪えながら、鞄に入っているカメラを取り出して、僕は夕焼け空を眺める。儚くて美しい、彼女を表したようなその空模様を、パシャリと写真に焼き付ける。




